爆豪くんに甘やかされる(if爆豪)
※プロヒ同棲if
※脱いでるけど何もしてないです
ふ、と揺れる感覚に、意識が浮上する。なんだろう、なんだっけ、今日は結構大規模な敵犯罪があって、非番だったのが駆り出されて、個性を駆使した反動でなんとか支えられて帰ったはいいけど、扉を開けるなり玄関先で力尽きて寝た、ような気がする。重軽傷者はそれなりに出たが、誰も死ななくて良かったっていう安堵が胸を締めていた。明日は代休になったから、よっぽど大きな事件が起こらない限り、休めるはずだ。
思考している間にも、ふわふわと身体は心地よく揺れて、ぽすん、と柔らかな感覚に包まれた。薄く目を開くと、色素の薄いツンツンの髪に、鼻筋の通った整った横顔。赤い瞳が、一度瞬いた。
「起きたんか」
「……勝己くんだあ」
「変なとこで寝んな」
「おはよ、お疲れさま」
気付けばベッドの上で、抱き上げて運んでくれたんだと知る。学生時代から彼の救助の運搬方法はわりと雑だけど、こうやって私を運んでくれる時はいつも丁寧だ。なんかした時は別だけど。
「かっちゃ〜ん」
「ンだよ」
両手を伸ばすと、フ、と鼻で笑いながら抱き締めてくれる。昔よりももっとがっちりとして、傷跡もいっぱい増えた身体。ギュッと首筋に腕を回すと、背中を支えられてそのまま抱き上げられた。ベッドに腰掛ける膝の上に座らされる。
「眠いんじゃねェのか」
「ねむいけども」
両手でシャープな頬を包み込む。個性の影響かいつもスベスベだ。鼻同士が触れ合って、勝己くんが少し首を伸ばす。ちゅ、と触れるだけの何度も落とされるキスに、抵抗せずに力を抜いた。分厚いてのひらが、髪の毛をくしゃりと包んだ。髪を撫でる手つきが優しくて、気持ちいい。
「飯は」
「ん、お腹空いた……あ、ごめん、私今日なんもしてない」
「いい。緊急だったんだろ」
「うん。でもねえ、明日お休みになった」
「俺も明日は非番だ」
「へへ、いっぱいごろごろ出来るね」
「てめぇ寝すぎなんだよ」
「寝るのきもちいじゃん」
少し呆れた勝己くんにぶ、と唇を突き出すと、むぎゅっと片手で挟まれて頬を潰される。ム。絶対変な顔なのに、突き出された唇に勝己くんが嬉しそうにキスをしてきた。昔から私のほっぺ潰すの好きだよね。
「むむむぐ」
「……飯食うか」
「むん」
「人語喋ればァか」
脇の下を持たれて膝から下ろされそうになったのでしがみつけば、太ももに腕が回されて持ち上げられる。連れてってくれるみたい。
「勝己くん」
「あ?」
「……呼んだだけ」
「そーかよ。足バタバタすんな」
「んー」
優しくなったよね、って言おうとして、やめた。彼は元々優しさのある男だったし、なによりこれは優しくなったわけではない。私に対してだけ、ベッタベタに甘くなったのだ。実際、バタバタと足を動かしても、邪魔だろうにさして気にした様子もない。
「オムライス食べたい」
「ねェもん言うな。明日な」
「わあい。優豪だ」
ソファに下ろされてわがままを言うと、頭をひとなでして勝己くんがキッチンに向かう。私も、と立ち上がろうとすると、座ってろ、と小突かれた。う〜ん、めちゃくちゃ甘やかされてる。今日のご飯は作り置いてたローストビーフを丼にしたやつだ。それとスープとサラダ。二人とも疲れてるしお腹も空いたので時短万歳。料理している勝己くんの背中を見るのが楽しくて好きだ。
「卵」
「いららい」
「ん」
服着てるの疲れた。ゴソゴソと下半身だけ脱ぐ。上半身は流石にね。オーバーサイズのトップスだったので、まあいいでしょう。開放感。あ〜、スッキリする。
「なんつー格好してんだ」
「つかれた」
両手に丼を持った勝己くんが、私の格好を見て呆れていた。家の中だし私たちしかいないからいいじゃん。
「いただきます」
運ばれてきた料理を、手を合わせてから食べる。マジで私何にもしてない。ローストビーフの旨みが疲れた身体に染み渡る。うん、お酒欲しくなる。ぺたぺたと四つん這いで冷蔵庫まで行って、中からビールを取り出す。金麦、冷えてます。
「磨、俺も」
「ん」
もう一缶。冷たい。両手で抱えて、また這って帰る。今日はもう歩くことすらしたくない。伸びてきた手に缶を渡す。
「つめたい」
「すぐ冷えんなおまえは」
冷たくなった指先を勝己くんの首筋にくっつけて暖を取る。すぐにその指先は手のひらに包み込まれた。あったかい。
「ごちそうさまでした」
「……ん」
「それくらい私やるよお」
「いいから」
