フィーバータイムは年一で(10万打/夢主男体化)



※夢主が性別転換して距離感はいつも通りです


 胸に手を当てると、ぺたん、と平らな胸板の感触。……なるほど。

「まじに男になってんね」
「本ッ当に申し訳ございません……!」
「ああ、うーん……」

 土下座する経営科の同級生らしい生徒のつむじを見ながら、体操服でよかったな〜、と思った。制服とか私服、ヒロコスとかだったら一番最悪だ。だってぴちぴちピッチなんだもん。ジャージなら、若干、いや結構体積的なキツさはあるものの、視覚的問題はクリアだ。よかった。流石私、運いい〜。いや、こんな個性事故にあってる段階で悪いのかな? 個性事故日常茶飯事すぎて慣れてきた感ある。

「本当にっ、本当にすみませんでした……!」
「まあまあ、とりあえず顔を上げて」
「ううっ、私はまたっ、未熟かつ大馬鹿者で本当に……っ」

 女の子が人目に付きにくい廊下で土下座してるのもなかなかの光景だ。しゃがんで、ぽん、と制服越しに肩に触れた。性別反転の個性事故の件、二ヶ月に一回くらいの頻度で聞くし、多分この人なんだろうな。ガチ謝罪が板につきすぎてちょっと面白い。まあまあ、と背中を擦りながら腕を引くと、思ったよりも軽く持ち上げられた。わあ、力強くなってる。おもしろ〜い!

「おっと」

 立ち上がった勢いでたたらを踏んだその子を支えると、不意に近付いた顔。身長もそれなりに伸びてる。高身長って程じゃないけど、高一にしてはそこそこじゃないかな。鏡見たらどうなってんだろ。なんて思考を飛ばしていたら、目の前の少女が、じわじわと目を見開いていった。

「ぎ……、」
「ぎ?」

 ぎ、とは? コテン、と首を傾げる。あ、これあざとポーズだ。無意識にやっちゃうんだよね。

「ギャーーーっ!!!」
「うわうるさっ」
「イケメ……死ぬ」
「死なないで〜」

 劈くような悲鳴の後、ガクッ、と意識を失った。……どうしろと?
 流石に男のまま女子更衣室に戻るわけにはいかないので、状況説明が先だろうな。教室戻ろ。幸い次はホームルームで、それが終われば下校の時間だ。女の子をおんぶ……しようとして、やっぱりここはお姫さま抱っこでしょ! と抱え直した。元々救助訓練とかで人を抱えることには慣れているし、特になにかはない。

「あ」

 キンコン、と鳴り響くチャイムの音。巻き込まれ事故してたらもうそんな時間か。そりゃ人気がないわけだ。教室へ急いで、コンコンとノックする。怒られるかな、不可抗力だし許して欲しい。

「コンコンコン、失礼しまあ〜す」
「緩名、何してた。遅刻、」

 ガラッと扉を開けると、先生の鋭い目線が飛んできて、それから見開かれる充血気味の瞳。あはは、驚いてら。ウケる。その反応見たかった〜! 笑顔になっちゃった。

「……磨?」
「うん!」
「……ハア、またか」
「そうなの」

 三奈かな、私を呼ぶ声に頷くと、先生が頭を抱えた。状況把握がお早い。よっ、個性事故請負人! それは私か。またおまえは……と呆れた先生の声と、その一拍後、不自然なほど静まりかえった教室に、複数の悲鳴が響き渡った。うるっせー!

「磨〜!?!?!?」
「なに……っ、なにあの、は? なにあのバカイケメン……!」
「ちょお待って磨ちゃんやばすぎる」
「やべえやべえやべえ、負けてるじゃん俺……!」
「負けてるどころか勝負の土俵にすら上がれてねぇよ……!」
「う、うーん……ギャ! いけめ……ん……」
「……本当に緩名か?」

 阿鼻叫喚、ここが絶叫地獄! みたいな様相を帯びている。うるさいけどめちゃくちゃ面白い。あまりのうるささに腕の中の女の子が目を覚ましたけれど、私の顔を見てお姫さま抱っこの現状を把握した途端再び気絶していた。……へえ、また鏡見てないけど、これはなかなか期待できそうだ。そんなイケメンになってんのかな? 元が美少女だからな〜。自分で言うな。

「……おまえら」
「あっ」
「授業中だってことを忘れてるみたいだな」

 髪を逆立てた先生の一蹴により、一瞬で教室は元の沈黙を取り戻していた。



「……で、効果はだいたい一日程度と」
「はい、本当にすみません……」
「……おまえな、雄英入ってから何回目だ」
「も、申し訳……」
「まあまあ先生、性別反転するだけだし」
「咄嗟に個性の制御が出来なくなるのはコイツにとっても問題だろうが」
「そうだけど、あんまり厳しく言ってあげなくても、ねえ?」
「ひぃっ! かっ、顔が良い……!」
「あ、聞いてないな」

