腹が、減った。……って程ではないけれど、微妙に口寂しさがあり眠れない。時刻を見るともうすぐ日付の変わりそうな時間だ。お菓子はあるけれど、わがままな私の口はお菓子の気分じゃない。これはあれだな、ラーメンだわ。
というわけで降りてきた共有スペースは、当たり前だが誰もいない。明確な消灯時間があるわけではないけれど、基本的にみんな23時くらいには部屋に引っ込んでくからね。そこんとこ真面目な高校生だ。ダメな大人の経歴がある私は、深夜に孤独のグルメでも開催しようと思う。キッチンの戸棚を覗くと、カップ麺にインスタント麺。ん〜うどんとかでもいいけど、やっぱりラーメンだな。深夜と言えばラーメン。古来からの決まりである。味にも迷う。んんん〜……みそかな。気分的に。冷蔵庫を物色して、適当に拝借。返さないけど。適当に切ったのを適当にバターを投げ入れた鍋にかけようとしたところで、カタン、と男子棟の階段の方から音がした。
「なにしてんだ」
「あら〜、轟くん」
「こんな時間に料理か?」
ひょこ、と顔を覗かせたのは轟くんだ。眠そうに目を擦っていてもイケメン。
「小腹すいたからね、深夜のラーメンは背徳のスパイス効いてておいしいよ」
「? そうか」
「わあ」
回り込んできた轟くんが、のしっ、と私の背中にのしかかってきた。体重はかけられてないからそんなに重たくないけれど、相変わらず距離が近い。
「轟くんも食べる? しょうゆだけど」
「……食う」
「あらら、甘えたさんだワ」
ぎゅう、と腰に抱き着いてきた。これが同人誌なら枠外に※付き合ってません。って注意書きが入るところだ。付き合ってません。彼はただ甘えた、かつ情緒のお勉強中なだけだ。
「お肉いる?」
「どっちでもいいぞ」
「じゃ入れよっか」
私一人ならまあいらないけれど、男の子もいるとなればあったほうがいいでしょ。ということで、具材に豚肉も追加。割った卵の黄身をぷすっと刺して、水を加える。
「これチンして〜」
「……爆発しねえのか」
「それが大丈夫なんだよね」
稀に小爆発はするけれど。のっそりと普段よりもスローな動きで轟くんがボウルを電子レンジに入れたのを見て、私も適当に具材を炒めた。
「にんにく入れていい?」
「ああ」
「ちょっと弱めにするね」
にんにくをちょっとだけ。それからラーメンを茹でて、まあこんなもんでしょ。
器に入れたラーメンを運んで、ソファに横並びで座る。いただきます、と手を合わせた。
「! 美味ェ」
「ね、夜中のラーメンって美味しいよね」
「ああ、美味い」
轟くんって深夜ラーメンとかしなさそうだしなあ。もっとたくさん悪くてイイことを教えてあげないと、と使命感が少しだけ湧いてきた。あ、やっぱりお肉入れて正解かも。うまい。
「こういうの、」
「うん?」
「なんかいいな」
「でしょ」
「ああ」
轟くんもこの素晴らしさをわかってしまったらしい。常闇くん風に言うと深淵の理解者だ。ちゅる、とレンゲから短く麺を吸い上げる私を見て、轟くんが穏やかに笑った。
「おまえと一緒だからいいのかもな」
やめて。ドキッとするから。
深夜ラーメン会はその後時々開催されることになった。