45



 帰りの新幹線。今日はこのまま家へ直帰だ。学校は明日から。もう夕方も遅い時間で、眠い。

「ねんむい」
「……緩名、てめェ、アイツとどういう関係だ」
「アイツ」

 アイツ?ああ、ジーニストか。眠くてあんまり頭回ってないわ。浮気相手を問い詰める彼氏かと思った。ま、全然知り合いなの隠してなかったし、気にはなるか。

「ちょっとした知り合い……かなあ」

 とはいえ、どういう関係と言われても、大した関係でもないので、答えに困る。私の知り合いというか親の知り合いだし。カツオにとってのアナゴさんみたいな。自分で言ってて違う気がする。

「そんな面白い話じゃないけど、聞く?」
「暇潰しにはなンだろ」
「んふふ、重ためとライトめどっちがいい?」
「んだそりゃ。適当でいい」

 適当。じゃあ適当に話す。

「私のお母さん、ヒーローだったんだけど、」
「……あ?」
「出かけた時に、テロに巻き込まれて子どもを庇って死んじゃって、んでそこに私もいて、死にかけだった私を助けたのがジーニスト……みたいな」
「ちょっと待て」

 ざっくり要約するとそれくらいかな。爆豪くんが顔に困惑を浮かべている。何気レア〜。写真撮っとこ。

「……クソ重てぇじゃねえか」
「あは、もっと重たいのもあるよ」
「いらんわ」
「まっ、流石に目の前で死なれたのはトラウマにはなってるけど、そこまで気にしてないというか、なんというか……」

 そもそも親との距離が遠かったので、たまに合う親戚程度の感情だったのだ。死んだのは悲しかったけど、長く引き摺る程でもない。

「まあ、元々ジーニストとはたまたまだけど会ったことがあったから、それもあって多少なりとも負い目、みたいなのになってんじゃないかなあ……」
「……」

 同級生とかにこれ話すの初めてだ。大人は知っている人が少数いるけど。これまで特に聞かれなかったから、話す機会もなかったし。そもそもフラットに話すもんでもないか。ジーニストもなあ、私なんか気にせず忘れたらいいのにね。目をかけるべき人は、きっともっと他にもいる。

「……重かった?」

 無言になってしまった爆豪くんを覗き込む。怒鳴り散らしてるイメージが強いけど、彼は元々わりと寡黙だ。ショックを受けたんだったら悪いことしたな〜と思ったけど、どうやら何かを考え込んでいるみたいだ。

「テメェの親って……や、いいわ」
「あら、いいの?」
「んな突っ込むとこじゃねえだろ」
「やあだ、センシティブ〜」

 ヒーローの誰か、を聞きたかったのかな。ちょいちょいと爆豪くんの頬をつつくと、嫌そうに眉間に皺が寄る。振り払われはしなくて、彼なりに罪悪感でも感じているんだろう。話したくない話題だったら勝手に話反らすし、そんな気にしなくてもいいのに。

「あんね、まじで気にしてないから、大丈夫だよ」
「……そうかよ」
「むしろ爆豪くんに気ぃ使われる方がこわい」
「使っとらんわ!」

 使ってたじゃん。素直じゃなくてかわいいかよ。

「あ、ねえそういえば、私の新しいコスチュームどうだった?」
「ア? ……なんか変わってたんか」
「うそ! 大幅改造されたんだから絶対気付いてるでしょ! そんな見てない!?」
「うぜぇ」
「え〜もう、写真見せてあげる」
「いらん」

 以前のコス写真と、ジーニストと並んで撮った新コス写真を爆豪くんに見せる。うわ、興味無さそ〜。こんなかわいいのに。やっぱ何着ても似合っちゃうから。

「かわいくない?」
「フツー」
「……かわいい?」
「あ? ブス」
「は? かわいいと言え」
「ブス」
「かわいい!」
「ブス」
「ブス」
「ブス」
「キーッ!」
「猿」

 普通からブス、更に猿へ格下げされた。美的センス狂ってんじゃないの? オコリザルになりそう。あ、それは爆豪くんか。むかぷんしてる私を見て口端を釣り上げて笑う爆豪くん。言っとくけど君今八二だからな。

「あ、爆豪くんもパツパツ仲間だよね」
「……俺のは機能性に優れてンだよ」
「私のも……多分そうだよ」

 多分。知らないけど。




PREVNEXT

- ナノ -