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筆記試験が無事終わり、演習試験当日。筆記の開放感を味わうこともなくこれだもん。しかもなんか、虫の報せと言うか、嫌な予感がヒシヒシとしてたんだよね。
「それじゃあ演習試験を始めていく」
バス乗り場。コスチュームを来て、先生方と向き合う。いや、先生多いな。ほら〜、絶対これロボじゃないじゃん。嫌な予感的中。
「諸君なら事前に情報仕入れて何をするか薄々分かってるとは思うが……」
「入試みてぇなロボ無双だろ!」
「花火! カレー! 肝試しーー!」
「残念! 諸事情あって今回から内容を変更しちゃうのさ!」
「んぐっ」
ひょこっと相澤先生の……襟? 首元の捕縛布から校長先生が出てきた。なにそれかわいい。シュール。捕縛布を伝ってヨジヨジと下に降りる校長先生と、なんとも言えない先生の顔が面白かわいすぎてちょっと噎せた。先生の呆れた視線が痛い。ごめん、でも先生が悪いと思う。
「二人一組で、ここにいる教師一人と戦闘を行ってもらう!」
うわ、更に嫌な予感。A組は、私というイレギュラー特待生が加わったせいで21人、奇数だ。どこか一つ、三人一組のチームアップになるか、誰か一人だけオンリーでの試験になるか。
組み合わせと対戦相手が続々発表されていく。百と轟くんは相澤先生と。うわ、先生やだな〜。三奈と上鳴くんの相手は校長先生。ハイスペック相手によく考えて立ち回れってことかな。爆豪くんと緑谷くん対オールマイト。ここの組み合わせ邪悪すぎるでしょ。考えたの誰? 邪悪そう。
試験の勝利条件は、ハンドカフスを先生にかけるか、どちらか一人がステージから脱出することだ。10組の組み合わせが発表されるけれど、私の名前はない。
「それから緩名。喜べ、おまえの内容だけ特別だ」
やっぱね。嫌な予感ほどよく当たる。
「やな特別扱い……」
「おまえの相手は俺。勝利条件は、ステージからの脱出か制限時間内逃げ切ること。緩名のみ単独の試験となる」
「緩名さん一人、ってこと…!?」
「フゥン」
「泣いちゃった」
泣いてはないけど泣きたい気持ちだよ。
「大丈夫か?」
「ん〜……大丈夫ではないかも……」
声をかけてきた轟くんに向き直る。同じ人相手だね。頑張ろうね。肩をポン、と叩かれた。多分励ましてくれてるっぽい。
「あああ〜」
「大丈夫? 磨ちゃん」
「やだよお茶子ちゃん……代わって……嘘、そっちもやだ……」
「だいぶやられとるね……」
モニタールーム。砂藤くんと切島くんがセメントス先生にボコられているのを見ながらお茶子ちゃんに縋り付く。だいたいの皆は作戦会議しているらしい。いいな、私も作戦会議したい。一人だけど。ああ、一組目がリタイアになっちゃった。うげ〜、厳しいな。
緑谷くんによる解説では、この試験は天敵となる先生との対戦になっている、らしい。弱点を付いてくる感じ。私の弱点……近接だろうなあ。ヒーローになるとしたら、支援メインでの活動の予定だけど、だからこその逃げ切れって言う課題なんだろう。RPGでもヒーラー、バッファー職から潰すのなんて定石中の定石だ。お茶子ちゃん柔らかいな。
「コミュニケーション能力。ヒーローとして地味に重要な能力。特定のサイドキックと抜群のチームプレイを発揮できるより、誰とでも一定水準をこなせる方が良しとされる」
「私ぼっちつらなんですけど」
「あんたはその面では誰とでも上手くやるからね」
「てへへへ褒められた」
「確かに緩名さんのコミュニケーション能力は目を見張る物があるよね。轟くんや気難しいかっちゃんとでも直ぐに打ち解けていたし……バフって言う個性柄仲間との連携は重要になるし、個人の事をある程度理解しておく必要がある。強化も弱体化も相性があるとは言え緩名さんの普段の立ち回りにはそういう意図があったのか……」
「長」
「あっご、ごめん……っ」
緑谷くんのブツブツ芸怖いな。多分褒められてるんだろうけど。こわ、とお茶子ちゃんに抱きつく力を強くする。柔らかい手が背中を撫でてくれた。深く考えない性質だからコミュ強っぽく見えてるだけで、意味があっての行動ではない。実はすごい人だったんだ! みたいな深読みされるとちょっと恥ずかしさあるよね。照れ。
梅雨ちゃん常闇くん、飯田くん尾白くん、轟くん百達が無事にクリアしていく。お茶子ちゃんと青山くんもギリギリだけどクリアしていた。13号先生、私なら個性を弱められるから距離を保てたら勝ち筋はあるけど、この二人の場合どうしたらいいんだろうね。来る自分の試験に向けて、轟くんと百の戦いを参考にしようと思ったけれど、対敵スタイルが違いすぎるし求められている物もおそらく違うので、本当に参考程度だ。先生忍者みたいな動きするんだもん、逃げ切れるかなあ。百が自信を取り戻せたようで良かった。ああ〜目がキラキラしてる百かわいいな。なぜか私型のマトリョーシカを作っていたようでもらった。閃光弾じゃない普通のマトリョーシカだ。かわいい。謎リョーシカ。
それにしても、まじで先生対策ぜーんぜん思い浮かばない。まだお披露目してないサポートアイテムの出番かな。性能試してないやつもいくつかあるから、ちょっと賭けかもだけど。
「そろそろ行ってくるかあ」
「磨さん、お気を付けて!」
「健闘を祈る!」
「えーん行きたくないよ〜」
「緩名君! 君だけ一人で辛いのは分かるが頑張ろう!」
私の試験は最後から一つ前。緑谷くんと爆豪くんの前だ。三奈達がタイムアップしたのを見届けて、重たい腰を上げた。あ〜ヤダヤダ。見送られると行きたくなくなってもう一回座り込むと、飯田くんに叱咤激励された。起こして。
「ギャッ!」
「おわ、磨ちゃん!」
「びびったあ。お茶子ちゃんおつかれ〜おめでと〜」
「あ、行ってらっしゃい! 頑張ってね」
「あいあい〜」
行きたくない身体を引きずってモニタールームを出ようとしたら、扉が急に開いた。自動ドアだけど感知めちゃくちゃいいじゃん、と思ったらお茶子ちゃん。びっくりした。頑張ります。
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