ベテルギウスにお願いね(相澤、教師陣/10万打)



※生徒の前で飲酒する教師が居ます
※倫理観ちょっと緩め


「これ」
「うん?」
「……お姉ちゃん、作れる?」
「たぶん。作ろっか」
「……うん」

 これ、とエリちゃんが指さしたのは、ぶり大根。なんとまあ、6歳にして渋い嗜好だ。わかる、美味しいよね。季節的にもピッタリだし。今日……は材料がないな、明日でいい? と聞くと、いつでもいい、です。と控えめなお返事が。そんなところで遠慮しなくてもいいけれど、やっぱりそのへんはまだまだ難しいらしい。ありがとう、と手をきゅっと握ってくるエリちゃんの頭を撫でて、よし。そうと決まれば。



「たのも〜」
「どうした」
「キッチン借りていいですか?」
「……ですか?」

 材料は買った。ちなみにこういう時のエリちゃんの食費は経費として引き落とされます。が、生憎砂藤くんのお菓子作りとマッチングしてしまった。いつでもいいから譲るぜ! と言ってくれたが、他に宛があるし、なにより私もエリちゃんも砂藤くんのお菓子が食べたいのでぜひ作ってくれ、と教員寮にやってきたわけである。エリちゃんと並んで首を傾げると、さすが先生、状況把握が早い。ドーゾ、と引き入れてくれた。今日は一応お休みなので、先生も私服だ。とはいえ先生の私服は真っ黒なスウェットで、ヒーローコスチュームとそんなに違いはないけれど。

「こっちのキッチン初めて使うかも。めっちゃ綺麗じゃない?」
「ああ、まあ料理しねェからな」
「……え、誰も?」
「誰も」
「不健康〜……」

 先生はなんとなくわかっていたけれど、他の先生達もしないんだ。なんとなく意外。そのせいか、学生の寮とほぼ同じ作りのキッチンは使用された形成がなくめちゃくちゃ綺麗だった。でも道具だけ充実してる。使われなさすぎて調理器具が泣いてるよ。

「んじゃ、お借りしま〜す」
「ハイどーぞ。気を付けろよ」
「ん、先生も今日一緒に食べよっか?」
「うん!」
「……ああ、じゃあ頼む」
「ふふ、はーい」

 元気よく答えたエリちゃん。一緒は嬉しいもんね。それに押されて、まあ断る必要もなかったんだろう先生も頷いた。時間かかるから先生と遊んでてね、と声をかけて、エリちゃんを先生に任せて、私はキッチンへ。材料いるかな〜、ってなんか結構多めに持ってきちゃったからちょうど良かった。作りすぎても、自寮に帰れば成長期の少年少女がいっぱいいるので持ち帰ればいいだけだしね。あ、お米炊いとこ。米もなんぼあってもいいですからね。業務用サイズの炊飯器もあるけれど、今日は普通に五合炊きだ。

「ねー、先生嫌いなものない?」
「なんでも食うよ」
「雑食だあ」
「俺もなんでも食うぜ!」
「あれ、いつの間に」

 キッチンからリビングへ声をかけると、これまた私服のマイク先生まで生えてきていた。いつの間に。エリちゃんが自室から持ってきたスケッチブックにお絵描きしているようだ。目指せ壁サー。
 お米のとぎ汁でぶりの下処理をして、献立を考える。基本ノープランだ。先生達いるし肉……いや、アラサーってどうだっけ。前世の記憶を思い起こすけれど、うーん、そろそろ胃がしんどくなりだす時期だった気もする。まあヒーローだし大丈夫でしょ。身体が資本だ。……牛肉とキャベツのオイスター炒めだな。あとオムレツと、あ、キャベツはお味噌汁にも入れよ。キャベツとかぼちゃでいっかな。献立決定。なんか少し懐かしさを感じる。自分一人なら別に適当でいいけど、誰かに作るならまあまあは作りたいよね。エリちゃんいるし、しょうがは少なめで針生姜乗せるかな。ほんとはちょっと冷ました方がいいけれど、まあいいだろう。家庭料理家庭料理。
 なんて考えながら調理を進めていると、エリちゃんがこそっと覗きに来た。

「どしたの? 先生たち遊んでくれなかった?」
「ううん」
「見たいんだと」
「あら、なるほど〜」

 カウンターからひょい、と先生とマイク先生が顔を覗かせる。二人ともデカイな。マイク先生に至っては頬杖付いて一昔前のぶりっ子ポーズまでしてくれている。ちょっと面白い。

「先生たち背高いから料理する時大変だね」
「まァそーね。しねェけど」
「そうだな。料理しないが」
「この大人たちは……」
「手伝うか」
「んん、間に合ってま〜す」

 揃いも揃って。必要なければしないのはわかるけど。雄英にはなんたってランチラッシュもいるしね。でも先生はゼリーに頼りすぎだと思う。
 エリちゃんがちょっとだけ離れて私の横にいるけれど、エリちゃんの身長だと見づらいんじゃないかな。

