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「おはは〜」
「あっ磨来た! おはよー!」
「磨ちゃんギリギリやあ」
「へへ、ギリギリでいつも生きたいんだよね」
夏休み。けたたましい蝉の鳴く声を聞きながら登校した。今日は学校行事ではない、プールで女子で遊ぼチェケラってノリの日だ。というわけで更衣室に。
「あ、着てきてる」
「やっぱ着て来るよねえ」
「着て来る方もいらっしゃるのですね」
「合理的じゃん」
学校なので一応制服、その下には水着だ。ちゃんと帰りの下着もインナーも持って来ている。だってめんどくさいし。流石に普段は授業受けたりするから一限プールでもない限り来てこないけど、今日の目的はプールだけだもん。着て来る派の私、三奈、お茶子ちゃん、透。着て来ない派の百、響香、梅雨ちゃん。人間性……と思ったけど多数決で勝ちです。
「今日めちゃくちゃ暑いよね」
「ね〜。溶けるかと思ったあ」
「ひっついたろ」
「暑いって言ってるのに!」
溶けそうになっている三奈にぎゅっと引っ付くと、暑い暑い! と怒りながらきゃははと笑っている。ちょっと肌がピリつくのは気のせいか。酸漏れてない?
「ひっつき虫磨ちゃんだ」
「透にもひっつくよ〜」
「わあ!あつ〜い!」
三奈を巻き添えにしたまま透にもぴったり引っ付く。暑いわ。楽しいけど。きゃあきゃあはしゃぎながらプールへの扉を開けると、先客がいた。
「あれ?」
「おや?」
「あー! 男子じゃん! なんでいるの?」
クラスの男の子達の大半が揃っていた。みんな水着だ。流石ヒーロー科、相変わらずバキバキだな。
「緑谷くんから声をかけられてな! プールでの体力強化訓練だそうだ」
「へえ〜。暑いのにご苦労さまだねえ」
「君たちは?」
「私たちは日光浴〜」
「暑いから気を付けるんだぞ!」
「飯田くんお父さんみたい」
「ブフッ」
お茶子ちゃんが噴いてる。私服もパパっぽいし、体格もいいしね。飯田くんマジでバキバキだ。
「飯田くんバキバキだよね」
「筋肉のことか? ああ、俺は加速に耐えられるように全身を鍛えているからな」
「うん、めっちゃいい」
「ありがとう!」
筋肉バキバキの男、最高〜。眼福。
「準備体操するよ〜」
「はーい」
プールサイドに並んで、皆でしっかり身体を解す。準備運動本当に本当に本当に大事だと大人は知っている。
「あら、峰田ちゃん」
「上鳴も来てたんだ」
「緑谷くんおは〜」
しっかりと身体の筋を伸ばしていると、更に上鳴くん、峰田くん、緑谷くんが来た。あといないのは切島くんと爆豪くんだけだ。切島くんはともかく、爆豪くんとか来なさそう。
「あ゙あ〜きもちいい」
「温泉使ったおじさんみたいなっとるよ…… 」
冷たい、いやちょっと生ぬるいプールに足先をつけて、慣らしてから水に身体を沈める。やっぱ冷たい。気持ちいいわ。泳ぐのはめんどくさいけどずっと漂っていたい。みんなはバレーをするみたいだけど、はしゃぐ程元気じゃないのでぷかぷか浮かんどく、というと、百が気を使ってでっかい浮き輪とパラソルを出してくれた。やったあ。愛してる。
「ああ〜」
「緩名さん、泳がないの?」
「ゔん〜」
「漂流しているな」
「それは楽しいのか」
「フミカゲ、磨、オレモ!」
「ダークシャドウくんおいで〜」
ひたすら泳いでいる男子達とキャピキャピしている女子を尻目に浮かんでいると、休憩中だった尾白くんと障子くんと常闇くんがプールサイドから話しかけてきた。うわ、めっちゃ端まで来てた。両手を広げるとダークシャドウくんが飛び込んでくる。よーしよし、かわいいかわいい。パラソルのおかげでギリ日陰になっているから、まだ動きやすいのかな。
「すまない緩名。黒影、コラ、戻ってこい」
