女子高生は貫きたい



5月頃(体育祭後くらい)の時間軸



「おはよ〜」
「あ、磨おはよー!」
「ギリギリじゃん」
「早起きしたって言ってなかった?」
「早起きしたらなんかギリならん?」

 いつもよりちょっと遅め、予鈴ギリギリの時間に教室へ滑り込む。ノートを広げてる三奈と響香に割り込んだ。なんか早起きしたからたまにはバッチリ化粧とか髪とかしたら、ギリギリになった次第だ。あるあるだよね。低い位置でツインにした、くるんくるんに巻いた髪を響香が摘む。ツインはさ、見た目年齢若い内しかしにくいからさ。

「校則いけんの? これ」
「え〜、雄英緩いしだめかな?」
「いけんじゃない? てか涙袋のラメかわいー! どこの?」
「ね、鬼かわいいでしょこれ! 後で共有しとく」
「よろ〜」

 二人に手を振って一番端、最後尾の自分へと向かうと、フレンドリー男たちがヒラヒラ寄ってきた。今日朝小テないからって余裕かましてるな。

「緩名はよ」
「バッチリじゃん」
「せろかみおはよ」
「まとめんな〜?」

 纏めやすい名前してるのが悪い。ん〜? って首を傾げながら、上鳴くんが顔を覗き込んでくる。

「なに?」
「いや、なんか今日かわいいから」
「は? 毎日かわいいんだけど」
「そりゃそうだけども!」
「フツー自分で言うかぁ?」
「いういう。自己主張してこ〜」

 前世っていうのがあるせいか、自分の顔をより客観的に見れているはずだけど、それでもこの顔は間違いなく完璧にかわいい。今日は化粧もちゃんとしてるから、いつもとちょっと違う感じだろう。いうてね、もうゴールデンウィーク明けたし、オリエンテーション期間終わったし校則解禁かなって。目キラキラしてんなー、なんてめちゃくちゃ邪気のない上鳴くんはちょっとかわいい。たまにチャラさなくなるのなんなん?

「つーかこれいいの?」

 これ、と言いながら瀬呂くんが私の胸元を指した。やだセクハラ? きゃあ、とわざとらしく胸を守るように腕を組むと、そっちちゃうそっちちゃう、とエセ関西弁が返ってくる。こっちこっち、と私のかわいいおニューのリボンを摘んだ。ブレザーは堅苦しいから基本置いて帰ってて、今日はベージュのだぼカーディガンを着てる。リボンは一応制服の色味に合わせたグレーのチェック柄だ。びよん、と伸ばされる。やめい。

「え〜、かっちゃんとかノーネクだしよくない?」
「アァ!?」
「うわ聞こえてた」
「地獄耳だ地獄耳」
「てめェらがうるせーんだよ!」

 爆豪くんの耳良すぎてヤバ。地獄耳じゃん、と笑っていると、そろそろガチで予鈴が鳴りそうなので席に着いた。キーンコーン、の一音めで扉が開いて、先生が入ってくる。カーディガンは既に許されてるけど、他はどうかな。内心ちょっとドキドキしていると、先生の視線が私を捉えた。
 三秒。交わった視線に、沈黙。全員が固唾を飲んで見守る空気が伝わってくる。一部興味無さそうだけど。それから、先生がふいっと視線を戻した。

「勝った……!」

 小さくガッツポーズだ。いけたじゃ〜ん。やったねピース。いいんだ……というクラスの心の声を聞いた気がする。連絡事項をいくつか告げてから以上、と先生が話を切り上げる。そのまま扉に向かったので一限の先生に繋ぐのかと思ったけれど、思い出したように先生がこっちを見た。ウワ、嫌な予感。

「緩名、後で職員室来い」
「負けたあ〜!」
「ダメだったんじゃん」
「ウケる」

 三奈や響香、瀬呂くんたちが笑い声を上げる。くっそ〜! いや、でもまだ服装頭髪顔諸々がダメだったとは限らないしな……!



「ね〜、かわいくない?」
「おー、ベリーキュートだなァ」
「褒めるなマイク」

 現在一限終わり、職員室だ。ちなみに一限はエクトプラズム先生の数1で、なんとも微妙な沈黙をいただいた。

「おまえね、いくら雄英が自由っつっても原型がねェだろ」
「そう? スカートとシャツは制服!」
「リボンとカーディガンと鞄と靴は?」
「自前〜!」
「YEAH!」
「煽んな」
「デッ」

 コーレスを仕掛けてきたマイク先生が相澤先生にどつかれていた。なんか仲良くない?

「アラ、かわいいじゃない」
「あ、みっどないとせんせー! ね、かわいいよね」

 かわいいかわいい、とミッドナイト先生も合わさって持て囃される。やったあ。理解のある緩い先生たちだ。相澤先生は頭を抱えてしまったけど。くるくるのローツインをミッドナイト先生に伸ばして戻して、と弄ばれる。みんなキツめのクルクル好きなん?

「まあいいじゃない。ウチは自由が売りだし」
「そうは言っても、ここまでのはなかなかいないでしょう」
「えー、普通じゃなあい?」
「普通ではねェかな〜」
「みんな偉子だ」

 現代社会、異形型の人も多いし、個性の影響で頭の色とか前世よりもだいぶカラフルだから、見た目に関する校則〜規則〜は結構自由なとこが多い。こと雄英に関しては、特にだ。偏差値高い学校て自由すぎるとこ多いよね。

「頭髪はわりと自由じゃん」
「まァ」
「化粧はおっけー?」
「……まァ、ある程度にしとけ」
「カーディガンはおっけーでも、リボンはダメ?」
「……ダメとは言わんが」
「じゃあおっけーだ!」

 こういうのは押し通すに限る。珍しく先生がぐう、と押し黙った。元々そんなしっかり注意されてる感じもなかったし。

「……公式行事の時はちゃんとしろよ」
「任せておっけ〜!」

 よっしゃ! 勝ち確。華のキラキラ女子高生ライフ到来だ。制服そのままでもかわいいけど、盛りたい日は盛りたいじゃん。めちゃくちゃ華美にはしないから許して欲しい。

「あと日誌にシール貼ったのおまえか」
「あ、あれめっちゃかわいくない? ねえていうか思い出した! 日誌デコしてい〜?」
「駄目だ」
「え〜、じゃあ6月くらいに再チャレンジする」
「諦めないんかい」
「強いわね、緩名さん」
「ハア」

 溜め息を吐かれてしまった。先生お疲れみたい。

「チョコあげる」
「……学業に関係のないものを堂々と出すな」
「これ美味しかった! ちょっと溶けてるかも」
「溶けてるものを人に渡すな」
「大丈夫大丈夫、私の体温だから」
「どこが大丈夫なんだそれ」

 そう言いつつも、ちょっと柔らかくなったチョコレートを先生は引き出しの中へ直した。貰ってくれるみたいだ。

「Heyリスナー、次は俺のクラスだぜ」
「あ、そっか英語か。ラッキー」
「アレ? 舐められてる俺?」
「ぼちぼちそーそー」
「Ahh……sosoね……」

 時計を見ればもうすぐ次の授業だ。マイク先生の担当だから一緒に行けばいいや。

「んじゃ、お邪魔しましたあ〜」
「もう呼び出されんなよ」
「はあい、明日ルーズはいていい?」
「おまえ話聞いてるか?」
「へへへ」

 へへへじゃねェ、と先生が呆れながらシッシッと追い払うように手を振られた。私は犬か?



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