「先生に抱っこしてもらった方が見えやすいんじゃない?」
「だって。そうするか?」
「うん」
「おいで」
「ありがとう」

 先生がエリちゃんを抱き上げる、その光景がめちゃくちゃ和むので、マイク先生と目を合わせて頷きあった。うん、かわいい。写真を撮ってたようなので、後で送ってもらおう。
 トントン、と包丁の音が響く。キャベツのザク切りの音って、なんとなく耳に楽しいよね。エリちゃんは真剣に、キラキラとした顔で私を見つめていた。かわい〜。

「子どもの頃って、人が料理してると見たくなるよねえ」
「Ah、なんとなく分かる分かる」
「……おねえちゃんもそうだったの?」

 その質問に、一瞬固まって、すぐに料理を再開した。そうだった、と言えばそうだったな。もう前世、遠い昔のことだけど。今世では、そんなになかった気がする。だって中身が大人なんだもん。

「うん、そうだったよ」

 話題のチョイス、ちょっとだけ失敗したかもしれない。一瞬目を伏せたように見えた先生たちが、何を考えたかなんて、わからないけれど。まあ、エリちゃんが楽しそうに笑うのでいいか。

「フフ、一緒だね」
「ね」
「大人でも結構見てると楽しいもんだぜ?」
「そうなの?」
「ああ、そうかもな」

 こてん、と首を傾げたエリちゃんに、先生が同意する。言われてみれば確かに、寮でなにか作ってると結構みんなわらわら寄ってくる気がする。……余剰分目当てなところも勿論あるだろうけど。砂藤くんがなんか作ってたら並ぶもんな。これはちょっと違うか。
 火にかけていたぶりがひと煮立ちしたので、落し蓋をして、その他の調理へ取り掛かる。

「……味噌って結構入ってんだなァ」
「ふふふふふ」

 マイク先生のしみじみした物言いが面白くてちょっと笑ってしまった。まあ量があるしね。作らない人が見たらちょっとびっくりするのかもしれない。はー、おもしろ。今度先生たちで調理実習してほしい。いや、炊き出しとかも授業の一環にあるし、一通りはできるんだろうけど。
 小皿にお味噌汁をよそって、一口。うん、めちゃくちゃ自分好み。

「はい、味見」
「ん!」
「どう?」
「おいしい」
「よかった」

 エリちゃんにも渡して、零れないように気をつけて飲んでいた。ついでに先生達にも。

「薄くない?」
「ちょうどいい」
「美味ェ」
「よかったよかった」

 お味噌汁はこれでいいとして、あとはオムレツだ。寮のコンロ、いっぱい付いてるのとてもいい。そりゃ大型システムキッチンだからっていうのもあるけど。ま、使われてないから折角のコンロも宝の持ち腐れではある。可哀想だからちょこちょこ使いに来てあげよう。私の手垢で汚してやる。

「わあ」

 ジュワ、と牛乳に溶いた卵を流し込むと、エリちゃんが歓声を上げた。かわいい。具材を乗せて、くるくると包むと嬉しそうだ。今度はオムライスにしよ。もうそろそろかな、っていう所でお米が炊き上がって、エリちゃんのお腹も小さくきゅるる、と鳴いた。恥ずかしそうにお腹を抑えているエリちゃんがかわいい。まだ一般的な夕飯からはほんの少し早い時間ではあるけれど、まあいいでしょ。外暗いし。あとは盛り付けて、完成だ。



 配膳はしてくれたので、お茶を入れて、席に着いた。飲み物用の冷蔵庫を開けたら、めちゃくちゃびっくりした。水、水、水、エナジードリンク、エナジードリンク、エナジードリンク、コーヒー、コーヒー、コーヒー、牛乳、牛乳、ゼリー、ゼリー、ゼリー、ゼリー。奥にお酒。なんだこれ。誰でも自由に持っていいストックらしいけれど、あまりにも、あまりにもすぎる。酷くない? 大人って……。エナジードリンクとゼリーで生命保たせるのやめてほしい。健康によくないから。
 ま、それは置いておいて。ひとまず手を合わせて、晩ご飯だ。

「「いただきます」」
「はい、どうぞ」

 私とエリちゃんはそこまでたくさんのご飯は盛っていないけれど、先生たちの前には大盛りのお米がある。すごいな、やっぱり身体おっきい人はいっぱい食べるよね。

「おいしい!」
「美味い」
「ん、ありがと」

 あ、意外と味染みてていい感じかもしれない。我ながら普通に美味しい。ぶり大根久しぶりに食べた気がする。

「あ〜、久々にこう、手作りっていう料理食ったなァ」
「ランチラッシュも手作りだろ」
「それはまたちょっと違ェだろ! なんつーか、なァ? 緩名」
「まあわかるよ」

 プロじゃない、家庭の味ってあるある。ちまちま食べる私たちとは違って、先生達は食べるスピードが早い。自分の分は確保してるから焦る必要はないんだけど。マイク先生は一々感想を言ってくれるし、先生は「美味ェ」しか言わないけれど、それで十分だ。そういえば。

