飯田くんとジョリジョリ



「わっかんねェー!」
「私もこれはギブー……」

 切島くんと一緒に、どべっとテーブルに半身を投げ出した。カラカラ、とシャーペンが転がっていく。もう頭爆発しそう。エクトプラズム先生の課題は、稀に趣味が混じる。数学の最終問題が分からなくて、百や飯田くん、爆豪くんまで集結してあーでもないこーでもない、と解き方を模索していたんだけど、もうちえくらべにギブアップだ。百たちでわかんないなら私にわかるわけないもん。

「あ、もー、余計なことすんなよなー」

 えい、と切島くんのシャーペンについてる消しゴムを無意味に削って暇つぶしをしていると、やんわりと怒られた。すっごいやんわり。私なら激怒してるのに。ヘヘ、と笑いながらテーブルに頬をつけて、隣で真剣にルーズリーフに向き合っている飯田くんを見上げた。……飯田くんって、意外とツーブロックなんだよね。ツーブロック、響きとかなんか諸々でチャラさを感じるから、ちょっと意外なのだ。
 綺麗に刈り上げられた項の少し上あたり。見上げていたら、なんとなく触りたくなってきた。“個性”社会の影響で野球が主流スポーツから消えたため、中学でも野球部がないこの世界。坊主の子ってわりと少ないんだよねえ。手を伸ばして、刈り上げられた箇所に触れると、おお。ジョリ、とくすぐったいようななんとも心地よい感触が伝わって、

「ウワー!?」
「ぎゃっ」

 クソデカ大声が発された。びびった。耳もげる。飯田くんが撫でられたあたりを抑えて、バッ! と勢いよく私に振り向いた。

「飯田くん!?」
「るせェなンだよ」
「どうかされまし……ああ」

 私の伸びた手と、飯田くんの視線を辿って百が納得したようにああ、と零した。爆豪くんからはまたテメーかよ、みたいな目を向けられるし、緑谷くんは苦笑いだ。解せぬ。ワタシ、ナニモシテナイ。

「いきなりなにを……!?」
「え、やー、飯田くんツーブロなの意外だったから……なんか……」
「あー、わかるかも」
「ね、だよね!」
「だからって急には触んねェけどな!」

 持ち上げてからの落としてくる男、切島鋭児郎である。触りたくなるじゃん。ねえ?

「髪型に意外、とは……?」
「なんかツーブロックってチャラくない?」
「偏見だろ」
「……」

 偏見だろ、なんていう爆豪くんの奥ではその幼なじみがちょっとわかる……みたいに黙り込んでいた。陰の者だから理解してくれるみたいだ。

「幼少の頃からこの髪型だが、おかしいだろうか?」
「や、おかしくはない。ちょっと触りたいだけ」
「欲望ダダ漏れだな」
「言う前に触ってンだろ」

 それはそう。ショリショリ、手に当たるの気持ちいいんだもん。指の背で刈り上げの部分をツツツ、となぞる。……あ〜、これ。ずっと触りたくなるやつ。無言でショリショリしていると、私のあまりの一心不乱さに心惹かれるものがあったのか、百も少し躊躇いながらそっと手を伸ばしてきた。
 ショリ、ジョリジョリ、ザリ。さっきまではお勉強ムードだったのが、なんとも言えない微妙な雰囲気に。ただ無言で、私と百が飯田くんの刈り上げを撫でるのを、じっと見守られている。……なにこれ? ああ、でもきもち〜……。
 なんて思っていたら、飯田くんが飛び上がる様に立ち上がった。

「わっ」
「っすまない! 急用を思い出したので一度失礼する!」

 そう言いながら、飯田くんにしては珍しくドタドタと足音を立てて寮を飛び出して行った。……これは。

「照れてた?」
「照れてたな」
「飯田くんでもああなるんだ……」
「悪いことをしてしまったでしょうか……」

 飯田くんでも照れるんだ。ハハーン。開けっ放しになった扉から、B組におつかいに行っていた三奈がひょっこり帰ってくる。

「ねえねえ、今飯田がすっごい顔して走ってたけど……ウワ、悪い顔」
「ほんとおまえ辞めとけ?」

 次回、飯田くんの照れ顔を正面から拝もうの回! 乞うご期待!



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