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「セイ!!」
「おお〜」

 威勢のいい掛け声とは反対にフワ〜、と穏やかに上昇していくボール。『無重力(ゼロ・グラビティ)』という個性らしい。え、楽しそう! 宇宙じゃん! 私の場合個性である程度軽くなることは出来ても、重量を無視するほどの効果があるものでもない。記録は無限。そりゃそうだ。

「私も浮かせてくれないかなあ」

 思いながら麗日さんを見つめてると、目が合った。少し不思議そうな顔をしたのでニッコリ笑いかけると、すぐに笑顔を返される。うわー! 良い子! かわいい! 雄英顔採用でもあんのかってくらいかわいい子ばっかだな。自分で言うのもなんだけど私も顔かわいいし。

「かわいい」
「磨、女の子好きだよね」
「あれ、声に出てた?」
「さっきからわりと出てるよ〜!」
「まじ? 照れちゃう」

 三奈と透にじゃれつかれて、よせやいと鼻の下を擦る。謎な顔をされたので(一人見えないけど)、これがジェネレーションギャップか、と少し切なくなった。年下の女の子ってなんかかわいく見えるよね? いや、今は同じ年なんだけども。
 よしよしとふわふわの頭と透明の頭を撫でながら、次の子がボールを持って円に入るのを見る。あ、朝の。私が雄英で最初に会話した子だ。挨拶だけだけど。みどりやくん、だっけ。なんかやたら思い詰めた顔をしていて、扉前の緊張した様子を思い出して大丈夫かな、と勝手に心配になる。
 ぽとん、と落ちたボール。戸惑った顔をする男を見て、相澤先生に目をやった。

「“個性”を消した」

 ザワ、と逆立った髪。彼が個性を使うところを見るのは2度目だけど、先生、やっぱり顔だけ見ると整ってるよね。髭と表情となんか全体的に小汚いからあんまりそう見えないけど。アングラヒーロー、イレイザーヘッド。ヒーローに詳しくない私は全く聞いたこともなかったんだけど、知っている子もいるみたい。
 首元に巻かれた布で緑谷くんを捕まえて、なにやら説教する先生の目は、赤く充血していた。ギンギンじゃん、ウケる。

「先生、個性かけましょうか?」
「ああ、いや大丈夫だ」

 するっと横に並んで、目薬を点す先生に問いかける。充血くらいならすぐに治せる。実際実技試験の時、先生の目に施したら少しだけ驚いたように目をパチパチさせていた。便利だな、と言われたので、そうでしょ、と笑って置いた。
 顔色を悪くして、再び位置についた緑谷くんの背中を眺める。先生は彼をあんまり気に入ってないみたいだけど、さて、どうなるのか。



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