「食レポの仕事とかとかあるの?」
「そういうのはだいたいファットの仕事だなァ」
「ああ、味の宝石箱や〜って」

 なんとなく想像が付くのがまた面白い。現代のヒーローは、それもどうかと思うけどタレント色も強くて、マイク先生だってラジオをしたり、メディアに出ることも多数だ。先生はメディア嫌いだけど。っていうか、相澤先生が食レポしてるところ、想像が付かない。

「あら、楽しそうなことしてるじゃない」
「ん、ミッドナイト先生」
「これ、緩名さんが?」
「うん」
「へ〜、凄いですね」
「13号先生まで」

 お味噌汁をゆっくり飲んでいると、私服のミッナイ先生と、同じく私服の13号先生が。ヒロコスじゃない13号先生レアなんだよね。後で自慢しよ。

「お出かけ帰りですか?」
「ウフフ、ちょっとね」

 あ、これ飲んできたな。ふんわりお酒の匂いがする。自宅に帰れもするみたいだけど、結構な数の先生たちが寮で生活しているみたいだし、たまには息抜きも必要だろう。……先生やマイク先生の呆れたような目付きを見るに、結構頻繁なのかもしれないが。

「あ〜、いい匂い。染みるわあ」
「まだありますよ〜」
「へえ、ちょっと摘ませてもらおうかしら」
「ふふ、どうぞ」

 余った分は持って帰って男子高校生の胃に消えるだけだし。ちょうど私も食べ終わったので、自分の食器を下げる。ついでに、お箸とお皿を持って言った。

「あらありがとう、ホント気の利く子ね」
「わ、僕のまで。ありがとう、緩名さん」
「どういたしまして〜。あ、エリちゃんもうごちそうさま?」
「うん。ごちそうさまでした」
「はい、お粗末さまです」
「あのね、あのね、とってもおいしかったの」
「うん、よかった。嬉しい」

 エリちゃんがお皿を立ち上がってお皿を持ったから、後ろに続いて台所へ。まだ流しまで届かないからね。あ、洗い物もしとこ。さっき使ったのはもう終わっているけど、軽く流して食洗機に放り込むだけだしね。先生たちは、食べるのは早いが食べる量が桁違いで、まだ食べておられる。ミッナイ先生が景気よくビールの缶を開けているので、これは長くなるだろうな、と察した。

「リンゴ剥く?」
「! うん!」
「うさぎさんにしよっか」
「うん、うさぎさん……」

 持ち寄ったリンゴの皮を剥いていく。さすが旬なだけあって、皮を剥くだけで甘いいい匂いが広がった。何個かはウサギにして、剥き上がった物をお皿へ盛って運んだ。

「おいで」
「うん」

 ソファに座ってエリちゃんを呼ぶと、すぐ横にぴったりとくっつくように隣に座った。シャク、と小さな口でリンゴを頬張って、口角を小さく上げている。

「おいしい?」
「うん! おねえちゃんも」
「ん、一個もらうね」

 爪楊枝にさして一つ摘むと、うん、美味しい。果物はわりと摂取しているけど、やっぱりリンゴ美味しいな。

「緩名さん、器用ですね」
「ほんと、嫁に来て欲しいわあ」
「ミッドナイトさんそれセクハラですよ」
「なによ厳しいわね!」

 ミッナイ先生の嫁にいくのか。……ちょっと大変そうだな。あと、なんとなくわかってはいたけど絡み酒かな。普段から絡み酒みたいなもんだけど。

「はい、先生たちもよければどうぞ」
「へェ、キュートじゃん」
「キュートでしょ」

 先生たちにも剥いたリンゴを差し出す。まあご飯物を食べてはいるけれど、旬の物は身体にいいので……食べ合わせは気にしない。どうせお酒入ると一緒だしね。ああ、ミッナイ先生が早くも二缶目に突入している。冷蔵庫にお酒いっぱいあったもんね。ああ、ミッナイ先生がグラスを三つ出している。13号先生は飲まないらしいし、ということはあの二人の分だろう。お酒飲んだらどんな感じなんだろ。ちょっと楽しみ。

「生徒の前ですから、」
「あ、私のことは気にしなくていいよ」
「ほらね、緩名さんもそう言ってるし」
「ソーだぜ相澤! たまには飲もうぜマイフレンド!」
「ああもうめんどくせェ……緩名笑うな」
「ふふふ」

 先生がアルハラされている。せっかくだから、とソファを降りて先生の元にあるグラスに、トクトクと生をついでいく。缶ビールだからあんまり泡は綺麗につくれないけれど、綺麗な小麦色はこう、アルコール欲をそそられる。いや、私は飲まないけどさ。今は未成年だし。