 磨かなしい。ホームルームは荒々しく自習、と書かれ、職員室へ歩きながら会議だ。とはいえ、この人数回目っぽいので、先生も慣れっ子みたい。個性の制御、人により難しいんだろうな。臆病な人だと反動で漏れたりする可能性もある。生物の性別を反転する、という個性は、だいたいの人にはそこまでの害がないけれど、妊娠してる人とかだったら結構危ないかもしれない。あ、考えたら怖くなってきた。一刻も早く制御を身につけてもろて。
 性別転換以外に影響があるのかの確認と、効果時間が分かれば、後は私に出来ることは特にない。違和感もないし、痛みや不具合も今のところ出ていないし。平謝りしつつ私の顔を見て頬を染め、先生の顔を見て青ざめる、を繰り返す女の子を彼女の担任へ引き渡し、私は一応報告書へ記入していく。この個性社会、学校に関わらずだいたい大人数の所属する機関には、こういった個性事故報告書類があるのだ。便宜上の被害者と加害者双方が書いて、悪意の有無や事件事故性の判断、また故意的な物だと看做されれば処罰も有り得る。そうしないと成り立たない社会だしね。あと、事故とは言えあまりにも多発するようだったら指導が入る、らしい。まあ、危険性への予防的な政策だ。

「ね〜、ジャージ貸してたりしない?」
「……ああ、それじゃあキツいか」
「うん、流石に背伸びたし」
「上下いるか?」
「かりた〜い! あ、あと私いまノーパンノーブラでさあ」
「グッ」
「WOW!」
「あら、刺激的な香りがするわ!」

 貸し出しのジャージを探そうとしていた先生が口元を抑えて、マイク先生が大袈裟にジェスチャーして、ミッドナイト先生がうきうきで寄ってきた。ああ、そっか、ヒーロー科は七限授業だけど、他科はもう終わってるのか。なるほど、通りで職員室に先生方が多いわけだ。集まってきたイツメンを先生が散れ散れ、と散らしている。

「おまえな……」
「しゃあないじゃん、ホック弾けちゃったしパンツあんまま穿いてたら鬱血して死ぬと思って」
「知らせ方ってもんがあるだろ」
「うふ」
「うふじゃねェ」

 パコン、と手に持つバインダーで頭を叩かれた。そう、ブラのホックは外れたし、肩もきつかったので肩紐を外してズボンのポケットに、パンツは今日紐のやつだったので片側だけ外して、もう片方はひっかかってる。ぶっちゃけ、ブツを包み込まれてるのに心許ない感じが超違和感だ。なんかこそばゆい。状態だけ見るとかなりスリリングな変態さんだけど、顔がいいっぽいので許されたい。

「応接室開けるから先に着替えて来い」
「ん。あ、女子更衣室に制服とか置きっぱなんだけど、私取りに行っていいの?」
「……授業終わってから芦戸達に着いてきてもらいなさい」
「はあい」

 新品未使用のボクサーパンツと、メンズサイズのジャージの上下、それから靴下と靴まで渡され、誰もいない応接室へ。足もちょっとでかくなったからね、裸足だった。

「あ、これ私か」

 鏡こそないけれど、応接室のガラス棚に自身の姿が反射していた。……なるほど、確かにこれは騒ぐし失神するわ。
 イケメン、と称されたけれど、ガラスに映る自分らまたそれとは種類が違う気がする。髪はそのまま短くなって、まつ毛も長い、物凄く中性的な美少年、って感じだろうか。耽美派〜。うわ、女の時よりもっとめちゃくちゃ今世の父親に似てる。うげ。久しぶりに血を感じてしまった。

「おお」

 とりあえず全裸になって、パンツだけを履いて自分の身体を見下ろす。なるほど、なるほど。個性の影響でなかなか筋肉が付かないのはそのまま反映されているのか、うっすらとだけ筋肉のついた細身だ。こんな感じなんだあ。いや、性別反転するの人生で初めてだからレアだ。ジャージの下を履いて、それから上を。ガラスに向き直ると、うん、やっぱりなんというか……女の時より色気が増してるのは、性別が変わって自分じゃないように見えるからだろうか。なんというか、人を惑わしそうな美少年の雰囲気が凄い。トーマの心臓とか風と木の詩の登場人物か? って感じ。それは言い過ぎ。筋骨隆々のガチムチ男前系だったら口調どうしようか考えたけど、この見た目なら一人称「私」でもギリセーフだろう。ね。

