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期末テストまで残り一週間。直前に詰め込むのは嫌だから、夜勉強していて最近ちょっと寝不足だ。今までが寝すぎてたとも言う。若い時しか長時間寝れないからいいんだよ。
「全く勉強してねー!!」
焦った表情の上鳴くん(21/21位)、一周回って笑顔の三奈(20/21位)。偏差値の高い雄英に入学出来たんだから、二人とも普通にやれば出来るだろうに。クラスに賢い人が多いから落ちぶれて見えるだけだ。
「体育祭やら職場体験やらで全く勉強してねーー!!」
「確かに」
頭を抱える上鳴くんに、同意を表すのは常闇くん(15/21位)。あと一週間あるから言うていけるでしょ。頑張れ。
「期末は中間と違って……」
「演習試験もあるのが辛えとこだよな」
「あー演習試験……」
話し込む口田くん(12/21位)と砂藤くん(13/21位)に、同意する峰田くん(10/21位)は驚くことにクラスの半分より上だ。演習試験何やるのかな〜。対人戦とかだと、前よりはマシになったけどそんな得意じゃない。保健室で知り合った先輩にメッセで聞いとこ。参考程度にね。
「アシドさん上鳴くん! が……頑張ろうよ! やっぱ全員で林間合宿行きたいもん! ね!」(5/21位)
「うむ!」(2/21位)
「普通に授業受けてりゃ赤点は出ねえだろ」(6/21位)
最近仲良しの三人組はみんな賢いな。すちゃらかわっしょい爆豪軍団とは大違い。爆豪軍団とは、爆豪くん以外に切島くん、瀬呂くん、上鳴くんを指す。とはいえ、私も爆豪くんには中間の学力テストでは負けていた。あの感じでちゃんと勉強してちゃんと頭良いの、ずるくない? 私は爆豪くんに続いて4位だった。人生二回目なのに爆殺卿に負けてしまった。
「お二人とも、座学なら私、お力添え出来るかもしれません」(1/21位)
「ヤオモモー!!!」
「演習の方はからっきしでしょうけど……」
小さく呟いて自嘲する百は、最近なにやら自信喪失気味だ。喪失するようなことないと思うんだけどなあ。ヨシヨシと頭を撫でると、戸惑ったように笑って頬を染める。美人だけどかわいい。最下位コンビに加えて、数人が百を頼りにくると、感激に震えていた。よかったよかった。
「磨が頭良いのも納得いかないよね」
「普段お遊戯会の癖してな」
「んだとー! クレバーかつジーニアスだぞ!」
「そういうとこでしょ」
こういうとこかも。
「期末の演習、例年は一般入試みたいなロボらしいよ」
「おーまじか!」
「先輩に聞いた」
「だってよ爆豪!」
「興味ねえよ」
なんだコイツ。クラウドかよ。お昼休み、そこそこ混みあった食堂で先輩から仕入れた情報を伝えると、切島くんは喜んでいるのに爆豪くんは素っ気ない。
「ま、雄英のテストが毎回同じとは限らないしね。私とか響香とか、戦闘向きじゃない人にロボ差し向けたからってなに? って話だし」
「あー確かになー」
「何が相手でもぶっ潰しゃいいだけだろ」
「いやあ、一学期でやったことの総まとめだよ? 単純にいくかなあ」
雄英は常にプルスウルトラを強いてくる所があるから、対ロボの実践演習だと判明しても油断ならない。本当にロボならいいんだけど。
「対人戦、苦手なんだよねえ」
「緩名運動神経良いのにな」
「近接雑魚すぎんだわ」
「まーじで雑魚だからなんも言えない。どっちか手合わせ付き合ってよ〜」
「おっ! いいぜ!」
快く引き受けてくれる切島くん。神。明るい笑顔にハハーと手を合わせた。
「テメェ人の面倒見れる余裕あンのか」
確かに。実技試験は筆記試験の後だ。筆記の危ういらしい切島くんに頼むのも酷かもしれない。
「……緩名! 勉強教えてくれ!」
「えっいいけど……爆豪くんに教わるんじゃないの?」
「俺一人でこのボケ見てたら日ィ暮れるわ」
「面目ねえ……!」
「あは、おっけー」
爆豪くんなりの遠回しな一緒に勉強しようね! うんいいよ! ってことか。うんうんと頷いてたら気色悪ィことかんがえてんじゃねえと鼻の頭をデコピンされた。なんで分かったの。エスパー?
「爆豪くんこんなんなのに頭良いのずるいよねえ」
「ア゙ァ!?」
「緩名も大概だと思うぞ!」
「ウグッ」
「ハッ」
切島くんの悪意のない一言が私の胸に突き刺さる。眼鏡でもかけてインテリアピールしようかな。
「んだよロボならラクチンだぜ!」
私達以外にも過去の話を聞いていたらしい緑谷くん達から、実技の内容を聞いた三奈と上鳴くんが安心したように朗らかに笑っていた。確かに二人とも、強いけれど調整の難しい個性だ。三奈の酸も、上鳴くんの放電も、弱らせたところで届けばアウトだから戦うとなったらわりと厳しい。
「人でもロボでもぶっ飛ばすのは同じだろ。何がラクチンだアホが」
あら、爆豪くんのご機嫌がかなりナナメだ。緑谷くんに突っかかるのはいつものことだけれど、ここまでイラついているのは久しぶりに見た気がする。
「完膚なきまでに差ァつけててめェぶち殺してやる!」
爆豪くんと緑谷くんなら、実力の面で言えば爆豪くんの方が大きく差を付けてるだろうに。二人は幼なじみで、私には計り知れない関係があるんだろうけど、何をそんなに焦っているのか分からない。単純にめちゃくちゃ嫌いなんかな。
「轟ィ……! てめェもなァ!!」
「……私は?」
「緩名、シーッ」
呟けば、声を潜めた切島くんの手が口元を覆ってきた。ガン! と乱暴に扉を開いて出ていく爆豪くん。無視か。体育祭の決勝の事が、爆豪くんの中で燻っているんだろう。
「久々にガチなバクゴーだ」
「ブチギレッちゃんだったね」
「焦燥……? あるいは憎悪……」
うーん、と切島くんと顔を見合わせる。どうしたもんかね。
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