「やけに手慣れてんなァ……?」
「おばあちゃん酒飲みだからねえ」
「ハア……面倒だから手酌でいい」
「緩名ー! 俺も」
「自分でやれ」
「まあまあ、一杯くらい」

 マイク先生のグラスにも、新しく開けた缶ビールを注いでいく。シュワシュワと炭酸が弾ける感覚はやっぱりいいな。見れば、ミッドナイト先生が細長い瓶とショットグラスを取り出していた。……え、テキーラ? マジか。いや、うん。イメージには合ってるけど。
 エリちゃんのところに戻って、お茶と一緒にぶり大根を味わっている13号先生と三人でポツポツお話をする。13号先生は星や宇宙のお話をいっぱい知ってて、ロマンチックでいい。あと顔がいい。

「冬は星が綺麗だからいいですよね」
「ああ、そうだ。僕の部屋、いただいたプラネタリウムの機械があるから、今度皆で見ようか」
「ぷらねた……?」
「お部屋の中で、星を映し出せる機械だよ」
「すごい……!」
「ね、素敵だよねえ」

 家庭用プラネタリウム、前世の時でもなかなか凄かったけど、それよりも技術が発展してるこの世界のはもっと凄い。投影感が段違いだ。VRに近いものがある。

「最近星座の絵本読んだもんね」
「うん! あの……おりおんさん?」
「オリオン座、冬の星座だね。今からの季節に、きっと見えるよ」
「……お空、今もあるのかなあ」
「うーん、今日はあんまり天気が良くなかったから……今度、天気の良い日に観測してみましょうか。天体望遠鏡もあるので」
「わ、素敵!」
「ぼうえんきょう」
「覗き込んだら、遠くにある星がすっごい近くに見えるんだよ」
「わあ」

 エリちゃんも興味津々だ。生徒を誘ってやろうか、と13号先生が企画してくれたので、とりあえずまずはお茶子ちゃんに連絡を入れといた。秒で行く! とのお返事。あ、デクくんも! って追撃が。こっちはヒーローマニアの性だな。こういうのが出来るの、寮生活のいいところだよね。星座や宇宙に興味津々のエリちゃんに、13号先生が持ってるらしい関連の絵本や子どもにも分かりやすい絵本を自室から取ってきてくれるようだ。

「楽しみだね」
「うん……! お星さま、いっぱいあるんだね」
「それはもう果てしないくらいには」
「いっぱいよりいっぱい?」
「数え切れないくらいあるよ」

 宇宙は広大で、だから少しだけ怖さもあるんだけど。楽しみのためか、赤く蒸気したエリちゃんのほっぺを手で包み込んで、うりうりと動かした。もちもちだ。

「緩名、もはや母ちゃんみてェだな……グッ」
「余計なこと言うな」

 エリちゃんの耳には届かなかったらしいが、若干センシティブな発言をしたマイク先生は相澤先生にチョークスリーパーをキメられていた。よく見たらビールの空き缶が増えている。私たちが宇宙のロマンで和んでいる間に、もうそんなに飲んだのか。

「お待たせしました」
「わあ」
「え、すごい」
「個性柄いただくことが多くて……」

 戻ってきた13号先生の手には、子ども学習ようの星座や宇宙の本やグッズがたくさん。いいな。

「これも、いくつかあるので……はい、エリちゃん」
「? ありがとう」
「緩名さんにも」
「わあ、ありがとうございます」

 渡されたのは、小さな家庭用プラネタリウムだ。え、高級……とまではいかないかもしれないけど、それなりの値段がしそうな物を頂いてもいいんだろうか。貰えるものは有難く貰うけど。

「さっき言ってた星が見える機械だよ」
「簡単なものだけどね」
「……! ありがとう!」
「どういたしまして」

 お部屋に帰ってから使おうね、楽しみだね、と改めて13号先生に感謝した。最高のプレゼントだ。

「13号先生と結婚したい」
「エ!?」
「あら、女がいけるんなら私はどう?」
「ミッナイ先生はガチで食われそうなんでちょっと……」
「なんつー会話してんだ」

 マイク先生は楽しそうに笑って、先生には呆れられてしまった。いや、13号先生、背も高いし顔もめちゃくちゃイケメンだし、優しいし紳士で素敵だし、同性とか関係なく結婚したいじゃん。お茶子ちゃんがいたら全力同意してくれる自信ある。と、そうこうしていたらエリちゃんがふわあ、と欠伸をした。

「ねむい?」
「うん……」
「はは、もう寝ちゃおうか」
「うん」
「ん、じゃあ、ちょっとエリちゃんのお部屋行ってきます」
「おっ、いってら〜」
「わるい、任せた」
「はあい」
「おやすみなさい」
「うん、おやすみ」

 13号先生から貰ったいろいろを持って、歯磨きを経由してエリちゃんのお部屋へ。先生たち盛り上がってたけど、大丈夫だろうか。まあ大人だし大丈夫か。
 エリちゃんの部屋には何回か来たことも、泊まったこともある。エリちゃんの身体にはまだまだ大きなサイズのベッド。エリちゃんの肩まで布団をかけて、隣に寝転んだ。うとうととしているけれど、寝落ちるまでまだあとちょっとかな。なら、と思い、13号先生にもらったプラネタリウムを付ける。