「着〜替えたよん」

 応接室を出て、元の衣服を手に職員室へ。あら、と先生より先にミッドナイト先生が寄ってくる。……ミッドナイト先生の方が私より背高いな。

「へえ、アナタ男になるとこうなるのねえ」
「むい」
「ミッドナイトさん、生徒相手ですよ」
「いいじゃない、ねえ」
「いいんかなあ」

 ペタペタと顔やら身体やらを確かめるようにミッナイ先生に触れられている。くすぐったい。

「線の細いアブナゲな美少年、って感じね」
「そうでしょ」

 それは思った。パパ上に似すぎ。まあそれよりも、確かめたいことがある。ミッナイ先生を離して、先生に向き直った。

「ねえ、一応個性確認したいんだけどいい?」
「ああ、俺が見てる」
「おけ〜え。……むん」

 個性を発動する。暴発に備えて先生のいるところで、と考えていたけれど……うん、無事に、というかなんも変わりなく発動できた。

「違和感は?」
「全然。こっちに影響は出てなそう」

 まれに性別が変わると個性の性質も変わる、と聞くけれど、今回は大丈夫だったらしい。個性因子と遺伝子情報がなんらかに関係しているっぽい。ま、そんな話は置いといて。まだホームルームも半分ほど残っているので、職員室を出て教室へ向かう。あ、新品の革靴、ちょっと痛さある。硬ぇ。

「お風呂とかどうしたらいい?」
「……教員寮の使え。間違っても寮のに入るなよ」
「り」
「略すな」
「りょうかい〜」

 トイレはまあ問題ないけど、お風呂は大問題だ。個室なら平気なんだけどね。就寝は自室で問題ないらしい。替えの下着や服は後で寮まで届ける、って。まあそれもジャージだろうけど。いつ頃戻るか分からないので、明日までジャージ生活か、誰かの服を借りるかだ。

「あれ」
「あ?」
「先生ってさ、普段結構歩幅合わせてくれてる?」
「は?」

 なんか、普段と同じペースで歩こうとすると先生を追い抜かしかける。指摘すると無意識だったのか、目を見開いて、それからバツが悪そうに目を細めた。え、かわい〜。ニヤニヤすると、無言で歩くスピードを早められた。先生足長いからな。とはいえ、今の私も男なので、並ぶのにそこまで苦ではない。

「どうせなら先生の身長越したかったな〜」
「残念だったな」
「あ、いけず笑いだ」
「小学生か」

 実際並んでみると、先生より10センチは低いと思う。少し背伸びをしても追い付けないのは相変わらずだ。とはいえ、元より伸びているのは確実なので、新鮮な視界の高さを満喫するつもりでもある。



「連絡事項は以上だ。解散」
「磨ー!!!」

 授業終了の合図と共に、教室の端から端まで三奈が飛んできた。激しい。

「やっべーまじで男だ」
「轟とはベクトル違いで眩しいな」
「磨ちゃんイケメンすぎる〜! あ、磨くん!?」
「透ちゃん好きね」
「へっへー、イケメンっしょ」

 わらわらとみんな寄ってきた。まあ気になるよね。

「背まで伸びてるー!」
「うわ、細ェけどちゃんと男だ……」
「ちゃんと男だよ」
「顔だけ見ると女でもいけそうじゃん」
「ね、それ思った」

 響香の発言に三奈が同意するけれど、正直私も思った。ユニセックス感ある。

「俺より背高くね?」
「爆豪くらいか?」
「アァ!? 俺のが高ェわ!」
「いやいや、ミリ違いくらいだって」

 だいたい爆豪くんと同じくらい、百よりも少し低いくらいだ。そんなわからん程度。近寄んなオーラを出す爆豪くんに、にやけながら肩を組むと容赦なく爆破を向けられた。避けたけど。ひどい。

「容赦なくて泣いちゃう、えーん」
「きめェわボケ!」
「は? 美少年だから許されるが?」
「中身は全く変わってねーのね」
「あはは、緩名さんらしいや……」
「つかカッチャン、普段はやっぱり手加減してたんだな。緩名も一応女子だし」
「普段は最上級の美少女だわ舐めんなー!」

 でもまあ、たしかに。普段手は出ても個性まで使ってくることはなかなかない。瀬呂くんや上鳴くんとニンマリした生暖かい目線を送ると、クッソうぜェ! と爆ギレしながら教室の扉を破壊しかねない勢いで爆豪くんは帰って行った。切島くんが慌ててその背を追う。仲良いな。私もそろそろ帰ろ、と思ったけれどその前に。

「ねえ、更衣室着いてきてよ」
「ああ、磨一人じゃダメなのか」
「いーよ」
「一応付いてるもん付いてるから……」
「下ネタやめて」
「やん、ごめぇん響香あ〜」
「……!」

 ぎゅ、といつものノリで響香に引っ付くと、ピシッ、と響香の動きが止まった。フリーズだ。響香はかたくなるをおぼえた! なにごと? と腕の中にある顔を覗き込もうとすると、それよりも早く上鳴くんがあ、と間の抜けた声を上げる。

