轟くんとキス※



※同棲軸


 まつ毛の先までしっかりマスカラを塗って、最後にリップだ。SNSで大バズりした新作のリップを、ベースを塗った唇の上にしっかり塗って、ぱっ、と唇を合わせて馴染ませる。……うん、めちゃくちゃいい。かわいい。後は髪の毛巻いて〜、あ、ハーフアップにしようかな。うん、そうしよ。なんたって今日は久々にお休みが被ったので、ほんっとに久しぶりのデートなのである!

「終わったか」
「うん! ……ね、見て、かわいいでしょ?」
「ああ、かわいい」
「もー! 焦凍くん、ちゃんと見てないでしょ!」
「見てるぞ」

 後ろからかかった声に振り向くと、そこには既に準備万端の焦凍くんがいた。普段はあんまりセットしない髪を、真ん中で分けただけだけど、新鮮味があってとてもいい。かっこいい。無限に顔がいい。私の彼氏最高。さっきから何度も見てるけれど、何度見てもかっこいいので幸福感マシマシだ。両手を広げると、すぐにぎゅうと包み込まれた。

「かわいいな」
「あ、もー……ん、」
「かわいい。……甘え」
「ふふ、も〜」

 私の頬を大きな手で包み込んだ焦凍くんは、ちゅ、ちゅう、と唇に吸い付いてくる。せっかく塗ったリップも、情熱的な唇に全て奪われてしまう。ちむ、と食まれて、ああもう絶対これ全部落ちた。

「口紅落ちちゃうでしょお」
「悪ぃ。かわいすぎたから」
「ええ〜? ……焦凍くんにもリップ、ついちゃった」
「お」

 小さめのお行儀のいい唇が、ツヤツヤとリップを纏って輝いている。焦凍くんはぺろりと無造作に移ったリップを舐め上げた。

「これ、美味いな」
「でしょ? 美味しさもウリだからね」
「そういうのもあるのか」
「それは嘘だけど」
「……嘘なのか?」
「……」

 見つめてくる瞳がかわいくて、思わず黙るとまた唇へ吸い付いてくる。片手は頬に、もう片手を腰に回されると、抵抗のしようがなかった。少しだけのしかかられて、ドレッサーに乗り上げる。まだ部屋着のままだったせいで、大きめのシャツの隙間からゆるりと腰を撫でられた。舌を吸われ、吸い返すと、ハ、と官能の匂いを纏う焦凍くんの吐息が耳を撫でる。……だめだめ、だめだ! 流される!

「焦凍くん、ねえ、時間、ん」
「うん」
「私、髪巻きたいし」
「ああ。……あと、ちょっとだけ」
「も〜!」
「お」

 言ってもキスを止めない焦凍くんの頬をむにゅっ、と両手で挟むと、ふ、と柔らかい笑みを落とす。学生の頃から悩殺スマイルだったけど、さらに磨きがかかりすぎてる。クソ〜! この顔に抗える人類、連れてきて見てほしい。ほぼ無理だから。むにゅむにゅ頬を潰してタコの口にさせてみるけれど、変顔させても綺麗なんだから適わない。

「外だと出来ねぇから」

 悪い、と焦凍くんは私の腰に抱きついてきて、胸の上に顎を乗せた。あざとい。この末っ子、年々甘えたが板についてきている気がする。それを自覚しながらも、甘やかしてしまう私がいるんだけど。
 よしよしと紅白の頭を撫でると、太ももの下に腕が回ってそのまま抱き上げられる。寝室に寄って用意していた着替えを手に取った焦凍くんは、そのまま洗面所へ運んでくれるみたいだ。

「ふふふ、焦凍タクシー?」
「ああ、焦凍タクシーだ」
「甘えたさんだねえ」
「おまえに引っ付くの、好きだ」
「うん、知ってる」

 見下ろすと、少しだけ首を伸ばした焦凍くんに、自分からキスをする。たったそれだけで嬉しそうに微笑まれるから、たまらなく胸がきゅんとした。





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