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 体調も治り謹慎も解けた私は、翌日から元気に学校へ。なんか昨日の内にいろいろと進んだみたいで、軽く説明を受けた。ヒーローインターンか〜。このご時世、この状況下で行けるのかどうか。特に私達。仮免補講中の爆豪くんはしばらくお預けなのでともかく、私なんて拐われた身だ。大人しくしてろと言われたら、引き下がれるくらいには聞き分けがあるつもりだ。でも面白そうだから行けたら行きたい。
 それから二日。緑谷くんも謹慎から復帰して、謹慎分を取り戻そうと朝から息巻いている。元気〜。

「じゃ緑谷も戻ったところで本格的にインターンの話をしていこう」

 入っておいで、と先生が外に向かって声をかけると、スラッと扉が開く。

「職場体験とどういう違いがあるのか直に経験してる人間から話してもらう。多忙な中都合を合わせてくれたんだ、心して聞くように」

 入ってきたのは、私にとっては見覚えのある二人と、知らない一人。現雄英生の中でもトップに君臨する三人、通称ビッグ3らしい。宝くじみたいな名前だな。

「雄英生のトップ……ビッグ3……!」

 その名称は知らなかったけど、内二人は知っている。ひらひらと手を振ると、気付いたねじれちゃん先輩と、通形先輩が手を振り返してくれた。

「磨さん、お知り合いなのですか?」
「ん? 保健室でね〜」

 ちょこちょこ保険医代わりのようなことをしているので、意外と私の顔は広い。神宮球場くらい広いよ。

「じゃ手短に自己紹介よろしいか? 天喰から」

 あの、目付きだけで人を殺しそうな先輩は見覚えがない。ギンギンだ。口元がかわい〜。耳もかわいい。カタカタと震え出した先輩は、スッと後ろを向いた。

「帰りたい……!」

 あがり症かな?

「雄英……ヒーロー科のトップ……ですよね……」
「あ、聞いて天喰くん! そういうのノミの心臓って言うんだって! ね! 人間なのにね! 不思議!」

 ねじれちゃん先輩が喋り出す。う〜ん無邪気。顔かわいいな。顔かわいい。自分と天喰先輩の紹介をしたねじれちゃん先輩は、障子くんや轟くん、それからクラスのみんなに気になったことを聞いて回っていた。返事は聞かないスタイルだ。

「天然っぽーい。かわいー」
「幼稚園児みたいだ」
「邪気のない緩名だな!」
「私が邪気あるみたいな言い方やめろお」

 瀬呂くんがにししと笑う。ニシシとノシシか。

「合理性に欠くね?」
「イレイザーヘッド安心してください! 大トリは俺なんだよね!」

 わあ、先生とねじれちゃん先輩、相性悪そう。目が怒りだもん。合理性大好き人間には合わなかったか。

「前途ーー!?」
「!?」

 急に大声を張り上げて、ズイッと耳を傾けた通形先輩。びっくりしたあ。

「多難ー! っつってね! よォしツカミは大失敗だ!」
「んふっ」
「緩名さんだけにウケたね! ヨカッタ!」

 いやこんなん笑うでしょ。笑い声が盛れると先生の視線に射殺されそうなので、手で口を抑えて笑いを殺す。そんな目で見ちゃいやん。
 私が笑いを耐えている間に、どうやら私達A組VS通形先輩で実戦してみよう! ということになったらしい。唐突。笑っちゃいけない状況って逆に笑いを誘うよね。はあ〜苦しかった。



 体操服に着替えて、体育館γ。軽く身体を解しておこう。

「あの……マジすか」
「マジだよね!」
「ミリオ……やめた方がいい。形式的に“こういう具合でとても有意義です”と語るだけで十分だ」
「遠」

 天喰先輩がめちゃくちゃ遠くでボソボソと言っている。コミュ力マイナスカンストしてんのか? 人嫌いなのかな。

「立ち直れなくなる子が出てはいけない」
「あ、聞いて、知ってる、昔挫折しちゃってヒーロー諦めちゃって問題起こしちゃった子がいたいんだよ。知ってた!? 大変だよねえ通形、これはちゃんと考えないと辛いよ、これは辛いよー」

 三奈の角をつんつんしながらねじれちゃん先輩が言う。ヒーロー科、厳しいもんなあ。挫折する人がいるのも、その後問題を起こす人がいるのも、そりゃあいるだろうな〜って思う。ヒーロー志望だからと言って、みんながみんな心が強いわけではないもん。

「待ってください……我々はハンデありとは言えプロとも戦っている」
「そして敵との戦いも経験しています! そんな心配される程俺ら雑魚に見えますか……?」

 切島くんが奮い立つ。みんなの目付きも舐められてはいられないとキツくなる。ヒーロー科、血気盛んな子多いもんね。

「うん、いつどっから来てもいいよね。一番手は誰だ!?」
「おれ「僕……行きます!」意外な緑谷!」

 緑谷くんは謹慎明けってこともあって、今日はずっとヤル気満々だ。

「問題児!! いいね君やっぱり元気があるなあ!」

 通形先輩の個性、たしか「透過」だっけ。怪我をした他の先輩の付き添いで保健室に来た時に、一度見たことがある。ニュッと顔とか手とかいろんなものを隙間から生やす通形先輩にゲラゲラ笑ってたら通りがかった相澤先生にどつかれたのを覚えている。なにもどつかなくてもいいじゃんね。どういう仕組みかまでは分からないけど、私の「デバフ」が通りにくい個性だ。個性の共有、してもいいのかと先生を見ると首を振られた。実践で学べってやつね、おっけ〜。



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