轟くんとキュン部屋



 密室に閉じ込められ『ガチャ』……ガチャ?

「えっ?」
「ああ、悪ィ」
「……えっ?」

 こんにちは。私は私。私以外私じゃないの。人が二人なんとか入れるくらいのもはやロッカーな密室に閉じ込められたかと思ったら、ガチャ、と解錠の音が響いた。発覚から解錠までその間約3秒。……なにごと?

「ちょっと待って。いったん落ち着こう。混乱してる」
「そうなのか?」
「ソウナンデス」

 スウウ、とアハ体験のように薄くなっていく、壁に表示された文字。真っ白なそこには、濃い黒で「どちらかをキュンとさせないと出られない部屋」と書いていた。過去形。今消えかけてグレー。……まじでどういうこと?

「え、轟くんキュンしたぁ?」
「キュン……がどういうのかわかんねぇ」
「ああ、えーと……」

 キュン、キュンか……どういうの、って言われると説明が難しいな。

「なんか、こう、かわいい物とか見た時に胸がぎゅううってなったり、えっ好き! きゅん! みたいになるやつ」
「ん、」
「いや伝わらんよね!? ごめん」

 説明がまじでムズい。なんか、キュン、って感覚じゃん。ね。

「よく分からねぇが、かわいいものなら見た」
「へえ」
「で、こう、好きだな、ってなったぞ」
「はいはい、ああ、じゃそれだ」
「これか」

 キュンしてた。なに見たんだ、轟くん。いつ見たんだ。え、思い出しキュン? まあたまにあるよね。わかる。

「おまえが見上げただろ」
「ん? うん」
「それだ」
「……私か! えっ、私か」

 私か。まじか。……え、ちょっと待とう。いや、たしかに私はかわいいけど。かわいいけどちょっと待って、まじで待って。

「……え、轟くん常に私のことかわいいと思って……る? もしかして」

 痛い質問だなあ、とは理解してるんだけど、だってなんか、轟くんの言いぶりからそうとしか受け取れないし。……えっ、本気? いや私はかわいいけど!

「ああ」
「ああなんだ……」

 ああなんだ……。ここに瀬呂くんとか響香とか尾白くんがいれば心を同じにしてくれたと思う。嬉しいんだけど、嬉しいんだけど! 顔も身体もスペシャルベリーキュートだが喋れば3枚目みたいな小悪魔キャラやらしてもらってる身としてちょっとこう、照れが勝る。轟くんの素直さは美徳だけど、ストレートすぎてこう、ね。照れちゃうんですよね。ははあ、そうですかそうですか、なんて、照れ隠しにほざいてしまう。と、

「おまえは、」
「ん、」
「かわいいだろ……」

 なんて、轟くんが珍しくちょっと不貞腐れたみたいに、照れたように言うから、私まで照れてしまって。そっか、ごめん、なんて謎の謝罪をして、お互いに赤い顔を見られないよう、静かに密室を後にした。



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