相澤先生と全裸にならないと出られない箱(相澤)



※脱いでます


『全裸にならないと出られない箱です。
※条件を達成すると服は自動的に身に付けられます』

「倫理的にやばない?」
「……」

 先生は頭を抱えて無言だ。どうしてこうなった。現在、私と先生は、先生がギリ脚を伸ばすことのできないくらいの広さの 箱の中に、二人して押し込められている。狭い。私は脚を曲げて座る先生の上に、覆い被さるような形で膝立ちになっている。両腕は先生の顔の両脇についているけど、それもちょっとしんどい。だって天井も低いんだもん。本当に、どうしてこうなった。
 外出帰り、たまたま先生と学校近くで出会したところ、急にピカッと光って、何事かと思う暇もなく、こうなっていた。最近、この手の軽敵犯罪が流行しているらしい、とは聞いていたけど、それにしても内容が酷い。

「個性は」
「発動しないねえ」
「やっぱりか……」

 ニュースとかでもよくやっている。狙われるターゲットには規則性もない。プロヒーロー、警察、一般人、学生。老若男女関係なく、また人数もその時々らしい。ただ、指令内容は肉体的危害を加えるものはなく、誰かと閉じ込められる場合でも、それなりに親密度の高い人間とが大抵だと報道されていた。
 コンコンと壁をノックする。返ってくる音は鈍くて、壁の厚みというか、強度も凄そうだ。めちゃくちゃかったいの。あと、ずっと膝立ちで若干首を曲げてるから、しんどくなってきた。腰悪くしそう。

「せんせー、疲れてきた。座っていい?」
「……いいよ」
「ん」

 許可が出たので、そのまま先生の膝の上に腰を下ろす。首しんど〜。壁に突っ張っていた腕も下ろして、先生の肩へ着地させる。今肩回したらパキパキ鳴りそう。ミチミチすぎて回せないけど。
 先生がペタペタと私の後ろの壁を触って考えて込んで。急に壁をキックするからびっくりした。手荒〜。ハァ、と溜息を一つ。

「条件を達成する以外に出る方法はない、か……」
「入須さんもテレビでそう言ってた」
「誰だそれ」
「え? ニュースキャスターの人。知らない?」
「知らない」

 ニュースは見てもキャスターの人の名前まで覚えてなさそうだもんねえ。分かる。未だにこの事件の犯人の特定どころか、関わる人物の個性や人数すら把握出来ていない。外部からの協力、救助は難しいだろう。もしかしたら、中には誰にも言わずに普通に出られた人もいるのかもしれないけど、公になっている限りは、条件達成以外で脱出した人もいない。

「で……どする?」
「今考えてる」
「ん〜……ま、別に全裸でしょ? それくらいいいよ」
「……おまえね」
「わあ」

 ギンッ、と先生の目付きが個性を使う時のように厳しくなった。髪は逆立っていないけど、こわいこわい、至近距離でそれは怖いって。それから、先生は何か言おうとしたけど、口を閉じてまた溜息を吐き出した。

「……まァ、大人しく条件を達成する方が合理的か……」
「そうそう、合理的合理的」
「ハァ……すまん」
「先生が悪いわけじゃないのに」
「それでもだろ」

 教育者の立場的なアレだよね、分かる。教師と生徒って言う関係性に、この指令を出すのもなかなか悪趣味だ。まあ仕方ない。

「じゃ、脱いじゃうね〜」
「……目は瞑っておく」
「あは、は〜い」

 先生が目を瞑りながらごそごそと脱いでいく。わあ、生ストリップ。ちょっと良いもん見てる気分。捕縛布を外して、それから上着に手をかけた。セパレートタイプなんだね、それ。今更知ったわ。私もさっさとこの窮屈さからはおさらばしたいので、制服のボタンに手をかけた。夏服で良かった〜手間が少ない。ボタンをプチプチと外して、うわこれ下まで腕動かせん。ムズいんだけど。

「緩名」
「ん〜?」
「悪い、これ」
「ああ、おっけえ」

 私でさえ壁の横幅に窮屈さを感じるんだから、体格の良い先生の方がもっと窮屈だった。当たり前にね。真っ黒のスウェットのような上着が、首の辺りで引っかかっている。それをえいやっ! と引き抜いた。うわ、先生、めちゃくちゃいい身体してるな。

「先生めっちゃいい身体してるね……」
「……何見てんだおまえ」
「いやん、だって〜」

 バッキバキだ。何度か身体に触れたことはあるが、服を脱いだところを見るのは初めてだ。そりゃそうなんだけど。いっぱい傷が残ってるけど、それがむしろなんか……ヤらしいまである。先生、着痩せするタイプなんだなあ。

「ねえ、私も脱げない」
「勘弁してくれ……」
「これ取って〜」

 ブラウスが肘の辺りでひっかかっている。取れない。ていうか腕が回んない。

「目ぇ開けるからな」
「まだキャミ着てるよ」

 先生が薄目を開いて、素早く私のブラウスを取り去った。キャミ着てるから平気だって。
 再びしっかり目をつぶった先生が、ごそごそと下を脱……ごうとして一度止まった。キャミソール、もう肩紐破壊しようかな。無理だもんこれ。脱げん。ていうか、丈が太ももまであるやつだから先にスカート脱がないと。