「大丈夫だよ〜。あ、常闇くんも来る?」
「フミカゲ! キモチイイゾ!」
「む……」
メイドインモモの浮き輪はでっかいので、常闇くん一人くらいならまだ全然余裕がある。おいで、とスペースを開けると、遠慮しておく、と首を振られた。
「わっ」
「あれ、全然飛ばない」
「あはは、緩名さん下手だ」
ならば、と手で水を飛ばそうとするけど、思ったより飛ばない。難しい。ばしゃ、ばしゃ、とその場で水を跳ねさせるだけだ。
「こうじゃない?」
「ぶっ」
「わー! ごめん!」
「モロに行ったな」
尾白くんが手の水鉄砲の見本を見せてくれたけれど、飛ばした水が勢いよく私の顔面に直撃した。びっくりした、ましらおの反撃だ。
「ましらおの反撃……」
「ごめんごめん」
「このやろー!」
「あははは」
両手で掬って水をかける。尾白くん以外の二人にもかかっているけど、そもそも泳いでいた三人は元からびしょびしょだ。特に変化もない。ただ私が徒に体力を消耗しただけに終わった。
「つかれた」
「浮かんでいるだけだろう」
「障子くん引っ張って〜」
「いいぞ」
ご指名の障子くんが水の中に入ってくる。わがままでごめん。
「きゃ〜あははは」
「楽しいのか?」
「たのしい、スイ〜ってする」
「そうか」
障子くんが女子の所まで引っ張ってくれる。ちょっと無重力に近い不思議な感覚がして楽しい。
「あ、磨帰ってきた」
「障子くん運輸で〜す」
「障子ごめん、ありがと」
「構わない」
どうやらバレーボールは終わったみたいだ。次何するのかと思ったら、爆豪くんの怒鳴り声。来たんだ。来て早々なに? と思っていたら、どうやら男子で競泳することになったみたいだ。
「飯田さん、私達もお手伝い致しますわ」
「やるやる〜」
「ありがとう!」
「あんたは早く上がっておいで」
「引っ張って〜」
響香に引っ張ってもらって、プールサイドに上がる。身体中の骨がヨーグルトになったみたいに蕩けている。水の中気持ちいい。
「ねえねえ」
「なに?」
「爆豪くんおっぱ……胸筋やばくない?」
「……思ったけど!」
響香によりかかったまま、ひっそりと耳打ちする。でかいよね? やっぱり。爆破の反動に耐えうるように上半身メインだからなのかな。
第一レースは爆豪くん、第二レースは轟くんが一位だ。二人とも泳いでいないけど。第三レースは緑谷くんだ。ちゃんと泳いで一位だった。えらいね。
予選一位の三人で、頂上決定戦をするらしい。みんな盛り上がってる。わーわー、と私も適当に叫んでいると、背後の扉が開いた。ぴったりと目が合う。わ、不審者。
「オイ」
「なんでもないっす」
声に出してはいないはずなのに、何故か伝わった。ギン、とした目で睨まれる。こわい。決勝戦がスタートして、三人が飛び出した瞬間、先生が個性を発動した。不発に終わった個性のせいで、三人ともそのまま着水する。
「17時、プールの使用時間はたった今終わった。早く家に帰れ」
「先生輩みたい……ぐえっ」
ボソッと呟いただけなのに聞こえていたようで、捕縛布で縛り上げられる。水着のJKを緊縛するんじゃない。上鳴くんや瀬呂くんが訴えかけるも、無情にも黙らされていた。南無。
「せんせーさようなら」
「さっさと帰れ。……気を付けろよ」
「はーい、またね」
シュルっと捕縛布が解かれて、送り出される。水に濡れた後の身体ってなんとなく気怠い感じがする。肩を回してもバキバキ鳴らない。若さって最高。次に皆に会えるのは、合宿の日だ。近いようで遠いようで近い。もう宿題は八割終わらせているので、心配事はないんだけど、なんとなく胸騒ぎがする。合宿も、無事に終わるといいなあ。
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