「きれい……」
「うん、綺麗だね」

 暗い室内を、優しく星々の小さな光が照らす。ちっちゃい玩具のようなものだけど、なかなか侮れない。タイマーまで設定できるんだから、とても優秀だ。いいな、星見ながら寝落ちるの。プラネタリウムで寝るのって気持ちいいもんね。お金払ってるからわりと起きちゃうけど、家庭用ならうってつけだ。冬の大三角形を探すと、すぐに見付かった。そこから辿って、オリオン座を指差す。

「あれかな」
「おりおんさん」
「うん」
「おりおんさんは、どうしておりおんさん?」
「うーん……なんでだっけ」

 だいたいギリシャ神話だよね。エリちゃんに分かりやすいお話はないかとスマホで検索していると、うとうととしたエリちゃんが、ごし、と眠たげに垂れた、もうほぼ開いていない瞼を擦った。

「リボン……」
「うん?」
「リボン……に、見える……」
「たしかに」

 リボンと言われればリボンっぽくもある。間違っても人には見えないから、昔の人は何を思ってあれをオリオン座としたんだろう。だいたいこじつけだろうな、って思うのはさすがにロマンがなさすぎ? 布団越しのおなかを、ぽんぽんと穏やかなリズムで、優しく叩く。エリちゃんの綺麗な赤い目はもうすっかり隠れて、時折長いまつ毛が震えた。小さな唇が、うっすらと開いている。かわいい。

「おやすみ」
「ん……みなさ……」

 それからすぐに、すう、と穏やかな寝息が耳に届く。プラネタリウムの設定を1Hにして、エリちゃんの部屋を出た。

「おや、緩名少女」
「あ、オールマイト」
「来ていたんだね」
「うん、ちょっとご飯作りに」
「へえ! 私も食べてみたいなあ」
「結構作ったんで残ってるよ〜、多分」
「それならいただこうかな」

 出たところで、オールマイトと遭遇した。ラフだ。なにしてたのかと聞くと、また緑谷くんと特訓していたらしい。蜜月〜。

「わあ、どんちゃん騒ぎ」
「これはまた珍しい」

 共有スペースに戻ると、先生方が増えていて、さっきよりも賑やかになっていた。あ、13号先生がミッナイ先生に掴まれている。手にあるのはお茶だろうけど、まあ、ご愁傷さまといったところだ。楽しそうでいいじゃん。

「お、緩名。頂いてるぞ」
「はあい、どうぞ〜」

 ブラド先生にエクトプラズム先生まで。エクトプラズム先生、私服姿だとめちゃくちゃ数学の先生感が強い。

「お味噌汁いります?」
「うん、よければ」

 オールマイトに問いかけると、よし、あっためちゃおう。冷めちゃってるだろうし。あとなんか、適当にツマミでも作るかな。

「オールマイトは飲まないんですか?」
「いやぁ、私飲めなくてさ」
「あ、なんかそんなイメージはあるかも」
「そうかい?」
「うん。卵いる?」

 温め直すついでに、余った材料でだし巻きを作る。ほうれん草入れていいかな。オールマイトも好き嫌いがないみたいなのでぶち込もう。どうやらオールマイトは、素面であのテンションの中に混ざるのを遠慮しているらしく、くるくると卵を巻く私の隣でへえ、器用だね! とか緩名少女はすごいね! だとか、一々隣で褒めてくるのはちょっと照れる。

「あ、そうだ。作ってもらってばかりで申し訳ないし、よければこれ、いらないかい?」
「ん〜? ……いぶりがっこじゃん」
「そうそう、先日ちょっと頂いてね」

 めちゃくちゃお酒のアテだ。ちょうどいい。

「じゃ、これも出しちゃっていい?」
「もちろん! なんだかすまないね」
「いいよ、楽しいし」

 だし巻きをお皿に移して、オールマイトは自分のお味噌汁をよそっていた。いぶりがっこを切って、冷蔵庫に入っていた誰のかわからないクリームチーズを乗せて、蜂蜜とブラックペッパーを少々。これ美味しいんだよね。

「えっはちみつかけるのかい?」
「そうそう。美味しいの、これ」

 居酒屋にたまにあるけど、オールマイト居酒屋とか行かなさそう。炊飯器が空になっていたので水につけて、だし巻きといぶりがっこを持って先生たちの元へ。オールマイトって食べる量結構少ないよね。後遺症的なあれなのかなあ。

