ホークスとキス※



※未来軸、付き合ってる


 ふああ、と欠伸をしながらぬくもりのなくなったベッドを抜け出して、顔を洗うために洗面所へ向かう。物の少ないこの部屋に来たのは三回目で、お泊まりに至っては初めてなため、まだ少し慣れない感じがする。私の部屋はそれなりに物多いから、なんかいろいろ新鮮だ。

「あれ」
「ん、おはよ〜」
「おはよお」

 ひょこ、と洗面所を覗き込むと先客が。家主さまだ。最低限に落とした羽だけがざっくり背中の開いたシャツから覗いていた。その片手には、ぶいいいん、と細かな音を立てる髭剃りが。挨拶を返して、またふああ、と欠伸をしながら近付けば、ホークスは手に持っていた髭剃りのスイッチを切り、一度棚に置いた。

「ぶいいしてる」
「ぶいい? ……ああ! 髭剃りか。ハハ、かわいい表現使うね〜」
「剃ってるの?」
「そりゃモチロン」

 近寄って手を伸ばすと、ホークスがウェルカム! と両手を広げてくる。それは無視して、剃りたてホヤホヤの顎を触った。……? 全然いつもとの違いがわかんない。ぎゅっ、と抱き締められるのはそのままに、すりすりと頬に額をぶつける。

「ほんとに剃った?」
「剃ったよ」
「え〜、違いわかんない」
「まあそりゃ剃ったの顎じゃないし」
「あ、そうなの?」

 通りで。ホークスといえば顎髭、って感じだもんな。そのトレードマークはいつも通りで、なんの変化もないように見えたけど、やっぱり変化はなかったらしい。

「どこ剃ったの?」
「ん〜? ここだよ」
「はえ〜」

 顎に触れていた私の手を取って、ホークスが鼻の下、くちびるの上に触れさせる。へえ、ホークスここ生えるんだ。

「ジョリジョリになるの?」
「まァ、ほっとけば中国の人みたいになるね」
「あはは、胡散臭さ倍増だ」
「おっ、言いますねえ?」
「きゃあ〜」

 軽口を叩けば、仕返しといわんばかりに髭を擦り付けられた。綺麗に整えられた髭は柔らかくて、痛くはないけどくすぐったい。きゃあきゃあ笑えばホークスも嬉しそうに目を細めて、それから顔が近付いてきた。キスするんだろうな、ってわかるけど、わかったからこそ腕の中で身を捩って顔を背ける。

「んん、」
「なに、やだ?」
「ん、やだ。歯磨きする」
「俺は気にせんよ?」
「私が気にするの!」

 人間の寝起きなんて、口の中の状態は最悪だ。転生してから虫歯ができたことはないし、基本的に私はいい匂いのする美少女なのでマシではあるけど、それでもその状態で好きな人とキスするのは気が引けるじゃん。美少女なのでクサイとかはないんだけど。まじで。物理法則を無視した美少女なので。歯磨き粉とって、とホークスの腕の中でくるっと向きを変え、電動歯ブラシを手に取る。ちょっと濡らして、赤い羽が運んでくれた歯磨き粉をうにょりと付けた。
 ヴイイ、と細かく振動する歯ブラシで口内を磨いていく。電動歯ブラシ、楽だ。ちゅ、ちゅ、とこめかみや髪、耳や首元にホークスがくちびるを触れさせてくるのがこそばゆくて、ふふ、と笑いが漏れた。くすぐったい。

「んんん、いたずらっこめ」
「俺の恋人がキスさせてくんないンでね」
「も〜、ちょっとステイ」
「ハァイ」

 コップに水を注いで、口の中を濯ぐ。歯ブラシも綺麗に流して、立てかけて、よし。

「朝ごはんたべよ」
「あれっ、待って、キスは?」

 ソワソワしてるホークスをスルーしてキッチンへ向かおうとすると、お腹に回った腕に引き寄せられた。俺ちゃんと待ちましたよ、なんて眉尻を下げて訴えられれば、かわいくて思わず笑ってしまった。
 その後いっぱい、くちびるがちょっと腫れるくらいキスされて、焦らすのも程々にしよう、と思った。



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