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 警備システムの設定変更諸々のため、メリッサさんも連れ立って全員で階段を駆け上がる。あと普通に一人残すのは流石に怖いしそっちのが危険だろうしね。ひ〜ん、ヒールめんどいよお。

「メリッサさぁん、足行けそ〜?」
「ええ! ありがとう磨さん!」

 カツカツカコカコ、ヒールが音を立てる。もう折りたい。メリッサさん、めちゃくちゃ根性があるな。ええ子や……。とはいえ最上階は200階。現在まだ30階を超えたところだ。

「手つなご」
「……ええ! ありがとう!」

 そうおねだりして、ピンクのマニキュアが施された手を取った。気付かれない程度に身体強化のバフをこっそりかける。なんか今日調子いいな! くらいにはなるでしょ。あと回復力も高めておいたので、筋肉痛がマシになると思う。大事〜。

「緩名、その靴大丈夫か?」
「え、うん、私はまあいける」

 思い出したように先を行く轟くんが振り返って、問いかけてくれた。私はわりとバフかけれるし、意外と運動神経もあるので大丈夫だ。女子みんなヒールなのに私だけ? って思ったんだけど、私のヒールが細くて高いせいだろう。殺傷能力高め。ストラップ付いてるパンプスでよかった〜。ストラップレスだったら流石に死んでた。
 それからカツカツと駆け上がっていき、55階の表示が見えた頃。普段から規格外の運動や訓練をこなしている私たちとは違い、メリッサさんに遅れが見え始めた。しんどいよね。普通の女の子が、普通に200階の階段を登るだけでも気が遠くなるのに、しかもヒールで、しかもダッシュだ。絶対5kgくらい落ちる気するもん、こんなの。最悪おぶるから任せて欲しい。……緑谷くんが。

「メリッサさん! 私の個性使おうか!?」
「ありがとう! でも大丈夫!」

 その力はいざと言う時にとっておいて! とメリッサさんは笑顔でヒールを投げ捨てて駆け上がった。本当に根性がすごい。強い女って、こういう人のことを言うんだろうなあ。

「本当にしんどくなったら、楽にするから言ってね」
「ええ!」

 肩で息をするメリッサさんと手を繋ぎ直して、その手を引っ張るように駆け出した。



 80階にたどり着くと、そこから上へのシャッターが閉ざされていた。まあ、そうだよね。最上階に敵がいるなら、そこへの道は念の為閉ざすだろう。

「どうする、壊すか?」
「そんなことをしたら、警備システムが反応して、敵に気付かれるわ!」

 なかなかに脳筋な轟くんの提案を、メリッサさんがすぐに切り捨てる。そりゃそう。でも、どうしようか……侵入口になりそうなもの、あるかな。きょろ、とあたりを見渡していると、フラフラな小さな影がレバーに手をかけているのが見えた。

「あ! 峰田くん!?」
「峰田くん!」
「ダメ!」

 扉は開いた。開いた……けれど。これは確実に。

「バレたなあ、これ」

 強盗に入りにインターホン押したようなもんだ。今頃監視カメラかなんか、作動して見つかったに違いない。もうそうなったらさ。

「……行こう!」
「そうだな!」

 悠長に戻ってる暇もない。緑谷くんの言葉を皮切りに、私たちは開いた扉から中へと侵入した。
 反対側に、同じ構造の非常階段があるらしい。とりあえず目指すはそこ、そこのシャッターも閉められていたら、その時はもう……って感じだよね。爆発オチなんて最高じゃん?

「急ぐぞ!」
「あらー」

 次々に目の前のシャッターが閉まっていく。あらら、手遅れ。こういう時に何いってんだって感じだけど、このシャッター次々閉まっていく感じ、バイオっぽいよね。
 閉まるシャッターを轟くんが氷で抑え、飯田くんがその向こうの扉を蹴って破る。おお。いいね、ド派手で。こっからはド派手にいくぜ。