「耳郎顔真っ赤」

 指摘した上鳴くんに、ドックン! と響香のイヤホンジャックがオシオキをした。



「お、いたいた。アレじゃん?」
「ん?」
「拳藤たちだ。どしたのー?」

 更衣室の帰り。三奈と響香と廊下を歩いていると、靴箱に付近でなにやらキャッキャとした声が。振り向くと、一佳を筆頭にB組女子がいた。みなさんお揃いで。

「マジに男になってんじゃん!」
「やばイケメンじゃない?」
「ね」
「キラキラ王子様みたいノコ!」
「ふふん、そうでしょう」

 褒められて悪い気はしない。しかも、普段とは種類の違う賞賛だ。気分良いでしょ。

「っていうかなんで知ってんの?」
「ああ、連絡網で回ってるぞ」
「なにそれ!?」

 連絡網ってなに!? 聞けば、普通科や経営科のイケイケ女子たちの連絡網で、相澤先生と歩いてる姿を目撃されて情報が出回っているらしかった。一佳や切奈は普通科の友達から聞いたらしい。は〜、なるほど。それで放課後にも関わらずなんとなく人が多いのか。そこの女子、盗撮はダメよ。

「磨、鬼バカイケメンになったじゃ〜ん」
「……めっちゃの意味で鬼って使うの今の世代5%もいないらしいよ」
「うっそマジで?」
「爆豪くんに死語! って言われたから調べた」

 肩を組んでくる切奈に言えば、驚いた顔をされた。ね、びびるよね。実際5%もいないらしい。マジかよ。写真撮ろ、ってインカメを向けられるので、切奈の肩を抱き寄せて薄めに笑った。満面の笑みより時代は斜に構えた系でしょ。

「うわ、バカ盛れる」
「ねえアタシとも撮ろ!」
「はいはいおいで」
「磨ちゃん、次私!」

 切奈と離れて、三奈と、それからキノコちゃん……としていたら、気付けばその場にいた響香以外の女子とツーショを撮った。彼氏とデートなうに使っていいよ。 きゃあきゃあとはしゃいでくれる女の子たち、元気だ。たまにはいいかも。

「あの、……っ、あ、」
「ん? あ、ごめん、騒ぎすぎたかな」
「すみません、廊下ではしゃいじゃって」

 一通り撮影会をしたところで、私たちを遠巻きに見ていた女子生徒の一人から声をかけられた。うるさくしすぎたかな。申し訳ない。いくら放課後で広い靴箱の前と言っても、邪魔なことには変わりなかっただろう。先生にバレたら注意されるやつ〜。ぺこ、と揃えて頭を下げたところで、その女の子があああああ! と慌てて手を振った。

「違くて、あっあっあっ、あの……!」
「頑張れ、がんばって!」
「あの、あの! ……っひい!」
「だ、大丈夫ですか……?」

 何事。何かを伝えようとしてくれているけれど、言い淀んで、友達らしき女の子達に応援されていた。……ははん、なるほど。

「ん?」
「っギャー!!! 美……ッ、!」
「あらま」

 写真撮りたいとかかな、と当たりをつけたけれど、ちょっとの意地悪で顔を覗き込んで優しく聞き返すと、ビョンッ! と猫のように飛び上がったその女子が、がくり、と膝から力を無くした。いや、大丈夫か。ヘロヘロじゃん。

「……磨、やりすぎ」
「スケコマシだ」
「ね」
「磨が元々男じゃなくて良かったよねー」
「それ、マジうらめしい」
「いやいや、ボロクソですやん姉さん方」

 ちょっと少女漫画のイケメンムーブをしただけなのに、三奈達からは大クレームが出た。だって恥じらう女の子ってかわいいんだもん。脱力しきった女の子を支えるために腰を抱くと、低い位置からひいい、と最早怯えているような声が聞こえてきて、ちょっと笑ってしまう。かわいい。顔を赤くした女の子の友達たちも、がんばれ! とエールを送ってきた。

「しゃ、しゃしん、写真、を……」
「一緒に撮る? いいよ」
「ひいいい」
「緑谷くんレベルに怯えるなあ、この人」

 とりあえず、ここじゃ邪魔になるから一旦校舎から出よう、と誘って、靴を履き替える。三奈たちもこうなったら、となんだかんだ付き合ってくれるようだ。
 その女の子とメン地下顔負けの接近ツーショを撮って、私たちもよければ……! と並んだ女の子の友達たちとも撮り終えた頃。さあ帰ろ、と声を上げようとしたところで、思いもよらない物を見てしまった。

「……ん? え、ちょっと待って、っあれ〜……なんか……見間違えかなあ……」

 黄色い声の溢れる長蛇の列が出来ている、気がするんだけど。そこ、三奈と切奈と一佳、列整理しない。きのこちゃん、整理券配ろうとすんのやめて。……マジ? 雄英、ミーハー女子が多すぎる。



「つっっっ……かれたあ」
「お疲れ磨〜」
「流石の大盛況だったな」
「まじで……疲れた……」
「まァ……アンタはよく頑張ったよ」
「響香〜!」
「だから抱きつくなっての!」

