先生とスカート丈



「くっそ寒い」
「アンタ見てたらむしろ暑いわ」
「んなことないでしょ〜?」

 移動教室の廊下ってなんでこんなに寒いんだろう。階跨ぐ移動とか特に最悪。階段超寒い。学校指定外のカーディガンの袖をギリギリまで伸ばして、腰にはブランケットを巻いているのにまだ寒い。雄英、全面空調管理してよ〜。お金あるからできるでしょ〜。

「お昼どうすんの?」
「ウチ食堂行く」
「ん〜……寒いし教室でいいや、私」
「おっけー。アタシも食堂行ってくる」

 パンがあるから別に今日はわざわざ寒さ乗り越えて食堂まで行くのもめんどくさい。三奈と響香はそのまま行くみたいで、ばい、と別れる。ひ〜寒い。ハア、と悴む指先に息を吹きかけると、後ろからオイ、と呼ばれた。振り向くと先生が。

「……おまえ、流石にそれはどうなんだ」
「え〜だってぇ、寒いんだもん」

 それ、と腰に巻いたブランケットを手に持ったバインダーで指される。今日はかわいい猫ちゃんがお昼寝してる柄だ。かわいいっしょ。

「しかも何で留めてんだ」
「え? 洗濯バサミ。合理的でしょ?」
「……スカート長くすればいいだろ」
「や〜、雄英元からわりと長くないし、私切っちゃったし」

 ね、伸びないの。と、洗濯バサミを外してスカートの丈をぐいぐいと見せ付けると、先生は頭を抱えてハア、とため息をこぼした。幸せ逃げるよ。

「せめて移動の時は外しなさい」
「移動の時が一番寒いんだもん!」
「タイツ履けよ」
「やだー! 生足がいいー!」

 耐えられないくらいの寒さになったらタイツ履くけど、せっかく若く生まれ直したんだから出来るだけ生足で頑張りたい。まあこの決意はわりとすぐ折れますが。

「先生はいいよねえ、暖かそうで。首元モコモコだし」
「捕縛布をマフラーみたいに言うなよ」
「私もマフラー巻こうかなあ。梅雨ちゃんスタイル!」

 蛙の梅雨ちゃんにとっては寒さは天敵だから、冬の梅雨ちゃんはもこもこもふもふスタイルだ。かわいい。それでも眠そうにすることが多いけれど、個性の影響もなかなか大変だよねえ。隣に並んだ先生を見上げると、外に出ていたのか鼻の先が少しだけ赤くなっていた。先生も寒いんじゃん。あ、そうだ。

「てーい。……あ、ぬくい」
「……先生で暖を取るんじゃありません」

 ずぼっ、と捕縛布の隙間に手を突っ込んだ。やっぱり結構温い。保温されてる。でも、手触りがなんとなくゴワゴワというか、硬い感じが凄い。

「捕縛布ってさあ、なんかやっぱ硬くて手触り微妙だよね」
「素材が素材だからな」

 さっさと抜け、と肘の辺りを掴まれてサッと退かされた。けちんぼ。

「はあ〜あ、明日25度くらいにならないかなあ」
「そりゃ異常気象だ」

 窓から外を眺めると、冬の空はどんより暗い。また雪とか降ったらキツいよね。そうこうしている内に、教室の前までたどり着く。先生はこのまま職員室に向かうらしい。ホームルームまでしばしのお別れだ。

「ちゃんとご飯食べてね」
「……俺のセリフだろ、それ」
「ふふ、次からはジャージはきまーす」

 そう言いながら教室の扉を開けると、呆れたように眉尻を下げた先生が、ひらりと一つ手を振った。





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