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 エンデヴァーさんの所でのインターンはしばらく一旦お休み。ある程度連携を取れる、と確認出来たので、大きめの案件の時は呼ぶ、ってことらしい。葛餅を食べている轟くんの写真を送ったら、待ち受けにしたいけど仕方が分からなくてバーニンさんに設定してもらったと言っていた。かわいいかよ。
 お茶子ちゃんや梅雨ちゃんが帰ってきた翌日。登校一番、先生に捕まって職員室へ。呼び出しじゃないぞ。次のインターン先の告知だ。

「いきなり例外で悪いな。次のインターン先は……俺だ」
「……え、先生?」

 まさかの先生。イレイザーヘッドである。そういうパターンもあるんだ。面白そ〜。

「ヒーローしてる先生楽しみ」
「普段からヒーローだが」
「そうだけど〜そうじゃないじゃん」

 普段は先生! って感じだもん。例えば、演習とかで手解きを受けたり戦ったりすることはあれど、先生の補助に入るのは初めてだ。

「スーツ着てお茶汲みでもしよっかな」
「どんなイメージだ……詳細はまた後日。大型の案件になる。心してかかれよ」
「ん!」

 大型案件。先生個人のお仕事ではなく、どうやらチームアップらしい。それまでの数日はインターンもないようだ。

「え〜じゃあ先生のお手伝いしよっかな」
「なんでだよ。課題終わらせとけ」
「優秀なのでもう終わらせました〜」

 提出物、早めにやるに越したことなし。タスクを抱えると人間はストレスに感じるから、早めにパパっと終わらせるのがいいと一度目の人生で学んだ。寮生活だと登下校の時間がない分、まだ時間が確保出来る。と言ってもヒーロー科は過密スケジュールだけどね。先生と並んで教室へ向かう。

「あ、ねえ」
「なんだ」
「インターンって私の場合複数箇所行くけど、確定申告とかって自分でしなきゃなの?」

 これは大事。めちゃくちゃ大事だ。自分でするとなるとバカ面倒くさいので……。先生がちょっと驚いた顔をしている。だって説明なかったんだもん。

「そうか、言ってなかったな。そこらへんは希望がない限り学校側で受け持つが……自分でするか?」
「めんどくさいから絶対やだ〜。先生とか、教師とヒーローしてるし面倒臭そう」
「事務所持ちの場合は個々でやることもあるが……俺の場合も学校に任せてる」
「あ〜まあそうだよね」

 ヒーローって一応公務員なんだよね。だいぶ変わり種だけど。先生のお給料いくらぐらいなんだろう。まあまあ貰ってんのかな、と下衆の勘繰りをしていたら出席簿で頭をはたかれた。ひどい。だって気になるじゃん。今度オールマイトにお給料聞いてみよ。



 それから数日後。任務の会議があるらしく、早朝から制服に着替えて先生と集合する。

「おはよ〜先生。いい朝だね」
「来たか、おはよう。行くぞ」

 今日は会議だけで、ヒーロースーツはいらないらしい。雄英の子もインターンで何人か来ると聞いている。あとチームアップ要請のヒーローも多いみたい。先生に着いて行くと、滅多に来ない駐車場。滅多にって言うか、来たのは初めてだ。どこにあったのかすら知らなかった。車種とか全然詳しくないから分からないけど、黒い中型車の前で先生が立ち止まって、ピッ、とロックを外す。先生が乗るのに続いて助手席に乗り込んだ。

「先生の運転? ラッキー」
「ヒーロー中は先生って呼ぶなよ」
「……じゃ消太くん?」
「同級生か。せめてさんにしろ……シートベルト」
「したよ〜」
「行くぞ」

 先生の運転、流石に安全運転だ。生徒乗せてるしね。いろいろ見ちゃお。パカッと助手席前のボックスを開く。うわ、マジでなんもない。

「ねえ、なんもない」
「最近はそんなに乗らないからな」
「そっか、寮だから……彼女とかの痕跡でもあったらネタになったのに」
「先生をネタにするんじゃありません」
「ん〜……あ、飴食べる?」
「いらん」
「はい、あ〜ん」
「おまえな」

