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「一年生の郊外活動ですが昨日協議した結果、校長をはじめ多くの先生が「やめとけ」という意見でした」

 まあ、そりゃそうなるか。寮生活になった背景が背景だ。無闇に生徒を外に出すのも得策ではないんだろうな〜。爆豪くんがざまァ!! と喜びの声を上げている。まだインターン行けないもんね。が、とそれを打ち消すように、先生が言葉を紡いだ。

「今の保護下方針では強いヒーローは育たないという意見もあり、方針として「インターン受け入れの実績が多い事務所に限り1年生の実施を許可する」という結論に至りました」
「ガンヘッドさんとこどうなんやろー……」
「セルキーさん連絡してみようかしら」
「クソが!!」

 受け入れの実績が多い事務所……か。職場体験で行ったジーニアス事務所は、今現在トップのジーニストが活休中だし無理だろう。体育祭後の指名の中から考えるんだっけ? それなりにいろいろな所から指名を頂いていたけど、行けるんだろうか。私と爆豪くんは、特に外出許可もちょっと厳しいくらいだ。

「緩名、ちょっと来い」
「ほぁい」

 ホームルーム終わり、後は帰るだけ、と言うところで先生に呼ばれる。インターン関連だろう、多分。なんも悪さしてないよね? 心当たりはないけどちょっとドキドキした。



「おまえ、インターンに行く気はあるか」
「え、うん、まあまあ」
「まあまあ?」
「ありますありますめちゃめちゃある〜!」

 フン、と先生が鼻を鳴らす。曖昧な態度は駄目らしい。

「でも、インターン先どうしようかな〜って迷ってて」
「その事だがな」
「? ……うん」
「緩名の個性は有用で幅広く役立つ。サイドキックに、と求めている事務所も多い。それに、緩名の場合、個性やおまえ自身の背景もあって、ヒーローの伝手は出来る限りあった方がいいだろうという結論が出た。よって、本来なら郊外活動は一つの事務所に勤めるものだが、緩名だけ期間毎に複数の事務所へ行くのはどうか、と言う提案が上がった」

 複数の事務所に、期間毎に。期間毎と言っても、事務所により期間は様々らしい。確かに私の個性は少々特殊だ。多くの人間の底上げを出来るし、その分敵から狙われることも多くなる。敵連合以外の、寄せ集めのような敵からも。それに備えて、ヒーローとの間で、有事の際に助けてもらえるように顔を広げておけ、ってことだろうか。たぶんそう、だと勝手に思っておく。

「勿論、決定権は緩名にある。ただでさえ前倒しのカリキュラムだ、環境が変われば内容も変わる。その変化や新しい人間関係に慣れるのにも少しは時間を要する。他の生徒と比べて、より厳しいインターンになるだろうが……どうする」
「おっけ〜それでいいよ! やるやる〜」
「……おまえな」

 即答だ。だって、先生が勧めて来るってことは、先生も少なからずそれがいいと思ってるってことだろう。生徒の身にならないことはさせないことをよーく知ってるし、私は先生を信頼している。人間関係を新しく結ぶのはまあめんどくさいと言えばめんどくさいけど、ヒーローになれば即席のチームアップだっていっぱいあるだろう。学生時代から、その前倒しが出来るってことだ。
 少し呆れたようだったが、フウ、と息を吐いて、先生が私に確かめた。

「いいんだな?」
「うん。 ……たぶんね〜私、先生のこと、今世で一番信頼してるかも」

 今世、だけじゃないかも。今まで生きてきた中で、こんなに信頼出来る人っていない気がする。大人だよね〜。そりゃあ見た目は不審者だけど。キィ、と先生の座っている椅子が軋んで、書類の束が挟まったクリアファイルを先生が手に取った。

「教育者として冥利に尽きるな、そりゃ」
「ほんとなのに〜もっと嬉しがって!」
「はい、嬉しいよ。……緩名が行くことになる予定の事務所をここにリストアップしている。これで全部と言うわけじゃないし、ここに書いているところ全部に行く事になるわけでもない。が、一応全部に目を通しておけ」
「はい」

 実績のある事務所だから、絞られているんだろう。20箇所くらいかなあ。

「出れない分の授業内容は休日やインターンのない放課後に補習を行う」
「ん! 補習ってなんかロマンだよねえ」
「……全然分からん」
「あら、私は分かるわよ!」
「ねー! ミッナイ先生話が分かる〜」
「放課後、教師と生徒以外誰もいない中、日の暮れてオレンジに染まった教室で……青春よね」
「や、それは犯罪なの」

 思った方のロマンと違ってびっくりした。ミッナイ先生、教職者として大丈夫なんだろうか。煩悩じゃん。ほら、相澤先生引いてるじゃん。素敵じゃない、と言いながら去っていくミッナイ先生。ロマンス小説かAVか?

「私はもっとこう、ほら、なんかエモ〜て感じのさあ」
「エモ?」
「エモ〜ってなるやつ、知らない?」
「知らん」
「……たまに相澤先生とジェネギャ感じちゃう」

 SNSとかやってなさそうだもんね。先生が音楽に合わせて踊ってたら多分解釈違いで死んでしまうかもしれん。

「インターンっていつから?」
「緩名は今週末からだ」
「わあ、めっちゃ急だあ」
「おまえがウチの第一号だな。……まァ、せいぜい頑張ってこい」

 ぽん、と一度頭の上に手が乗った。ふむ。インターン、行けるみたいです。
 渡された資料の一番上には、エンデヴァー事務所の詳細が。私の一番最初のインターン先らしい。元No.2、現No.1ヒーロー。直接会ったことはないけど、なんとなく色々知っている。こういうの一番気まずいよね。エンデヴァー、画面越しに見るだけでも威圧感鬼強い。女子高生にゲロ甘だったりしないかな〜。それもそれで怖いわ。



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