 労いをくれた響香をぎゅうっと抱き締めると、照れ隠しにイヤホンジャックが飛んでくる。流石にぶっすりはされないけれど、ツンツンとつつかれる力はいつもよりは強めだ。照れてる照れてる。

「地下アイドルのね、気持ちがわかったよね」
「参考になるノコ!」
「や、地下でもメン地下の方だけども」

 きのこちゃんはアイドルヒーロー志望らしいから、参考になったならよかった。

「磨雄英で一番モテてるんじゃないか?」
「それ。女心分かってるから下手な男よりイイ」
「あ〜そうそう、変な男臭さない感じね」
「わかる〜!」

 わかるんだ……。まあ、中性的美少年って人類だいたい好きだから。主語が大きい。

「あ」
「お、物間じゃん」
「なに君たち、揃いも揃って遅……誰だいソレ」

 ソレて。itと呼ばれた子私。一佳たちを送るために寄ったB組の寮から出てきた私服姿の物間くんが、私を見て目を丸くする。

「ソレ呼ばわりは酷くない?」
「ハァ? 近付かないでくれますか?」

 物間くん、私に気付いてない? ちらりと振り向くとB組の女子が揃ってニヤニヤとした顔をする。え〜、そうなんだ。気付いてないんだ。気付いてないながらも、なんとなく嫌な予感を察したようで距離を取ろうとする物間くん。へえ〜?

「!? なんだい君! ちょっ、離してくれないかなァ!?」
「そんな釣れない事言わないで。物間くんとオレとの仲じゃん」
「ハァ!?!? 知りませんけど!?」
「ぶふっ」

 ピロン、と録画を開始した音。切奈の噴き出した笑い声が聞こえる。物間くんの手首に指を絡めて、少しだけ今の私よりも背の低い物間くんに近付いた。……あ、オレか。言い慣れなさすぎ。流石にヒーロー科なだけあって、ヒーローの中では細身といっても物間くんもそれなりに力が強い。まだ男の身体に適応しきっていない私では、簡単に振り払われてしまうので、少々ずるいけど身体強化をさせてもらった。物間くんの脚の間に自分の片足を差し込んで、距離を詰める。鼻先が掠れそうな距離。垂れ目がちの瞳が、キッと睨み付けてくる。キャー、と小さく歓声が上がった。……きのこちゃんかな? 違和感に気付くように、物間くんの眉毛がピク、と動いた。

「……っ、? ……なにしてるんだい、緩名」
「ありゃ、バレた」
「あーあ、バレてやんの」
「録画出来た? 唯」
「ん」
「あとでそれアタシにも送ってー!」
「ウチにも」
「グループに載せるわ」

 おそらく私の個性をコピーしたんだろう。以前にも物間くんは私の個性を使ったことがあるから、まあ気付くよね。性別が変わっただけで顔似てるし。

「ハアアア!? 君たち馬ッ鹿じゃないのか!?」
「だって。言われてるよ〜」
「磨でしょ」
「たちだから私だけじゃないもん」
「全員だよバーカ!」

 馬鹿って言った方が馬鹿〜。謎のイケメン(私)の正体に気付いて安堵と怒りが湧いてきたようで、物間くんがキャンキャン吠えてきた。あはは、うるせー。

「刺激的だったっしょ?」
「ッ、いつまで掴んでるんだい!?」
「あらご機嫌ナナメ。……いつもか」
「物間はいつもだよ」

 ブンッ、と手を振り払われる。そんな嫌がらんでも。私から距離を取った物間くんは、そのままバーカ!! と普段は嫌みによく回る舌は、小学生レベルの悪口を叫びながらどこかへ走っていった。どこ行くん。

「あはは、面白かった〜」
「良いもの見れたわ、ありがと」
「やっぱ物間ってじっとしてるとイケメンだよな」
「イケメン同士、いいわ〜」

 別にボーイズのラブを愛好しているわけでなくても、綺麗なもの同士の絡みは純粋に目の保養になるのだ。わかる。んじゃね、と手を振ってB組ガールズと別れた。



「お、モテ男が帰ってきた」
「ふふん、ただいま」
「お疲れ磨ちゃん! 大盛況だったんでしょ!?」
「なんで知ってんの透」
「三奈ちゃん!」
「ほどなる」

 ほどなるの命。大方私のメン地下チェキ会の様子を送ったりでもしたんだろう。で、クラス内に知れ渡ってるわけだ。

「クッソ、緩名なのにモテやがって……!」
「普段からモテてんだけど」
「普段は女だろおまえ! それはいいの! 男はダメなの!」
「オーイ、心の狭さ出てんぞ」
「許せねえ……ハーレム……許せねえ……」
「こっちもこっちで拗らせてるわね」