パチンと手を合わせると、空になった食器を勝己くんが下げた。素早い。本当に、とことん甘やかされてるのを感じて、ちょっと気恥ずかしくなる。洗い物はある程度手洗いしてから食洗機。勝己くんの家事は丁寧できちんとしている。
キュ、と水周りを軽く拭き終えて、私の隣に戻ってくる。すかさず抱き着いた。動じることもなく抱き留められる。
「甘えた」
「……甘えられるの……すきでしょ〜……」
「眠ィんか」
「うん……」
「風呂は」
「入りたい……」
「待ってろ」
「や〜……」
もうちょいひっついたままでいたい、という意思表示だったんだけど、勝己くんは何を思ったのか私を抱き上げてお風呂の準備を始めた。甘やかしも度を越してる。バフもなんもかけてないから、絶対重いはずなのに。
「おもくないの……」
「磨がヤダつったんだろ」
「そうだけども」
ピカピカの浴槽を軽く流して、ピ、とボタンを押す。すぐにお湯も溜まるだろう。その間に、パジャマやらなにやらの準備。私の着てる下着はだいたい毎日かっちゃんチョイスだ。めちゃくちゃ楽で最高。
「脱がすぞ、腕上げろ」
「かっちゃんのスケベ〜」
「言ってろ」
片腕で私を抱えたまま、服を剥ぎ取っていく勝己くんはゴリラだしめちゃくちゃ器用だ。トップスはそのまま洗濯機に、パチンと外されたホックのブラはオシャレ着の籠に。再び開放感。あとはパンツのみ、となったところで、ようやく下ろしてもらって地面に足を着けた。
「勝己くんも脱がす」
そう言うと、抵抗なく身を預けてくれる。人の服脱がすのって普通にむずい。何回やっても慣れない。バンザイして、って言うと軽く両手を上げてくれるので、とりゃあっと勢いで脱がせた。雑、と鼻で笑われる。現れた鍛え抜かれた筋肉に、ぺったりと上裸でくっつく。は〜、肌と肌の触れ合う感じ、最高に気持ちいい。剥き出しの私の肩に、筋肉質な腕が回る。あったかい。
「下は」
「ん、飽きた」
「なんだそりゃ」
ガジガジと首筋に齧り付く。少ししょっぱい。ていうかちょっと肌寒い。勝己くんが自分でジーンズとパンツを脱ぐと、私の下着もスルッと脱がせた。くっついたまま浴室の扉が開けられる。
「ん」
「あい」
顎でしゃくられて、浴室の椅子に座る。浴室暖房様々だ。まずはクレンジングと洗顔だ。人に化粧落とされるのって、勝己くんと付き合うまでは知らなかった感覚。変な感じするけど超楽。それが終わると、学生時代よりも少し伸びた髪を、丁寧にブラッシングされる。勝己くん、私のメンテナンスめちゃくちゃ好きなんだよね。これがラブです。
自分の手で温度を確かめてから、納得したのかシャワーが頭からかけられる。お風呂はちょっとあつめ、シャワーはぬるめだ。髪が傷むだろーが、とは彼の言。ワシャワシャとシャンプーを泡立ててから頭皮を包まれて、マッサージするように優しく揉み洗い。握力はゴリラをも超越しているのに、痛くもなくてちょうどいい気持ち良さだ。
「ふあ」
「寝んな」
「だってきもちいんだもん」
シャンプーをしっかり流して、水気を切ってトリートメント。細めの櫛で梳かされて、流石にシャワーキャップまでは被らないけれど、ちょっと置いとけと常日頃言われているので、そのまま待つ。その間に自分の頭を洗ってる勝己くん。え、やりたかった。シャンプー、リンスまでしっかりしている勝己くんの身体に、ボディソープを泡立てて塗りたくる。
「コラ」
「だめ?」
だって私もなんかしたい。お願いかっちゃん。リンスを洗い流した勝己くんを、上目遣いで見上げる。ぐっ、と一瞬揺れたけど、ダメだ、と無情にも却下された。スン、と表情が切り替わった。
「かなしみ」
「流してからな」
「んー」
ぬるめのお湯をかけられて、丁寧に髪の毛につけたトリートメントを流される。ツヤツヤになった。元からツヤツヤだけどもっとだ。ライン使いのリンスまでを丁寧に施され、ある程度水気を切った髪をぐるんとまとめ上げる。見上げると、ちゅ、と額に唇が触れた。昔はデコに落とされるのなんて拳かデコピンくらいだったのに。変わりようが凄くて、むず痒さにふふ、と笑ってしまう。
「何笑ってんだ、キメェ」
「言葉は辛辣」
「は?」
頻度は減ったけど、暴言は相変わらずだ。とはいえ、言葉とは裏腹に、浴室の椅子から私を抱き上げて、自分の上に向かい合って座らせる手つきは優しい。くしゅくしゅとボディソープを泡立ててから、キメの細かい泡が身体に触れる。くすぐったい。
「ふ、はははくすぐったい」
「我慢しろ」
「やだ」
「おい、洗えねぇだろ」
