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「やあやあ元気かね諸君」
「おせぇ」
「お! 緩名やっと来たか」
「やっぱね、主役は遅れてやってくるから」
「それが遅れてきたヤツの態度か」
「大変申し訳ありませんでした!」

 シュバッと椅子に座る切島くんと爆豪くんの二人に頭を下げる。場所はよくあるファミレス、時刻はだいたい正午。

「なんかね、出る準備終わって二度寝しちゃった」
「急に既読なくなるから寝たなって思ったわー」
「隣来んなブス」
「美少女と呼べ」

 集合時間は11時だった。高校生の集合時間ってまじで早いよね。大人になると集合時間がどんどん遅くなるから……これは言い訳です。誠に申し訳ございませんでした。隣来んなと言いながらも鞄を奥に置いて私の座るスペースを開けてくれる爆豪くんはツンデレだ。正統派ツンデレ幼なじみじゃん。緑谷くんの。ツンにしては凶暴すぎるけど。

「図書館追い出されたんでしょ? ウケる」
「ウケてんじゃねえ!」
「あ、ほら、シーッ! シーしないとまた怒られるよ」

 爆豪くんの口元に人差し指を押し付ける。ムッとしたけど静かになった。予定していた図書館追い出されたから駅前のファミレスで、と切島くんからメッセージが来た時は一人で爆笑しちゃった。何したの。

「緩名もドリンクバーいるか?」
「ん、そうしよっかな」

 二人ともドリンクバーらしい。うわ〜高校生らしい。俺注文と飲み物取ってくるな! 何がいい? と自らパシられてくれる切島くんにドリンクを伝えた。忠犬キリ公。ありがとう。

「……あれ、カツキじゃん!」
「あ?」
「ん?」

 切島くんが席を立ったのと入れ替わるように、爆豪くんに掛けられた声。なんだと思うとテーブルの前に立つ、二人の男の子。黒髪の刈り上げ君に、センター分けロン毛で指の長い子だ。

「んでてめェらがいんだ」
「地元だからそりゃいるだろ」
「あ、隣の……雄英の、緩名だっけ……?」
「ん? こんにちは」

 爆豪くんの友達かな? 名前で呼んでたし。ニッコリと笑顔を浮かべて挨拶すると、二人とも少し頬を染める。ハハハ、愛い子達だな。

「え、付き合ってんの?」
「マジかカツキ!」
「ア゙ァ!?んなわけ、」
「そうそう、私達アベックなので」
「アベック……」
「ババアかてめェ……」

 爆豪くんの腕に抱き着きながら言うと、言葉のチョイスに引かれてしまった。流石にアベック世代じゃないよ。ぺいっと引っ付いた腕を引き剥がされてしまう。つれない爆豪くん。引っ付いて剥がされての無言の攻防を繰り返していると、ジッと感じる熱視線。

「私の顔になにか?」
「あ、や、生で見るとめちゃくちゃ美人だなって」
「うんうん、そうでしょうとも」
「肯定すんな!」
「え〜、もっと褒められたい」
「ハハ……なんかイメージと違ぇ……」
「想像より可憐だった?」
「や、変だなって」
「いいか、コイツの外見に騙されンな」

 ビシッと爆豪くんが親指を突きつけてきた。人に指を向けない。教育的指導! と爆豪くんの指を曲げると痛てェわボケ! と丸めた教科書で頭をはたかれる。暴力的〜。
 その後、戻ってきた切島くんと、爆豪くんの中学時代のお友達二人と談笑してると、緑谷くんの話題になって爆豪くんがブチギレてファミレスを追い出された。お店の出禁って初めてなんだけど。恥ずい。