 上鳴くんと峰田くんは、なんとなく想像通りだった。ウケる。異性相手でもモテるのは羨ましいらしい。一日限りなんだけどね。

「よいしょ」
「っうえ?」

 ぽすん、と上鳴くんの隣に腰を下ろす。不思議そうな目を向けられるので、肩を掴んで引き寄せた。え? え? と困惑の声。なにをするのか察した響香は呆れの、三奈はワクワクとした表情を見せた。楽しんでんじゃん。
 顎の先を指先で持ち上げると、自然にクイ、と持ち上がる上鳴くんの顔。三白眼気味の瞳に、短めの眉。ギャルのすっぴんみたいではあるけれど、上鳴くんも顔立ち自体は整っているし、チャラさを前面に押し出しすぎなだけでもう少しモテないわけではないだろう。アホな顔してるイメージが強すぎるのもあるかもしれない。顎の下、少し柔らかい部分を指の腹でやわく押すと、周りからゴクリ、と息を飲む音が聞こえる。眉尻と目尻が下がって、紅潮した頬。涙目。男子高校生ってかーわいい。これはこれで需要ありそう。

「ふふ、そうしてたらモテんじゃない」
「っはひ……」

 パッ、と手を離すと、支えを失った身体はよろよろと後ろに倒れ込んだ。腰砕けじゃん。うける。

「……へ、変な扉開きそうになった……」
「アホだ……」
「なんか、すげェいけねえもの見た気がする……」
「男同士でやっても意味ねぇんだよ! 緩名! 戻ってこい! オイラのためにィィィ!!」
「あっはっは」
「朗らかに笑ってら」
「イイもん撮れたー!」

 うーん、男体化、面白いかもしれない。なぜか色気が増してることもあって、こう、誑かしやすいというか。女の子達もドキドキしてるようだ。動画を撮っていたようで楽しそうに見返している。女子はねえ、こういうの、好きだから。

「ヂィッ」
「おや」

 ものすっごい派手な舌打ちが聞こえたかと思えば、爆豪くんがそれはそれは忌々しい物を見るような目付きでこっちを睨み付けていた。

「ほぼ身長の変わらない爆豪くん、こんにちは!」
「喧嘩売ってンかてめェは!」
「すげえな緩名、普段以上に俺様だなアイツ」

 や、と手を挙げるとキレられた。やだあ、いつもより導火線短い。ガルルルル、と威嚇されてるようだ。手負いの獣かよ。

「爆豪くんなんでそんな警戒してんの? ウケる」
「おまえ今上鳴にしたこと忘れた?」
「ん〜、磨、わかんないっ」
「待って、その状態でそれはちょっとキツい」
「ンだと〜?」

 かわいいだろーが! 顎の下でグーにした拳を添えて、きゅるきゅるのぶりっ子上目遣いを披露するとパシャ、と複数のシャッター音が響いた。三奈と透、それから百だ。手で口元を覆ってる百、かわいい。かわいいのでファンサ続行。

「ばっくご〜くん」
「来んなやァ……!」
「そんな釣れない事言わないで」

 普段以上に拒絶がすごい。いつもの来んながポーズだけの拒絶とすれば、これはわりとガチだ。男に引っ付かれるのが、ってよりも身長が変わらないのが気になるのかな。みみっちい。
 両手を構えたまま後退る爆豪くんに迫っていると、爆豪くんの背中がトンっ、と壁にあたる。ふふん、追い詰めた。いつかの爆豪くんにされたように、壁ドンをし返そうと手を伸ばす。けれど、腕が壁に当たる前にひょい、とジャージの襟元を引かれた。首だけで振り向くと、今の私よりももう少し背の高い人が。

「緩名」
「おろ、轟くん」
「イケメントライアングル!?」
「その呼び方ウケる」

 透たちは気楽なものだ。完全にドラマでも観てるような感じだもん。身長が高いから、いつもより距離の近い轟くんの顔。相変らずの無表情。……いや、ちょっとだけ口がム、としているかもしれない。

「どしたの轟くん」
「……爆豪ばっか、ずるくねぇか」
「え?」
「ア゙ァ?」
「爆豪ばっかり緩名に構われてんの、ずりぃ」
「ずるくねェわ状況よく見ろポンコツ野郎!」
「ポンコツじゃねえ」

 ほ〜ん、なるほど。どうやら拗ねろきくんのようだ。構われたがりだもんね、轟くん。後ろからきゅう、と首周りに太い腕が回される。抱き締められちゃった。女の時とは違って柔らかくない身体を、抱き締めて面白いのかは知らない。ぺち、と筋の浮いた腕に一度タップした。

「ねえ、私いま男だよ」
「? 知ってるぞ」
「あ、知ってたか」
「ああ」
「ほ〜ん、そっか」
「……人様の前でワケわからんやり取りしてンじゃねェ!!!」

 わ、爆豪くんがキレた。びっくり。声量がデカい。うるさ、って顔を顰めると、轟くんの手が私の耳を軽く塞いだ。ナイス〜。

「も〜、爆豪くん声でかい……っあ、噛もうとしないでよ!」

 人差し指を爆豪くんの唇に当てようとすると、その前にガチンッ! と噛み付かれそうになる。いや怖い怖い。ワニワニパニックより強めの噛みつきじゃん。かみつくって言うか最早かみくだくだな。威力80。ギャンギャンに吠えてくる声は、轟くんの手がやんわりと隔ててくれるのでスルーして、背後の轟くんにそのままもたれかかった。わあ、顔ちっか。えげつなく顔綺麗だな。……私もだけど!