「ここは!?」
「植物プラントよ! 個性の影響を受けた植物を研究、」
「待って!」

 個性の影響を受けた植物、か。……期末の時の私がしたみたいな感じとかかな? 結構参考になりそうだから、解決して時間があれば見てみたいな、なんて思いながら、上がってくるエレベーターを睨み付ける。クソ、私たちのダッシュの努力を返せ。ムカつく。おまえらも階段ダッシュしろ! まじで肺破裂するかと思うくらいしんどいんだからな!
 ひとまず全員で、エレベーターの見てる位置に隠れた。なんせ一応、「戦わない」が条件だ。そもそも、未成年でヒーロー免許もない私たちが、武装している敵相手に適うか、はわからないけれど。相手の実力も数も未知数だし。ポーン、と開いたエレベーターから出てきたのは、小さいと大きいの最悪なポプテピピックみたいな二人組だ。

「こっちにくる……!」
「静かに……!」

 口元を抑えて震えるお茶子ちゃんに、飯田くんが注意した。隣に座り込んだ轟くんと、顔を見合わせる。……何かあった時のために、一応個性にバフかけといてもいいかな。今この中だと、対敵で拘束できる個性といえは轟くんだし。

「!」
「いちおー、ね」
「……」

 轟くんに触れて、少し強めに個性の強化をかける。驚いた目で見られたけれど、一応、だと念押しすると、轟くんは静かに頷いた。理解が早くて助かる。……百に麻酔銃とか、作ってもらえないかな。銃じゃなくても、嗅ぐだけで眠らせれるようなものとか。提案しようと、クイ、と百の袖を引いた時だった。

「見付けたぞ! クソガキども!」

 見つかった。こりゃもう先手必勝でしょ、とせめて弱体化のデバフで一人だけでもほぼ無力化しようとしたところで、これまた別の声が響いた。

「アァ!? 今なんつったてめェ!」
「えっ」
「いやガラ悪」
「磨さん……!」

 聞きなれたどクソガラの悪いその声に、思わず小さくだが声を上げてしまって、慌てて百に抑え込まれる。いや、だって、さあ! え、爆豪くん!? なんでここにいんの!? 茂みから覗くと、爆豪くんと切島くんが堂々と敵と向かい合っていた。隠れる気ゼロじゃん。スパイ適正ゼロ?

「おまえらここで何をしている」
「そんなの俺が聞きてェわ」
「いやなんねやねん」
「緩名……!」
「ここは俺に任せろ! な!」

 爆豪くんのいやなんでやねん、って台詞にいやなんでやねん、と心のまま突っ込んでしまったら、轟くんにまで咎める視線を向けられた。同時に大きな手で口を塞がれる。いやでも、あれはなんでやねん!? になるじゃん。傍若無人かよ、爆豪くん。

「あのー、俺ら道に迷ってしまって! レセプション会場ってどこにいけば……」
「んっふ……」

 口塞がれてて正解だったかもしれない。そんな言い訳があるか? この笑っちゃいけない状況の時に笑わせようとするの本当にやめて欲しい。普段ならへ〜、って呆れて終われるのが妙に面白くなるから。どうやったら80階まで迷い込むのか、調べてみました! 調べてみましたがわかりませんでした! いかがでしたか? アフィまとめサイトの一連の流れまでを脳内で組み立ててしまっている間に、顔を見合せた敵の片方の腕が、巨大化して風圧を切島くんたちに向かって飛ばした。

「切島くん!」
「わっ、」
「緩名さん、!」

 それと同時に、塞がれていた手が離れて、その手にトン、と突き飛ばされた。緑谷くんに身体を受け止められた一瞬後、ひんやりと冷たさが広がった。

「轟!?」
「ないす〜」

 風を塞いだ氷塊に、爆豪くんたちもこっちに気付いたらしい。ひとまず見た感じ怪我はなさそうで、ちょっとだけ安心。

「俺たちで時間を稼ぐ! 上に行く道を探せ!」
「轟くん!」
「君は!?」
「いいから行け!」

 轟くんが氷壁で私たちを上に押し上げる。ここを片付けたら、って言うけれど、いくら残った三人が強くとも数の有利はあった方がいいと思う。……いや、轟くんとか爆豪くんとか、スタンドプレー向きだし、かえって邪魔になっちゃうかな。なら、と三人に向かって、身体強化と個性強化のバフをかけた。

「怪我しないでね〜!」
「ああ!」
「誰に向かって言っとんだボケ!」
「かっちゃん……」

 状況は把握してないのに怒鳴られた。爆豪くんマジ爆豪くんって感じだわ。爆豪クオリティ。少しふらつく足場に、私を支えたままだった緑谷くんの力が強くなった。



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