轟くんと七夕※



※まだ付き合ってない轟くん


「あ、ねえ見て、短冊ある」
「……ああ、あるな」

 真夏のインターン終わり。轟くんと二人でちょっと寄り道でもしようか、とブラついていると、短冊を見付けた。そっか、今日もう七夕かあ。

「ね、なんか書いてこ〜よ」
「いいぞ」

 ててっ、と走って行くと、短冊は結構数が残っていて。ん〜、何色にしようかな。

「轟くんどれがいい? ……水色ね!」
「ああ」

 爆豪くんだったら決まってんなら聞くな、と返ってきただろうけど、轟くんは私に従順なので素直に受け取ってくれた。私も同じ水色にしよ。

「なんで水色なんだ?」
「ん? 轟くんの目に一番近いもん」
「なるほど」
「かわいいよね」
「かわいいのか?」
「うん、かわいい」
「そうか」

 自分の左目に、轟くんがそっと手を当てた。綺麗な色だと思う。初めて会った時は冷たく見えたけれど、今はその瞳の色が、どこまでも優しくて、暖かいことを知っているから。ただ、綺麗だと思う。

「おまえの目も、かわいい」
「え、ありがと。照れる」

 轟くんが、私の前髪をすくい上げて、まじまじと瞳を見つめてくる。そんな、イケメンに熱視線送られると照れちゃうんだけど。やめなさいて。

「ほら、短冊書こ書こ」
「そうだな」

 ちょっと赤くなっちゃったかもしれない顔を隠したくて、短冊に向き合う。お願い事……あれだな。うん。決まってる。轟くんの方をちらっと見ると、思案顔。クソかっこいいな。トン、と太い二の腕に肩をぶつけて、轟くんの顔を覗き込んだ。

「迷ってる?」
「ああ。……おまえはなに書くんだ?」
「え〜、言ったら叶わなくない?」
「そういうもんか? 悪ィ」
「ふふふ、うそうそ。冗談」
「冗談なのか」

 冗談冗談、イッツジョークだ。まあ、内緒にはするけど。後でのお楽しみだ。

「……そういえばこういうの、書いたことねぇな」
「え! そうなの!?」

 それは大変だ。今までの分いっぱい書こ! って言うと、轟くんが穏やかに笑った。

「そんなに願われたら大変だろ」
「織姫と彦星が? いいじゃん、困らせたろ」
「ふ……そうだな」
「まあでも、ほら、七夕のお願いなんてさ、決意表明みたいなもんでいいんじゃない? って思うんだよね」

 叶えたい願いは自分で叶えるし。そう言うと、轟くんはまた少し考えて、そうだな、と書き込んでいった。私も、サラサラと願い……というより、決意を書いていく。

「ね、ね! 一番上に飾って!」
「いいぞ」

 私では届かないから、轟くんに書いた短冊を手渡して、テッペンを指差す。そこまで高い笹ではないから、私では届かなくても、また背が伸びた轟くんになら余裕だろう。私から受け取った短冊を見て、轟くんが固まった。フリーズ。ナウローディング。

「……なァ」
「ん〜?」
「……いや、先に結ぶ」
「ふふふ、うん」

 やっと動き出した轟くんが、耳まで赤く染めたまま、二人の短冊を纏めててっぺんに結い付ける。轟くんの短冊は、やっぱりヒーローに関することで。轟くんらしい端的で誠実なお願いだ。そういうところも好きだなあ、と思った。
 それから。手を引かれて、人のいない端っこへ。轟くんが私に向き直って、その顔は湯気でも出そうなほど赤くて。うわ、こんな取り乱してる轟くん、マジのレアかもしれない。かわいい。ふう、と一度大きく深呼吸をした轟くんが、意を決したように顔を上げて、私を見た。

「……あの、俺から言わせてくれ」
「うん」

 熱の篭った目が、真剣な色をしている。薄い唇が、ゆっくりと開かれた。

「……好きだ」
「うん」
「おまえが」
「うん」
「好きだ……」

 ああ、クソ、と轟くんが崩れた口調で吐き出した。そのまま、手を引かれて抱き締められる。目の前にある耳が、見たことないくらい真っ赤で、かわいくてあっはっは、と声を上げてしまう。大きい背中に腕を回して、ポンポン、と数度叩いた。

「ね、私も好き」
「……うん」
「大好き」
「……うん、俺も」

 ぎゅっ、と少し痛いくらいに抱き締められる。クソ、俺から言いたかった、と首筋に顔を埋めたままの轟くんの声。ああ、かわいいなあ。でも残念、私の方が一歩上手なのだ!
 こうして、私の『轟くんの彼女になる』というお願いは、短冊に寄って叶えられたのだった。



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