「はい」
「お、ツマミがきた」
「言い方〜」

 先生とマイク先生の間に腰を下ろす。うわ、酒臭い。顔色とかは特に変化がなさそうだけど、二人ともお酒強いんだろうか。

「緩名! ……さんはダメね、未成年だったわ」
「え、なにそれ」

 ミッナイ先生が手に持つのは、なんかカエルとか住んでそうなドブ色の液体の入ったグラス。

「やべェだろ、あれがあの人の酒癖」
「ドリンクバーの男子高校生みたいな酒癖じゃん」
「Ah! 言い得て妙だな」

 いろんなものを混ぜ合わせたカクテルを作るのがミッナイ先生の酒癖らしい。あ、ブラド先生が被害に。可哀想。豪快に角ハイ飲んでたのに。

「美味ェなこれ」
「そうでしょ」
「だし巻きも美味ェ〜」
「ご機嫌じゃん」

 いぶりがっこチーズをポリポリと齧る先生が、ちょっと驚いたように目を見開いた。はちみつだくだくだとなお美味しい。赤ワインに合うんだよね〜。ご機嫌なマイク先生がぐぐっ、と体重をかけてきて、先生の方に身体が傾いた。やっぱり酔ってるな? 私は未成年なのでちゃんとお茶だ。肌寒い季節、あったかいお茶が一番美味しい。

「緑谷少年も言っていたが、緩名少々は料理も上手なんだね!」
「ふふ、ランチラッシュには全然適わないけどね」
「いやいや、本当に、緩名少女はいいお嫁さんになりそうだ! ……あ、これもう時代的にまずかったかな」
「いえいえ」

 お嫁さんねえ。特に考えてはいないけど。

「じゃ、行き遅れたらオールマイトがお嫁さんにしてくださいね」
「エッ!?」
「あら! あらあらあら」

 ちょっとからかってやろうと口を開くと、両横が同じタイミングでビールを噴き出し、ミッナイ先生が楽しげにギュンと近付いてきた。女子高生じゃなくてもこういう話題、好きだよねえ。オールマイトはしどろもどろになっている。かわいい。そういうつもりでは、とか、年齢差とかあるし、とアタフタしているので、もうちょっとからかいたくなっちゃった。

「私結構オールマイトの見た目好きですよ、シュッとしてて。眼とか、鋭くてセクシーじゃない? ねえ」
「やめて、私年上管轄外」

 ミッナイ先生に降ると、それもそれでどうなんだ、って交わされ方をした。

「ほら、年齢差だって、まあ気になるかもだけどいないわけではないし。もちろん卒業してからだけど」
「いや、あのね、その……あっ、相澤くん助けて」
「んふっ」

 うろうろと視線を落ち着かなくさまよわせて、とうとう相澤先生に助けを求めていた。面白。こういうとこ、やっぱり緑谷くんと似てる。師弟で似るんだろうか。

「……緩名、オールマイトで遊ぶな」
「はあい」

 私がオールマイトで遊んでいるのに他の人たちは早々に気付いていたみたいで、溜め息を吐いた先生に宥められた。えっ!? あれ!? とオールマイト一人戸惑っている。かわいい。
 と、いつの間にかツマミ類の乗せていたお皿が空になっていたので、流しへ運んでいく。ついでに自分のお茶も入れよ。教師寮、貰い物って放置されてる飲食物がそこそこ多い。期限には気を付けているらしいけど、ヒーローと教師の二足のわらじをしているとやっぱり差し入れ増えるよね。

「まだなんか食べる? 適当でいいなら作るけど」
「食うー!」
「生徒相手ですよ、みなさんちょっとは遠慮、」
「緩名ー! 俺アレ、アレ食いてえ」
「聞いてないですね……」
「諦めろ」

 マイク先生のこういうノリは高校生に近いな。どれだよ。素面の13号先生が止めにかかるけれど、無視されている。あとエクトプラズム先生は歌い出した。なんで? ヒーローも人の子、まあまあお酒弱いんだろうか。

「ほうれん草余ってるからナムルでいい?」
「おー、摘めりゃなんでもいいぜ」
「ん、じゃあ適当に作るね〜」
「悪ィな、緩名」
「いや、楽しいよ」

 先生たちの日常見えるの楽しいよね。寮になってから以前よりもまた距離が近くなった気がしている。そう思うと教師って大変だな。
 ほうれん草のナムルと、あ〜……冷奴いいな。冷奴にしよ。もう持ってきたもの使い切りたくなってきた。自分のお金じゃないしね。ピーマンないからキャベツで無限キャベツにしよ。あとちくわ。キュウリとチーズ詰めて、さとうとかしょうゆとかゴマ油とかコチュジャンと絡めるだけだ。えーん、私もお酒飲みたくなってきた。飲まないけど。エクトプラズム先生に合いの手を入れていたマイク先生と目が合ったので、ちょいちょいと手で呼ぶ。

「はい、持ってって」
「おっ、サンキューリスナー!」

 出来たそばからカウンターに置いていくと、ツマミが来たぜェ! なんて言いながら運んでいる。そして遠目ながら相澤先生が、エリちゃん用のGANRIKINEKOのクッションにオールマイト、と話しかけている気がするんだけど、気の所為?