「なんか、いいな」
「ん? なにが」
「背が高ぇだろ、今」
「うん」
「……おまえの顔が近くて、嬉しい」
「ひっ」

 そう言って、ふわっと微笑んだ轟くん。クソッ、顔面の輝きが凄すぎる。shine。思わず引き攣った悲鳴が出る程度にはイケメてる。心臓バクバクになりすぎて止まりそう。フルマラソン後みたいに早まる鼓動を抑えたら、今度は轟くんから引き離すように伸びてきた手に腰を引かれた。

「わあ」

 ぽすん、とカチカチの筋肉の付いた方に顔が着地する。あ、ちょうどいいサイズ感。いつもは私よりも高い爆豪くんだけど、今は背がほとんど変わらないから、ちょうど肩に顎を乗せれる。すごい。……いや、なんで抱き締め? られてんの。

「何するんだ、爆豪」
「いい加減目の前で鬱陶しいだけだわボケ」
「……抱き締める必要はねえだろ」
「アァ? 抱き締めとらンわ!」

 いや、抱き締めてるよ。だって腰と頭に腕回ってるもん。抱き締めてるよ。お手本のようなハグだ。怒鳴りながら爆豪くんの腕にはさらに力が篭って、腰を引き寄せられる。なに、さわさわしないで。セクハラだぞ!

「なに?」
「ンでこんな貧弱なんだてめェ」
「は〜? 喧嘩する?」
「それは俺も思ってた。女の時もだが、細くねぇか」
「ぎゃあ! どこ触ってんの!」

 轟くんの腕が、爆豪くんが触れているのとは反対側のお腹周りを撫でる。細い、と言われても。

「くすぐったいって! 離して! 響香助けて〜!」
「は? 嫌だけど」
「嫌だけど!? ……緑谷くん!」
「僕にはちょっと荷が重いかな、はは……」
「ヒーロー精神は!?」

 ひどい。ヒーローの巣窟なのに誰も助けてくれない。と思ったら、上から手を差し伸べてくれた障子くんが抱き上げてくれた。やっぱりね、持つべきものは最高の障子目蔵。紳士。
 障子くんの首にいつも通り抱き着いて、下界を見下ろす。は〜酷い目にあった。性別関係なくセクハラはセクハラなんだからな! って言うと、普段の自分の行いを指摘されてしまった。論破失敗。ぐぬぬ、と唇を噛み締めると、私を抱き上げる障子くんの腕がひょい、と動く。なんだろ、高い高いかな?

「確かに、男になっているにしては軽いな」
「だろ」
「ええ〜、そう?」
「ああ。身体に不調はないか?」
「ん、大丈夫だよ。……まあ、ほら。同じ身長なら、男女だと男の方が体重軽くなりやすいって言うし」

 あと体質的に筋肉ほぼ付かないし。軽いのもまあ仕方ないんじゃなかろうか。ね。百に同意を求めると、頷いてくれたからそうなんだろう。説得力のある味方がいてくれてよかった〜。納得したようで、障子くんがゆっくりと下ろしてくれる。ラブいな。

「うわ、本気で腰細い」
「ぎゃ、またセクハラ」
「待って、腕とか私より細いんちゃうん」
「やあ、流石にそれはないよお茶子ちゃん」
「顔もさー、やっぱ綺麗だよね」
「ふふん、それは元から」

 今度は三奈に腰を掴まれる。あっという間に女子に囲まれた。お化粧したい、とだれが言い出したかわからないけれど、いいね、やっちゃお、とその場のボルテージが上がっていく。

「ちょっと待って待って、私、元々女なんだけど!?」
「でも女装いいじゃん?」
「普段女なのに!?」

 わけかわからん。普段女装してるのに、男体化した今もまた女装するの? わけがわからん……。つまりどういうことだってばよ。分かんないけど、なんとなく私の貞操が危ない気がして逃げようとジリジリ後ずさる。流石に女子の剣幕には勝てないのか、男子たちは近寄ってもこない。裏切り者たちめ。元に戻ったら全員女装させてやる! どうやって振り切ろうか、逃走ルートを頭の中で展開したその時、コンコン、とノックの音が響いた。

