轟くんと相合傘




「お」
「あらま」

 戦闘訓練のレポートを教室に残って終わらせたら、土砂降りになっていた。あー、これは参った。夕立かなあとは思うんだけど、すぐ止みそうな感じもない。とはいえ、私は天才なのであるんだなあ、傘が。

「轟くん傘ある?」
「いや、ねえな」
「ふふん、天才の私に任せなさい」
「持ってきてたのか」
「いにゃ、置いてる」
「かしこいな」
「せやろ」

 鍵の着いた傘立てから傘を取って、パッと拡げる。クリームソーダみたいなかわいいやつだ。寮まで五分だけど、置き傘は偉大でしょ。

「見て、かわいくない?」
「ああ、かわいいな」
「でしょ? おいで〜」
「ん……いいのか?」
「流石にひとりだけ傘入って帰らないよ! そんな薄情な女に見える!?」
「わりと」
「ショック〜」

 えーん、と泣き真似をすると、くっ、と轟くんが喉を鳴らした。口元を手で抑えてはいるけれど、緩んでいるのが丸見えだ。初期ろきくんの冷徹さはどこへ消えたのか、最近ではこんな軽口まで言えるようになったんだから、友達って偉大だよね。

「わりぃ、冗談だ」
「ふふ、わりぃ、知ってる」

 真似をして返すと、お。と少しだけ目を丸くした。お、わりィ、ああ、で成り立ってる節あるよね、轟くん。流石に盛った。

「わあ、雨足結構強そう」
「だな。持つぞ」
「ありがと」

 轟くんの方が背が高いので、轟くんに傘を渡す。一歩校舎を出ると、傘に打ち付ける雨の音が思ったより強かった。傘指してても普通に濡れるやつ、これ。

「もう少し寄れるか?」
「うん、轟くんも」
「俺は大丈夫だ」
「え〜やだ」
「お……やだか、じゃあ仕方ねぇな」

 だって、そしたら一緒に入ってる意味無いじゃんねえ。ふ、と笑って、轟くんが私の肩を抱き寄せた。左側だからかな、くっついた腕が温い。

「轟くんあったかいね」
「そうか? ……ああ、おまえは冷てェな」
「末端はさ〜、冷える」

 雨で気温も少し下がってるし、余計だ。ちょっとだけ寒くて、冷たくなった指先にふー、と息を吹きかけてあっためると、不意に大きな手が私の手を包んだ。そのままぎゅ、ぎゅっ、と揉まれる。

「寒ィか?」
「……今あったかくなった」
「よかった」

 轟くん、こういうこと普通にするんだよなあ。これ理性がなかったら私に惚れてるんだ……って勘違いするやつじゃんね。もう慣れたけど、やっぱり慣れてない。雨音に時々遮られながら、ぽつぽつと会話をして、いつもより少し長い帰路を辿り終える頃には、靴の中と轟くんの右肩が、びちゃびちゃになっていた。




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