「ねえ、あの人酔ってる?」
「Ah……わりと序盤から」
「えっ、お酒弱いんだ、先生」
「締め技始めたら酔ってる証拠だな!」
「めっちゃ最初じゃん」

 平気そうな顔してるから気付かなかったけど、顔色には出ず酔うタイプなんだ。へええ。弱点知ったり、って感じ。いつか有効打として使うために心のメモにしっかり刻んどこ。
 謎にやんややんやと騒がれながら、空になったお皿を回収して、洗って、またちょっとだけおつまみを追加して、としていたら結構いい時間になっていた。おかしいな、来たの夕方頃なんだけど。

「はい、先生お水」

 見た目にわかるくらい揺れ始めた先生の隣に座って、ペットボトルの水を差し出す。13号先生も結局飲んだようで、呂律の回らないまま自然の魅力? を語っていた。酔ったらそうなるんだあ。かわいい。

「……ア゙?」
「ア? じゃなくて、飲んどかないと二日酔いなるよ」
「……ああ、緩名か。ありがとう」
「はい、どういたしまして〜」

 キャップを緩めて渡すと、さっきまで冷蔵庫の中にいたから冷たいそれを一気に半分くらい飲み干していた。アルコール入れると喉渇くよねえ。さて、洗い物したらそろそろ帰ろうかな。まだ消灯までは少しあるけれど、私も明日学校だ。当然先生たちも学校なはずなんだけどね。まあ、大丈夫でしょう。大人だし。
 立ち上がって卓上の空いたお皿に手を伸ばしたら、横から手首を掴まれた。ちょっとびっくり。いつも悪い目付きをより据わらせた先生が、いつになくぼう、っと私を見ている。ちょっとこわくてウケる。

「ん、どしたの」
「……おまえ、働きすぎだ」
「え?」
「もう座ってろ」
「ええ、ちょっ、と」

 掴まれた手首を引かれて、すとん、と上げた腰をもう一度下ろした。立ち上がり防止の為だろうか、掴んだ手首を離してくれる様子はなさそうだ。うーん、レアを体感してる。

「あ、もうほら、飲まない方がいいって。酔ってるでしょ」
「酔ってねェ」
「それがもう酔っぱらいのセリフなんよ」

 誰かが開けた日本酒を飲んでいたらしく、飲み差しのそれに手を伸ばす先生を宥める。相当酔ってるじゃん。こっちにしとこ、ってお水を渡すと、残った半分をこれまた一気に飲み下していた。そんな勢いよく飲まなくても。膀胱が大変なことになるよ。しかもなんか、眠そう。先生はいつも眠そうだけど、そうじゃなくて、なんかもっとちゃんと眠そうだ。例えるならさっきのエリちゃんと同じ状態。

「あら、あらあら」
「あーっと、こりゃシヴィーな」
「……なんですかあ」

 愉快げな二つの声にそっちを向くと、ミッナイ先生とマイク先生が最高のオモチャを見つけた、みたいな顔をしてこっちを見ていた。まあわかる。こんな状態の相澤先生って珍しいもんね。でも、その楽しそうな目線にはなんとなく自分も含まれている気がするからいたたまれない。

「いやいや、眠そうだなって思ってよォ?」
「そうそう、禁断のロマンス……なんて思ってないわよ!」
「も〜、それシャレにならないから」
「あら、愛に年齢なんて関係ないのよ!」
「はいはい。……あ、こら、先生。飲もうとしない。もうだーめ」
「まだ飲める」
「飲めないから大人しくしとこ」

 絡んでくるミッナイ先生をあしらっていると、その隙に先生が日本酒へのろのろと手を伸ばす。もう、酔っ払いたち面倒くさい。面白いけど。マイク先生は生徒に諌められている相澤先生がよっぽど面白いのか笑い転げていた。

「緩名、」
「ん、どうしました」
「……なんでもねェ」
「ええー、呼んどいて」

 なんでもない、らしいが、私の手首に回った指の力がちょっと強くなった。ほら、そういうことするからミッナイ先生が喜ぶんだからね。ぐらぐら揺れがさらに大きくなり始めて、もうお眠モードだ。こういう風に入眠すんの? なんか今日は先生たちの意外な一面と意外な事実をたくさん見ている気がする。お酒って怖い。

「ほら、お茶飲む?」
「うん」
「ンっ、……熱いから気を付けてね」

 うん、という幼い返事にちょっとなんか変な気分になった。かわい〜! このギャップ萌、共有したい。自分用に入れたものだけど、先生にマグカップを差し出すと、ずず、と飲んでいた。お腹チャプチャプになりそう。

「やっぱりミッナイ先生が一番強いの? お酒」
「どうかしら?」
「まあ雄英のザルクイーンだからなァ」
「マイク先生も結構強いよね」
「まァそこで船漕いでるマイフレンドよりは強ェかもな!」
「……るせェ」

 もうほぼ寝入っているけれど、罵倒だけは聞こえていたようでバコン、とマイク先生をどついている。先生結構すぐ手出るよね。対マイク先生限定だけど。相変わらず手首を握られているせいで、ちょっとだけ身体が引っ張られた。

