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「君が緩名か」
「よろしくお願いします」
翌日。学校を休んで朝からエンデヴァー事務所へ。サイドキックのバーニンさんに案内されて、めちゃくちゃデカい事務所の説明を受けている最中にめちゃくちゃデカい男の人が現れた。生エンデヴァーだ。わ〜お髭燃えてる。熱くないのかな。上から下までジロっと見られる。
「……似ていないな」
ぽつり、と巨躯に似合わない小さな声で呟かれた。お母さんとだろうか。多分そう。バーニンさんがそこに触れる!? って感じでアワアワしている。かわい〜。
「母とですか?」
「……ああ」
「よく……は言われないけどたまに言われます。顔は父似なんですよねえ」
うちのパパ上はそれはそれは絶世の美女だった。男だけど。エンデヴァーはお母さんと会ったこと……そりゃまああるよね。
「……君の母親は破天荒なヤツだった」
「あっは、存じております」
「ヒーローとしては、なかなか見所のある人でもあった」
「……ありがとうございます」
なんだ。パパろき、話を盗み聞きしてたからちょっとビビってたけど、わりと普通じゃん。方向性ズレてる気もしなくもないけど、励まし? 慰め? をしてくれているんだろう。……以前のこの人を知らないけど、話に聞く限り、No.1に固執していたみたいだし、オールマイトの引退で思うこともあるのかもしれない。ま、そこらへんは私には関係ないので突っ込まないけど。
「すまない、余計な話をした。行くぞ」
「ふぁい。……どこへ?」
「個性を試したい。バーニン、着いてこい」
「はい!」
バーニンさんと並んでエンデヴァーの後ろを歩く。案内されたのはトレーニングルームみたいだ。広い。火炎系の個性の所属が多いので、耐火性抜群らしい。いやもう、流石大手事務所だとベスジニの時も思ったけど、それ以上に思い知らされたわ。目指せ高額納税者〜。
午前中は私の個性の確認で終わった。エンデヴァーさんやそのサイドキックに言われるがまま、たまに自分でこういうのありますって提案しながらバフやデバフをかけていく。まあまあ疲れた。この後はエンデヴァーさんと一緒にランチをしてから、サイドキックの人達と見回りだ。うん、めちゃくちゃ普通のインターンだ。エンデヴァーさんが直接指導してくれてること意外は。なんかね、びっくりだよね。あと髭、オフの時はなくなるんだ。ずっと燃えっぱだったら邪魔だしね、たしかに。
「発動まで少しラグがあるな」
「ん、ああ、言われてみれば1、2秒くらいは」
「当面はそれを縮めることを意識しろ」
「はあい」
長年オールマイトに続いて頂点の近くにいたヒーローは伊達じゃない。本人には数度使用しただけなのに、癖や欠点に修正が入った。課題がいっぱい見つかり続けるなあ。あとエンデヴァーさん、思ってたよりなんかマジで普通。本当に? 映像で体育祭見返したら焦凍ォオオオ! って叫んでてやっべえってなったんだけど、普通だ。会話もしてくれる。
「エンデヴァーさんのお髭熱くないの?」
「皮膚が耐火性に優れているから問題ない」
「轟くんの半分もそうなのか……えっじゃあ轟くんも半分炎、半分氷の髭生えるのかな……」
それはちょっとやだ。あの綺麗な顔がゴツめに寄って欲しくない。ゴリラ寄りの進化を遂げたら多分泣く。エンデヴァーさんにド失礼なことを考えていると、言いにくそうにエンデヴァーさんが口を開いた。
「……君は、」
「はい?」
「焦凍と仲が良いのか」
「轟くんと? いいですよ〜マブだもん」
父息子、確執あるもんなあ。この人は歩み寄ろうとしてるのかな。というか歩み寄り方を変えた感じ? そうか、と呟く声の感情はなんなんだろう。友達の作り方を知らない息子に友達が出来て良かったピースピース、みたいな気持ちだろうか。安堵、喜色、そこら辺かな。
「パパろきさん怖いと思ってたけど意外と普通でびっくりしちゃった」
「パパろき……?」
「轟くんのパパだからパパろき! かわいいでしょ?」
「……君は本当に焦凍と仲が良いのか?」
今度は疑いの眼差しだ。仲良しだっつーの。仕方ないのでエンデヴァーさんに轟くんとのツーショを見せてあげる。でっかい身体をちんまり縮めてスマホを見てるのかわいいな。
「多いな」
「そう? 携帯変わったばっかだからまだ少ないですよ〜」
エンデヴァーさんが顎に手を当てる。あ、そうだ。
「エンデヴァーさん写真おけ?」
「……構わんが、」
「じゃ失礼しま〜す」
座っていた椅子から降りて、エンデヴァーさんの横に並ぶ。座ってるのにでけぇ。立ってる私とそんな変わらない。小顔効果抜群なんだけど〜映えスポットじゃん。顔を近付けて、インカメを起動。プロヒーローだから写真を撮られるのには慣れているだろうに、めちゃくちゃ表情固い。ニコリともしない。初期ロキくんみたいだ。
「これ轟くんに送ろ……既読はや」
送った瞬間秒で既読付いた。怒りの顔文字がいっぱい返される。学校もちょうどお昼休みの時間だしなあ。轟くん、文面だけ段々私が移っていっててウケる。それから、かき消すように私と轟くんの写ってる写真がいっぱい送られてくる。グループに纏めてもくれない。通知バカ来るんだけど。昨日の内にエンデヴァーさんのとこへインターンに行く、って言ったけど、その時もちょっとピリついてたしな。
「焦凍から返事はあったか?」
「おこ。だって〜」
「おこ?」
「怒ってます、ってやつ」
「何故だ焦凍ォ!」
この親子、面白いかもしれない。最後に轟くんから送られてきた写真は、エンデヴァーさんの顔を自分の顔にクソコラしたやつだった。これ絶対製作者上鳴くんだ。切り取り方が甘いもん。ちゃっかり交換したエンデヴァーさんのメッセージには、私とエンデヴァーさんの写真と、その私を轟くんにクソコラしたやつを送っておいた。轟くんへ、パパは喜んでました。
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