泡だらけのままぎゅっと首筋に抱き着くと、もこもこの泡が背中を撫でていく。耳に齧り付くと、ピク、と身体が跳ねる。気にせず細い耳朶に舌を這わせる。フー、と息を吹きかけると、オイ、と声がかかった。
「だめ?」
「駄目」
「なんで、たっちゃう?」
「おお。から駄目だ」
「たっちゃんだ」
素直だ。別にいいのに、と思うけど、勝己くん的には駄目らしい。私がヘロヘロに疲れてる時は絶対に手を出してこない。鋼の理性だ。あんなキレやすいのに。私がモゾモゾしてる間に、ある程度洗い終わったらしくて、二人まとめて泡を流される。座った体勢のまま抱えあげられ、お湯の溜まった浴槽へ。二人分の体積を受けて、ザパザパと溢れていく。乳白色のお湯はいい匂いがする。プレゼントでいただく入浴剤が収納ケースをプラスウルトラしてるので、ちまちまと減らしていっているのだ。
「肩まで浸かれ。風邪ひく」
「ん〜」
向かい合った勝己くんの鎖骨あたりに顔を寄せる。意識飛びそうになってきた。肩を抱き寄せられて、かと思えばくるんっとひっくり返される。かっちゃんが背もたれになっちゃった。
「わあ」
「ふー」
一つ息を吐いた勝己くんの腕がお腹に回されて、今度は私の首筋に勝己くんが顔を埋めた。深く深呼吸している。めっちゃ匂い嗅ぐじゃん。勝己くんの片手をとって、分厚い皮膚を指先で撫でる。爆破の衝撃に耐えるための皮膚は、少しざらついていて硬い。ぎゅっと恋人繋ぎにすると、強めの力で握り返される。
「ん」
首だけで振り返ると、私を見ていた瞳と目が合って、どちらからともなく唇を重ねた。あ、ちょっとかさついてる。何度も触れる下唇を甘噛み。やらかい。
「明日」
「んぅ」
「どっか行くか」
「ん〜……いい」
「いいんか」
「たぶん」
曖昧な返事をすると、勝己くんが零すように笑った。明日は明日の風が吹くからね。起きてから決めよう。お腹に回る腕も、穏やかな視線も、全てが私を甘やかしていて。
「だめになりそう」
「……あ? 何が」
「私が。勝己くんがずっと甘やかすから」
「ハッ、そりゃいい」
だって、昔はもうちょっとちゃんとしていた、と思う。多分。気がする。美化してるだけかもしれないけど。外ではそりゃちゃんと大人してるけど、家に帰って勝己くんがいると、もうぐでんぐでんにされてしまっているから。最早勝己くんがいないと駄目になっちゃう身体にされている。
「やっと手に入れたからな」
「なにがあ?」
「てめぇだわ」
「私ぃ?」
あ、敵討伐の時みたいな悪そうな顔してる。ちゅ、と目元にキスが落ちてくる。
「馬鹿みたいに好かれやがるからな、お前は」
「あはは、モテモテだもん」
「モブ共に好かれんのはまだ許す……いや、許さねェけど、その他は駄目だ」
「えー」
みみっちさは健在だ。モテるのは私のせいじゃないし、そんなことを言うと勝己くんだってモテてるし。過激派オタク多いじゃん。
「勝己くんだけだよ」
「ったり前だ。今さらよそ見させてたまるか」
濡れた手が私の頬に触れて、指先が撫でていく。顔中に何度もあつい唇が触れては離れていく。はは、この光景緑谷くんに見せたら心臓止まりそう。
「勝己くん」
「ンだよ」
「あつい」
「……あがるか」
「うん」
ざぱっ、とまた抱き上げられて、湯船から出る。最近変えた珪藻土マットの上に降ろされると、足の裏の水分が全部持っていかれた。結構長風呂したから、全身ポカポカだ。身体を拭かれ、いい匂いのするお高いボディクリームがマッサージをしながら全身を潤す。いい匂い。ちょっと勝己くんのてのひらの匂いにも似ている、とろっとして甘い匂いだ。目を閉じると、眠気がやってきてふと意識を飛ばした。
「ん」
「寝とけ」
「うん……」
気付けば、髪も綺麗に乾かされて、ベッドの上に寝ていた。手触りのいい布団を肩までかけられる。サラ、と頭を撫でる手が離れていくのが嫌で、手首を掴んだ。
「勝己くんも……」
「俺ももう寝る」
「んー」
「このクソ甘えた」
両手をのばすと、横に寝転んだ勝己くんがフッ、と笑ってぎゅうと抱き締めてくる。よし。柔らかくて硬い筋肉に抱き着いたまま、息を吸い込んだ。んー、おんなじボディクリームの匂いがする。ぽん、ぽん、と寝かしつけるようにお腹を叩かれる。私のこと幼児か犬だと思ってるな。それでも、確実に少し浮上しただけの意識はどっぷりと沈められていく。
「おやすみ」
「……すみ」
ちゅ、と額に触れた唇の温度を最後に、深い眠りへと落ちた。
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