「また追い出されちまった……」
「そりゃあんだけ騒げばね」
「チッ、クソが……」

 勉強会のはずなのに、全く勉強しないまま途方に暮れている。

「あ、うち来る? それなりに近いし」
「マジか! でも急に行って親御さんとか大丈夫なのか?」
「家今誰もいないし平気だよ」

 おばあちゃんは今日も元気に老人会だ。旅行だったり畑仕事、はたまた観劇やお食事会等自分の人生を満喫しておられる。楽でとてもありがたい。

「じゃあお邪魔していいか? バクゴーも!」
「いいよ〜」
「チッ」
「さっきからチッチッチッチッ鳴らして……そんな口寂しいならキスするぞ」
「えっ」
「きめェわボケ!」

 舌打ちしすぎて下手なリップ音かと思った。顔を赤くする切島くんと拒絶する爆豪くん。ゾワムカしてる。ちょっとした戯れじゃん。



「お邪魔シマス!」
「……っす」
「はい、どーぞ」

 電車で数分。最寄りの駅から歩いて2分。すぐに着いた家に二人を招き入れる。特になんの変哲もない家だけど、物珍しそうにきょろきょろする切島くん。なんもないよ。

「女子の部屋入るの初めてかも……」
「そう? ど、感想は」
「なんか、スゲェ……大人っぽい……」
「ケッ」
「すげえ片付いてんなー」
「散らかすと片付けんのめんどくさいしね」
「俺なんか部屋に人呼べねぇよ」

 自室に招き入れると、そうそうにドサッとソファに腰を下ろす爆豪くん。うわ、爆豪くんかわいい系のインテリアとのミスマッチさすごいな。ギャップ萌え的には正解。部屋はわりと広めで、インテリアは白青系に纏めている。白、ミントブルー、グレー辺り。

「さっさとやんぞ」
「そうだな!」
「なんか適当に持ってくるねー」
「あ、お構いなくー!」

 ソワソワしながらラグの上に座る切島くん。落ち着きがない。各自飲み物くらいはコンビニで買ってきたけど、祖母孫二人暮らしの家とは思えないくらい家には食品が溢れている。お裾分けをよくもらうんだよね。二人してそんな家にいないくせに。
 適当にいっぱいお菓子を抱えていくと、爆豪くんが切島くんに数学を教えていた。すっごい大雑把だ。意外だなと思ったけど、地頭が良い人は理解が早いから人に教えるの苦手ってよく聞くかも。

「あっこれウメェ」
「メレンゲクッキー美味しいよね」
「初めて食った!」
「口じゃなくて手ェ動かせクソ髪ィ!」
「いてててて、悪ィ、悪ィって!」

 爆豪くんに怒られてる切島くんを見ながら、たまに切島くんを手助けして、たまに爆豪くんに教わりながらわりと順調に勉強会は進んでいった。大量にあった辛い系お菓子を全部爆豪くんに押し付けたら、食わねェのに大量に溜め込むな、と呆れられてしまった。だって頂くんだもん。



「えー! 昨日爆豪と切島磨の家行ったのー!」
「そうそう。わりとちゃんと勉強会したよ」
「いいなー、アタシも行きたい」
「百ん家行ったんでしょ? でもいいよ、いつでもおいで」
「私も私もー!」

 ぴょん、と跳ねて飛び付いてくる透を受け止める。どうどう。我が家はわりといつでも人が来るのはウェルカムだ。雄英ヒーロー科はお休みが少ないので最近は私のお客さんは少なくて寂しかったし。夏休み、女子が遊びに来ることになった。出来るならお泊まり会しようね。

「緩名教えんのスッゲェ上手くてマジで助かったぜ!」
「あいつアレで頭良いの反則だよな〜」
「な〜」
「なァ切島ぁ……緩名の部屋……どうだったんだよ……? 大人の階段登っちまっヘブッ」

 ハァハァと呼吸の荒い峰田くんに、梅雨ちゃんの舌ビンタが飛ぶ。続いて瀬呂くんのテープでお口チャック。完璧だ。切島くんは驚いて頬を染めている。なんかあった風のリアクション止めい。なんもなかったでしょ!




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