「緩名、ちょっと腰上げろ」
「あ、ごめん」

 私が膝に乗っているから、脱げなかったみたいだ。その割には逡巡……といった感じだったけど。まあ教育委員会一直線な光景ではある。不可抗力でしょこんなん。しゃあない。
 腰を浮かして、パチンとスカートのホックを外すと、そのままズリさがっていく。スカートは脱ぐの楽だったな。よし。後はキャミと……下着もなのかな。

「ねえ」
「なんだ」
「全裸って下着も?」
「……全裸だから、まァそうだろうな」
「そっかあ……」

 いや、そうだよね。全裸だもんね。別にそんなに恥ずかしくなかったけど、なんかちょっと恥ずかしさ出てきた。先生が相手なのが悪い。これが百とか三奈だったらすぐ脱げてたのに。先生のズボンはいつの間にか足元でぐしゃぐしゃになっていた。足で脱いだな。……あ、先生ボクサー派なんだ。パンツまで黒じゃん。いや、見たら駄目だな。私も目つぶっとこ。うう、バランス不安定だからグラグラする。
 なんとか苦労してキャミソールの肩紐をずらすと、サラサラとした素材だから滑って落ちていってくれたけれど、おしりの辺りで引っかかった。指先を伸ばして引っ掛け、無理やり下げると、スルスルと下がっていった。よし。先生の足に触れたようで、ビクッと肩が揺れていた。

「下着以外脱げた」
「そうか……」
「私、が、先に脱いだ方が……いいよね?」
「まあ、そうだな」
「ん、で、問題発生」
「……なんだ」

 腕が後ろに回らないからブラのホック外せない問題と、パンツ下ろせない問題が同時発生だ。やばいよねえ、大ピンチ。それを告げると、本日何度目かも分からないクソデカ溜息を吐かれた。私もそんな気分。

「……触るぞ」
「う、ん」

 ずっと上げていた腰を少し下ろして、もう一度先生に乗っかる。フロントホックにすればよかったと朝の選択を後悔する。だって、こんなんなるって思わないじゃん、ねえ。うっすらと目を開けると、先生の首筋が。ここも普段、捕縛布で隠れているところだから、何気にレアな気がする。

「ひ、」
「悪ィ、我慢してくれ」
「や、大丈夫……ふ、はは、くすぐった、そこわきばら、」
「悪い」

 先生も目をつぶっているから、イマイチ場所が分からないのかもしれない。指先が、触れるか触れないかの距離で肌を滑るのがくすぐったくて、思わず声が出る。わるい、と言う先生の声でさえ、耳のそばで発されるから、こそばゆさを耐えるためにギュッと目をつぶって、先生の肩に顔を押し付けた。背中の真ん中、髪を掻き分けて、パチン、とホックが外される。開放感だ。

「ぁ、」

 そのまま、流れで先生の指が下へと降りていく。ぐっとパンツを下ろされて、ぐらついた背中に先生の腕が回った。いや、これは、やばい。流石にね。流石に焦る。心臓が尋常じゃないビートを奏でていて、マジでバカうるさい。やばい。

「膝、上げれるか」
「ん、」

 少しだけ膝を浮かせると、先生の手が足からパンツを抜き去った。やっと全裸だ。ふう、と息を吐くと、ククッ、と先生の喉が鳴った。

「……なんで笑ってんの」
「いや、おまえ、音やばい」
「おっ……仕方ないじゃんん」
「ああ、いや悪い、意外と可愛げあんだなと思って」
「むんんんんんん」

 指摘されて、絶対顔が赤くなってる。はあ? なにこのおっさん! そりゃあ全然免疫ないんですう、なんてかまととぶるつもりはないけど、照れるぐらいなんか……するでしょ! 悪い悪い、と謝られるけど、全然気持ちが篭ってない。ムカつく〜!! くそくそくそ、の気持ちを込めて、腹いせにぎゅう、と全裸のまま抱き着いてやった。別に平気だもん、平気だからね。

「ちょっ、おい、待ておまえ、俺を犯罪者にする気か」
「も〜知らない知らない知らない」
「悪かった、緩名、マジで離せ、頼むから」
「てぇいっ」
「おい!」

 勢いのまま先生のパンツをずり下ろす。足でやったので、ちょっと雑だったのは否めない。なにはともあれ、これでなんとか条件を達成した。想像より難航だった。ピカ、と最初と同じように光に包まれて、まだ消えない怒りを胸に、目の前にあった太い喉仏に噛み付いた。



 後日。あの後そのまま警察へ、内容は伏せて、一応の被害状況を届け出した。箱に入れられている時の時間経過は、外とはかなり違うらしく、目撃者によると私達は急に光って消えて、またすぐ光って現れたらしい。なんとも奇妙な個性だ。うう、酷い目にあった。
 先生の喉元には、私の噛み付いた痕がうっすらと残っていた。



PREVNEXT

- ナノ -