 信号で止まった先生の口元に、ポケットに入っていたいちごミルクを運ぶ。呆れながらも口を開いてくれるあたり甘いよね。髭がチクってした。いちごミルクの飴、久しぶりに食べたかも。歯を立てるとシャリッとした感覚があるのが面白いよね。

「甘ェ」
「甘いの苦手だっけ?」
「普通」
「まあ先生味覚イカれてるもんね……」

 ゼリーばっか食べてるから。美味しいけどたまにでいい。

「……おい」
「なに?」
「なんで撮ってんだ」
「ん? ああ気にしないで」
「や、なるだろ」
「だって先生の運転レアなんだもん」

 激レア中の激レアだ。動画に残しておくのが正解でしょ。あと運転してる男の人ってなんかいいよね。手軽なギャップ萌えだ。いいよね。

「ったく……着いたらちゃんとしろよ」
「任せて〜イレイザーヘッドの名にかけて!」

 知らないヒーローもいっぱい来るから、大人しくしてる気満々だ。良妻スタイル。妻じゃないけど。
 それから、軽く今回の案件の説明を受けた。死穢八斎會という極道、指定敵団体のこと。「個性を壊す薬」のこと。そして、敵連合の一人との接触が確認されていること。現場に出ることになっても、私は後方に下がらせることにらしい。まあ元々そのポジションに異論はないので、そこは構わない。

「俺もザックリとしか聞いてないからな。詳しい説明は今日の会議でされる」
「了解。……後方安全圏の私はともかく、インターン生はどうすんの?」
「それも今日決めるつもりだ」
「あーね、承知です」

 敵連合とわざわざ関わり合いになる必要もないけど、これからヒーロー活動をする上で避けて通れるものでもない。難しいところだ。今日の説明、それから学生の反応次第かな。誰が来るのかは聞かなかった。



 サー・ナイトアイ事務所。オールマイトの元サイドキックなんだって。サイドキックのバブルガールさんに案内されて行くと、既に多くのヒーローが集まっていた。

「ビアンカ」
「はい、イレイザー」

 キョロキョロと辺りを見回していると、先生に呼ばれて傍に行く。小さなお爺さんと、カッコイイ女性ヒーロー。女性ヒーローの方は見覚えがある。ドラゴンの人だ! いいな〜ドラゴン。かっこいいよね。

「ビアンカです。インターン中の身ですがよろしくお願いします」
「こちらこそよろしく。リューキュウよ」

 手を取り握手。ドラゴン。職場体験の指名も頂いていたし、リューキュウさんのところも行ってみたかったかも。だって何よりドラゴンかっけえ。機会があればウチにも来てちょうだい、というお世辞を真に受けさせていただいた。今度ドラゴンフォーム見せてくれるらしい。やったあ。

「ふむ、君が……」

 小さなお爺さんからの視線。めっちゃお年を召しておられるけど、ここにいるってことは現役のヒーローなんだろう。凄いな。しゃがんで視線を合わせる。

「母と繋がりがありましたか?」
「ああ、いや、スマンな」
「いいえ〜……何か迷惑かけてました?」
「いや、うむ……」

 言葉を濁すお爺さん。かけてたんだな。あの人は全く……。破天荒すぎるのも困りものだよねえ。気を取り直して、軽く自己紹介をする。

「グラントリノだ」
「かわい〜!」
「おっそうか? ジジイ照れちゃう」
「何してんだ……」

 差し出された手が小さくてかわいい。老人結構好きなの。おばあちゃんと住んでたから、老人に囲まれることが多かったのもある。特に小さいとかわいい。小さいものはだいたいかわいいから。



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