心操くんとキス※



 わしゃ、と心操くんが私の髪を撫でた。トリートメント後の髪は、まだ少し湿っているとはいえ、ツルツルのサラサラだ。大きな手がわしわしとマッサージするように頭皮を揉んできて、絶妙な力加減が気持ちよくて身体から力が抜ける。やば、溶けそう。

「マッサージうまいよねえ……」
「まァ、勉強したからね」
「まじめだねえ」

 あー、そこそこ、と呻きながらテーブルに置かれた水のペットボトルに手を伸ばす。ひんやりと冷たくて、外側についた水滴が手を濡らした。

「疲れてるね」
「あ〜、ん、ちょっと、そうかなあ……忙しかったから……。しんそーくんは?」
「俺は今癒されてる」
「ふふふ、なにそれぇ」

 緩い笑いをこぼすと、頭に触れていた手がお腹に回って、洗いたての髪に鼻先の触れる感触がする。すう、と心操くんがそのまま息を吸い込んだ。

「シャンプーの匂いする?」
「うん」

 男の人って謎に頭皮の匂い好きだよね。いい匂いなのはわかるけど、そんな嗅ごうとは思わないもん。それから、抱き上げられて、ソファに座った心操くんの膝の上に下ろされる。あんなひょろひょろだった子が、なんの苦もなく人一人持ち上げれる程に育っちゃってまあ。心操くんの吐き出す呼吸が、耳元を揺らす。ぺったりくっついた背中から、穏やかな心音が伝わってきた。規則的な鼓動が気持ちが良くて、落ち着く。力を抜いて、背後の心操くんにもたれかかった。

「ふふ」
「どうしたの」
「や、心操くん、めちゃくちゃ優しい顔してるから」

 そう言うと、少し恥ずかしげな顔をした。かわいい。シャイボーイだ。あ、もうボーイなんて年ではないか。
 心操くんを見つめながら数度瞬きすると、額、まぶたや鼻の先に、やんわりと唇が触れていく。丁寧に落とされる唇も優しくて、愛しくなってしまう。

「心操くん、」
「うん」

 甘えた声で呼ぶと、お腹に回っていた手が頭に回って、支えられる。外国の子どもの戯れのように、唇が触れ合った。

「ん、……、」

 何度も角度を変えて、ちゅ、と小鳥の啄みみたいに軽く唇が重なる。少しだけ、カサついた感触。潤すみたいに、すこし厚い下唇に舌を這わせて、唇で挟んだ。そのまま、ちゅうちゅうと吸い付いて離すと、ちゅぱっとかわいい音がする。
 紫の瞳が開いて、それからまた閉じて、もう一度重なった唇。今度は、さっきよりも深いヤツ。口を開くと、差し込まれた舌を迎え入れる。熱くて長い舌が、器用に私の口腔を甘やかしていく。頬の内側を擦られる感触に、大きな肩にしがみついた。

「ふ、ぁ、っん、」

 絡ませあった舌を優しく吸われ、ぴり、と静電気のような感覚が身体を巡る。乱されているのに、重なる温度に、どこか安心した。

「……大丈夫?」
「うん、」

 少し息がしんどくなってきた一度口を離すと、混じりあった唾液が、短く糸を紡いでぷつ、と千切れた。その濡れた感触を、心操くんの長い指が拭う。背中に回る腕が、落ち着かせるように擦る仕草は優しいのに、ギラつく瞳の色を隠しきれていなかった。

「……ベッド、行く?」
「……ん」

 掠れた低い声に一言、頷いて、昔よりも太くなった首に抱き着くと、少し緩んだ表情で、しっかりと抱き上げられた。




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