「緩名、いるか」
「先生〜!」

 神! グッドタイミング! 助かった! と飛びつこうとすると、先生の後ろには数人の女子生徒が。手には紙袋を持っていて、見たところ、先輩っぽい。

「おまえにお客さんだ」

 そういう先生の顔はなんとなく渋かった。……なんか、嫌な予感。

「磨くん!」
「くん!? は、はい、なんでしょうか」
「私たち、経営科とサポート科の三年なんだけど、磨くんの姿を見てインスピレーションが止まらなくなって……! それで、私たちの個性を使って、みんなでデザインしたお洋服を作ってきたの……!」
「はあ」
「それで、それでね……! 磨くん、男体化して、着るものがないって聞いたから、ぜひ着てもらえたらと思って……! ううん! お礼なんていいの! ただ、衣装を着て二、三枚……二、三百枚くらい写真を撮らせてもらえたらそれだけで十分だから!」

 結構強欲だな。桁が一気に飛んだけど。衣装、と言っていたが、え、これ全部? なんか、普通に十着くらいありそうなんだけど。……え、まじ?

「磨くん! お願い! 一生のお願いよ!」
「卒業する私たちへのお祝いだと思って!」
「こんなこと、緩名さん以外には頼めなくて……!」
「緩名くん程キラキラの王子様は今後現れないの! お願い!」
「お願いします!」

 形相が怖い。必死のお願いは、ほぼ脅迫に近かった。これどうしたらいいん、と先生を見ると珍しく目を逸らしてくる。ハハハ、……はあ。

「なるべく手短にお願いします……」
「ありがとう!!!」

 そうと決まれば! と手を引かれて、抗うことも出来ず私は連れていかれた。テーマソングはドナドナだ。ある意味、敵連合より恐ろしい。



 結局解放されたのは、最終下校時刻を過ぎるか過ぎないか、の時間だった。……疲れた。

「お疲れさん」
「せんせえ……」

 よかったらこれ! 未使用だから! と貰った男も物の、恐ろしいほどサイズのピッタリな下着とスウェットを抱えて、教員寮の共有スペースでへばる。エリちゃんの小さな手が、大丈夫? と男になった私に少し怯えながらもよしよしと撫でてくれた。癒し。今日一番の癒しだ。

「まじでやばい……女子怖い……」
「……まァ、ゆっくり風呂でも浸かって来い」
「うえ〜ん本気で疲れた」

 何度も衣装チェンジをして、本格的な撮影セットの下で数百枚、下手したら千までいったんじゃないかってくらいの写真を撮られた。ブロマイドにして配布してもいいかと聞かれたけれど、もう好きにしてほしい。……少なくないモデル代を提示されたあたり、流石経営科だな、と思ったけれど。

「お姉ちゃん……お兄ちゃん? かっこいい」
「ありがとう、エリちゃん」

 小さな手を取ってよいよい、と動かすと、小さくクスクスと笑う。かわいい。ふ、と唇を綻ばせると、エリちゃんの頬が薄紅に染まった。あらま。

「さっさと風呂入って来い、初恋泥棒」
「あはは、その言い方先生がするとウケんね」

 まあね、この容姿ならそりゃ初恋泥棒にもなる。エリちゃんの髪をさらさらと撫でてから、ヨシ、と気合いを入れて立ち上がった。疲れてる時のお風呂って気合いいるよね〜。

「入浴剤使っていい?」
「あるならいいぞ」
「ん、貰ってきた」
「……ちゃっかりしてんな」
「まぁね」

 先輩たちに持ってる人いないか聞いてみたのだ。疲れが取れる、と評判の、重炭酸の物を貰った。もちろんタダ。付き合わされた報酬はね、そら〜もう十分過ぎるほどにはいただきますよ。いくつか渡されたお礼の中から、桃を取り出す。よく熟れた桃だ、うん、美味しそう。冷蔵庫で冷やしておこう。

「お風呂上がったら一緒に食べよっか」
「うん!」
「どんだけ貰ったんだ」
「あはー、まあ、めちゃくちゃいろいろいっぱい貰ったよ」

 その代わり、結構いろいろと交渉されたけど。

「交渉?」
「ん〜……なんかね、ファンクラブを設立したらしくて」
「一日だろ、個性の効果」
「そうなんだけどさあ」

 これには私もびっくりだ。ファンクラブて。女の私より人気あるんじゃないか? と思うけれど、推し活とか熱心なのってやっぱり今の時代女性の方が多いからなのかもしれない。

「……で、たまにでいいから、こうやって男体化して欲しいらしく」
「はァ」
「ね、そういう反応なるよね」

 先生が着いていけない、というように口を開けた。お、レアな表情だ。先生のレアな表情集め、一種類追加。

「許可したのか?」
「んー、んん……日常と学業、ヒーロー活動に支障が出ない範囲で……めちゃくちゃ稀になら……ってので、妥協点だったかな……」
「はァ」

 すげェな。と呟いた、そのすげえの意味はどれだろうか。ははは……、と私の乾いた笑いが、虚しく空間に反響した。
 次の日も、登校から個性が切れるまで女の子の訪問が耐えなかったんだけど、まあ、たまにならギリ許容範囲……と思っておこう。



(結局半年に一度に押し切られた)



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