WHMを観た



※メタが強いです。WHMを観た話


「WHMを観たんですけど」
「WHM? ってなんだ」
「ヒロアカの映画第三段ですね。好評発売中! それは置いといて、WHMを観たんですけど」
「おお」

 切り出すと、ソファに座っていた緑谷くん、轟くんが顔を上げた。スマホを弄っている爆豪くんはこっちを見もしない。見ろ! 俺を見ろ! まるで聞こえていないかのように素無視の爆豪くんにムッとして、爆豪くんの隣に座ってぐいぐいと足裏で腹筋を押す。物理で対抗していかないとね。やっぱ。

「足向けんな汚ェ」
「は? 嗅がせるぞ! ……っと、それもおいといて」
「置いとくなや!」

 ぐぐっ、とストレッチの要領で顔を背けた爆豪くんの背中に足を立てかける。ギャーギャー文句言ってくるけど、なんだかんだ好きにさせてくれるあたり爆豪くんって私に甘い。そんなんだから付け上がるんだよ。私が。
 爆豪くんとの戯れはひとまず置いておき、今日の本題だ。ソファに寝転んだまま、私たちのじゃれ付きに苦笑いしている緑谷くんに視線をやった。

「私も緑谷くんにお姫様抱っこされて逃走劇したいんですけど」
「えっ、僕?」
「突然だな」
「……お姫様抱っこ!?!?」
「うるさ、ロード遅っ」

 緑谷くんのロードがお姫様抱っこのワードだけちょっと遅かったようだ。ソファから飛び上がった緑谷くんの顔色が真っ赤になって、真っ青になって、また真っ赤になっていた。おもしろ。

「あはは、ねー見てすごい顔色」
「突拍子なさすぎンだろてめェ」
「ええ? でもWHMを観たんですよ?」
「ああ、確かにあれは面白そうだったな」
「ね、ときめいたよね!? あの瞬間の緑谷出久最大風速えぐかったもん」
「何の話!?」

 だからWHMの話だってば。おっきり吊り橋でビュンビュンするの、スパイダーマンみたいでときめいた。あんなん好きになるじゃん! って思いながら見てた。

「はい、お姫様抱っこして」
「お」
「えっ、ええ……!?」

 ぐぐっ、と両手をテーブル越しの緑谷くんの方に向けて伸ばした。はぐみーぷりーず。

「お姫様抱っこなんてそんな……!」
「えー、してしてしてして」
「うるせェ!」
「俺じゃ駄目か?」
「それはまた後でね」
「後でか。わかった」

 聞き分けの良い轟くんである。轟くんは言えばしてくれるし、良すぎる顔面が近くに来るあの感じも最高だけど今私が求めているものは違うのである。

「やだやだやだ緑谷くんがお姫様抱っこしてくれなきゃやーだー!」
「すげえ駄々っ子だな」
「緑谷くん私のこと嫌いなの!?」
「そっ、そんなことはないよ!?」
「……じゃあ好き?」
「すっ……いやあのそりゃあ好きと嫌いならもちろん嫌いじゃないっ、けど……すっすすす、すきとか、そういうのは、」
「お姫様抱っこして〜」
「うるせェ……!」

 爆豪くんが心底嫌そうだからほら早く、と緑谷くんに向けて手をん! ん! と差し出す。救助訓練とかでは普通にしてるし、私が吹っ飛ばされた時とかも平気で抱えてくれてるのになにが躊躇することがあるのか。

「ええと……じゃあ、少しだけ」
「わあい」

 赤い頬のまま、しょうがないなあ、なんて顔をした緑谷くんが、私の前に立った。そのまま、膝裏と背中に腕を回されて、グッ、と引き寄せられる。次の瞬間には、ふわっと浮遊感がして抱き上げられていた。おお、と感嘆の声が漏れる。寝てる人間を抱き上げるのって結構、かなり力とコツがないと難しいんだけど、流石緑谷くん。学んだことを活かしてる〜。

「どうだ?」
「腕が意外と太くて筋肉あるから安定感があっていい」
「レビューしないで……」

 ふらつきもないしめちゃくちゃ快適だ。聞こえてくる心臓の音と、時計の秒針並みにチッチッチッチッ鳴らされる爆豪くんの舌打ちの音さえなければ完璧。

「じゃあ、ちょっと外出て黒鞭でビュンビュンしてくるね!」
「しないよ!?」

 しろよ。ギン、と下から睨み付けると、緑谷くんが逃げるように上を向いた。



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