相澤先生とキス※



※卒業後付き合ってる軸


 飽きた。完全に飽きた。ヒーローになってまで家に持ち帰りの事務仕事あるの、まじで無理。しかも急ぎじゃないから余計に無理。タスク類は溜めているとストレスになるから早めに終わらせた方が理解していても、たまに全部やだ〜! の波が来る。あ〜、この感じだともう今日は無理だな。やめちゃお。パタン、とパソコンを閉じて、ぐぐっと伸びをする。SNSで見た超かわいいけど遮光性0なシフォンカーテンから、部屋へ射し込む光は夕方の柔らかさを纏っていた。ぐでん、と机に身体を投げ出して、隣で同じようにパソコンと向き合っている先生を見る。隻眼になると、もう片方の目を酷使してしまいがちだから視力低下に繋がるらしく、最近かけ始めた度入りのブルーライトカットの眼鏡はまだ見慣れなくて一々キュンとしてしまう。理由はまだ思い出してはへこんでしまうものだけど、それはおいといて眼鏡の先生、いい。

「ねえ」
「ん」
「眼鏡外してい?」
「……飽きたのか?」
「わあ、お見通しだ」

 流石元担任。思考回路とか行動パターンをわりとまるっと読まれている。呆れたように片目が私を見つめてくるけれど、もともとそれなりに近かった距離を膝でにじり寄って、お互いの足を触れさせた。胡座をかいた太ももに片手をついて、半ば乗り上げるように顔を近付ける。呆れながらも、先生は私の好きにさせてくれているあたり、愛を感じた。

「あ」
「どうした」
「まつ毛ついてる」
「ん、」

 嘘だけど。そういうと先生が目をつぶって顔を差し出してくることを知っているので、眼鏡をそっと外して、そのまま顔を近付けた。キスしちゃお。ちゅ、とかわいらしい音を立ててかさついた唇に触れると、いつの間にか後頭部に回っていた手にぐっと引き寄せられた。えっ、と思っている間に、腰を抱かれて、引かれるままに先生の膝に乗り上げる。厚い舌が唇を舐めて、そのまま口内をくすぐった。目を開くと、ばっちり先生と視線が合って、ニイ、と細く弧を描く。うわ、めちゃくちゃかっこいい。くそお。キュンとしてしまったのを隠すように目をつぶると、舌を甘く食んでくる。
 黒いTシャツの肩を握り締め、ぎゅう、と皺を寄せて、ゆっくりと身体を離す。はあ、と吐いた息が熱を高めて、くしゃくしゃになった布地に頬を擦り付けた。

「いたずらっ子だな」
「……どっちがあ?」

 フ、といやらしく笑った先生。本当にどっちがいたずらっ子なんだか。後頭部を支えていた手が、髪を掬ってサラサラと梳いていく。先生は私の手から眼鏡を救出して、テーブルの上においた。数度マウスを動かして、パソコンはシャットダウン。それから、しっかりと抱えられる。こちょこちょ擽るように喉を撫でてくるのは、私のことを猫かなんかだと錯覚してるのかもしれない。

「で、まつ毛は」
「ん、嘘だよ」
「だろうな」
「へへ、バレてた?」

 ちゅ、と濡れた唇が頬に触れる。そのままぢゅっと吸ってくる。いたずらっ子、やっぱり先生の方じゃん。

「私の柔肌があ〜」
「ふふ」
「ふふじゃなあーいー」

 もぐもぐされてる。やわもち天使のほっぺが食われている。ううう、と逃げようとするけれど、しっかり身体に巻き付いた腕は、ほぼ現役を引退してるとはいえ未だに衰えを知らずムッキムキのカチカチだ。きゃあきゃあ笑いながら、腰に巻き付く腕にタップをすると、先生も笑いながらそのまま倒れ込んだ。

「……お仕事は?」
「おまえの方がいい」
「わるこの先生だ」
「もう先生じゃないよ」
「へりくつ〜」

 クスクスと笑い声をあげると、もう一度ふに、と唇が押し付けられた。




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