※付き合い初めの物間くん
「それでねえ、これがさあ」
ベッドを背もたれに、淡いブルーのラグの上に座って、スマホの画面を隣に座る物間くんに見せ付けた。インターン中の出来事だけど、なかなか面白くて絶対話そ〜! って決めてたのだ。
「それで、……物間くん?」
「ん? どうしたんだい」
ふと顔をあげると、バチッと目が合った。見えやすいようにスマホを傾けているけれど、物間くんの視線はそこに落とされることなく私を見据えていて。さては話聞いてなかったな?
「もー、聞いてた?」
「聞いてるさ、全部ね」
「ほんとお?」
私の肩越しに物間くんの片腕が、私を囲うようにベッドの縁に付いた。む、と見上げると、そのまま少し屈んだ物間くんのくちびるが、ふゅ、と柔らかく私の唇に触れる。なに、急だな。
「どしたの」
「いーや、なんでも?」
「ふぅん?」
そう言いながらも、頬にかかる私の髪をすくって、自分の細長い指先にくるくる巻き付け遊んでいる。かまってちゃんか? まあいいや。
「そんで、」
「うん」
「この猫ちゃんが、」
「へえ」
再びスマホに視線を落とし話を続けると、心のこもっていない相槌のあと、顎を軽くクイと引かれた。少し持ち上がった顔に、またちゅう、とキスをされる。やわく食まれた下唇が、引っ張られてぷる、と揺れた。
「……」
むむむ。これ、絶対私の話聞く気ないんだけど! じいっ、と恨みがましく黙って見つめると、物間くんは小首を傾げて、わざとらしく眉を上げた。
「ん? 続きをどうぞ?」
「……話聞く気ないでしょ」
「そんなことはないよ」
「だって、さっきから邪魔するじゃん」
「邪魔なんて、人聞きの悪い」
むう、と唇を尖らせると、また触れるだけのキスをしていく。ほら! 白いシャツに覆われた胸板を、軽く叩いて不満を顕にした。膨れた頬を、逆剥けひとつない整えられた指先がなぞり落ちていく。くすぐったくてその指先を捕まえると、捕まえ返された指が絡め取られた。
「邪魔してるつもりはないけど」
「けど?」
「ただ、君がそんなかわいくしか喋れないのが悪いんじゃない?」
「え、……わ!」
絡まった指を、そのままベッドに押し付けられる。ぐ、と覆いかぶさって来た物間くんが、ぽつりと落とすように笑みを零した。反射で閉じたまぶたに、やわらかく当たる唇。そのままちゅ、ちゅう、と戯れに音を立てて頬や鼻先に触れていった。
「かわいくしゃべってた?」
「そうだね」
「……ふ〜ん?」
かわいくしゃべってたんだ、私。特になにか変わりがあるわけでもないと思うんだけど。付き合いだしてからの物間くんは、相変わらず口は回るし辛辣だったり煽る言葉を吐くことも多いけれど、こうしていやに素直な日もある。……なんか、微妙に慣れないんだよねえ。
重なった唇を、ぬる、と割り開くように舌が這う。素直に迎え入れると、甘やかすみたいに舌先に上顎を撫でられた。歯列をなぞるくすぐったさを、ぴくりと身体を揺らして逃がす。そっと目を開くと、薄いグレーが金のまつ毛を持ち上げ覗いていた。
「……目を開けるのはマナー違反だろ」
「……そっ、ちだって、見てたじゃん」
「……」
「……」
吐息の触れ合う距離で、無言のまま見つめ合う。むっとした物間くんの白い頬が、じわじわと赤に染まっていくのを見て、こっちまで暑くなってきてしまった。それでも、酷薄そうな唇が、少しだけ開いて奥の赤を覗かせているのが、やけに目に付いて。
「もうちょっと、……する?」
「……する」
「……ん」
今度は自分から、意外と太いその首に、腕を回して抱き着いた。