「緩名さんも将来飲めそうよね」
「ん〜、どうかなあ」

 この身体、前世のものと違うから、どれだけいけるのか未知数だ。お酒の怖さは知っているつもりだけど、最初は戦々恐々で踏み出すだろうな。ふ、とミッナイ先生が微笑んだ。

「楽しみだわ。プロになったアナタと飲むの」
「へへ、先生の奢り?」
「そうね、そこのバカ共の奢りね!」
「それは最高〜」

 うん、楽しそうだ。成人してからの楽しみが増えたから、せめてこの人たちにちゃんと顔向け出来る程度には立派なヒーローになりたいな、と思った。A組の飲み会とかも、楽しそう。未来の事を考えてミッナイ先生と笑いあっていると、不意に肩にずしんと重みが。

「あら」
「アラ」
「おっ、とうとう落ちたか」

 遂に寝落ちたらしい先生が、私の肩に頭を乗せていた。いつかの反対だね。身長差があるので、ちょっと首が辛そう。纏められている黒髪が、頬を掠めてちょっとくすぐったかった。

「先生、首痛めちゃうよ」
「ん……」
「ダメだこりゃ」
「なあこれ写真撮って明日見せようぜ!」
「絶対殴られるよそれ」

 楽しげなマイク先生がカメラを向けてくるから、仕方なく一枚だけ撮らせてあげた。ピースだ。流石に保護者とかPTAに漏れたらやばそうだから、取扱には気を付けてほしい。なんて、その辺はわかってるだろうけど。マイク先生が撮った写真を見せてくれたけれど、まあまあ絵面がやばくてちょっと笑えた。その振動でか、肩に乗っていた先生がずり落ちる。

「おっとと」
「Ah、さっきよりヤベーことに」
「いいじゃない、アンタ達もう結婚しちゃいなさいよ」
「飛躍〜」

 横向きに倒れて寝転んだ先生の頭が私の膝に無事着陸だ。それでも寝苦しそうだけど。消灯までまだあと少しあるし、もう少しだけ寝かせていてあげよう。結んでいると邪魔だろう、とゴムを指にかけて解くと、癖のある黒髪が広がった。こんな機会滅多にないし、と触れると、固くて太めの感触。サラサラではないけれど、意外と傷んでいるわけでもない。あ、ちょっと絡まってる。指先で痛くないように丁寧に解いて、数度撫でると毛先だけがぴょこん、と跳ねた。おもろ。

「私は良いと思うわよ?」
「あ〜ね。せめて卒業してからですね」
「へいへいリスナー、俺でもいいぜ」
「えっ、マイク先生と相澤先生?」
「ヤダアンタたち、やっぱりそうだったの」
「No! そっちじゃねェ!」

 矛先をなんとか反らせた。セーフ。うるさかったようで、先生はんん、と眉間に皺を寄せて、私のお腹へと顔を埋める。これ、先生が記憶あるタイプだったら明日大変そうだな。



 それからちょっとして。騒がしさに耐えられなくなったのか部屋から出てきたハウンドドッグ先生によって、強制的にお開きになっていた。首謀者? のミッナイ先生とマイク先生はお片付けに駆り出され、死屍累々となった人達は後で適当に部屋に放り込むらしい。ま、暖房ついてるし適当に寝ても死なない死なない。室内だし。

「星がキレー」
「ああ、本当だね」

 私はというと、唯一素面で耐えきったオールマイトが寮まで送ってくれている。13号先生のお土産を持って、冬の寒空の下をポトポトと歩いた。なんか、オールマイトとこうやって夜出歩くの、あの時以来だ。あの、緑谷くんと爆豪くんの喧嘩の日以来。半年も経っていないけれど、もう懐かしい。

「もうお開きするのかな?」
「いやあ、飲み直すんじゃないかなあ……」
「あらま。ふふ、結構あるの? 飲み会」
「ウーン、そうだねぇ」

 あ、結構あるんだ。とはいえ、皆が皆飲むわけじゃないそうだけど。そりゃ、生徒が消灯の時間とはいえ、大人にとってはまだまだこれからの時間だ。……明日も学校だけど。

「いいなあ、飲み会」
「ハハ、緩名少女もあと数年したら出来るようになるじゃないか」
「うんうん」

 あと数年。もうあと少しで二学期が終わるけれど、なんだか雄英に入学してからは濃密すぎるほど詰まっていて、あっという間だった気がする。いろいろすぎるくらいいろんなことが起こったからなあ。

「ね、私が成人したらさ」
「ウン?」
「ちょ〜高い、年代物のワイン、プレゼントしてね」
「! ハハ、それはなかなか値が張りそうだ」
「もっちろん。めーっちゃ高いのがいい!」
「じゃあ、とっておきのものを探しておこうか」

 成人するまで、あと四年程度。きっとほんの一瞬だろうけど、もっと色々なことが起こるような、予感がする。

「約束ね」
「ああ、約束しよう」

 だから、オールマイトには、それまで長生きしてほしいな、と頭上で輝く星に、柄にもなくお願いした。




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