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「てことで、全然わかんないからどこ行けばいいですかね」
「丸投げすんな」

 放課後。オールマイトに連れ出された緑谷くんを尻目に、職員室へ相談に来た。それにしてもあの二人、何かあります〜、っていうのを全然隠す気ないな。いいけど。

「ヒーローについて詳しくなさすぎて……数も多いし」
「……まあ、おまえの場合少し特殊だからな」

 サポート特化の個性はいろいろあるだろうけど、他者の強化を出来る個性持ちはなかなかいない。加えて回復も。体育祭後は、私自身の戦闘力も鍛えた方がいいとのお達しがあったけれど、それはここでやるべきなのかどうかだ。ヒーロー基礎学とかで体術は習うし、なんなら先生に言えば学校で稽古も付けてくれそうだし。
 ヒーローはそれぞれ、個性を活かして活躍する。爆豪くんとか轟くんみたいに対人戦で強いなら対敵をメインにしているヒーローに、響香のように索敵向きならそういうヒーロー、お茶子ちゃんなら救助活動かな? 一年生のこの時期ではあるけど、将来を見据えた取り組みだし、向いている所に行くのがほとんどだろう。峰田くんのマウントレディは知らないけど。
 私の場合、自分一人ならそこまで対人は強くないし、救助の方がまだ得意だ。その場合回復班になりそうだけど。でも、誰かが居たらまた別だ。他人の能力を伸ばせるんだから、活躍場所はそこまで選ばない。だからこそ、無限の可能性が見えて選択を絞るのが難しい。

「もう先生のとこ行こっかな〜」
「おまえは便利だが、俺はサイドキックは募集してない。いらん」
「ひどい……! 先生が求めていたのは私の身体だけだったのね……!」
「そりゃないぜイレイザー!」
「可哀想に、相澤くんに弄ばれたのね……」
「黙れマイク、散れ。ミッドナイトさんもノらないでくれませんかね」

 わっと泣き真似をするとどこからか湧いてきたマイク先生が囃し立て、ミッドナイト先生に抱き締められた。職員室ノリいいよね。相澤先生は連れないけど。柔らかい身体を抱き返して、胸元に頭を埋める。「香り」が個性に直結する先生は、流石とてもいい匂いがした。見上げると、眼鏡越しの瞳と目が合い、柔らかく頭を撫でられる。目付きはちょっとイヤらしいが。頬を撫でるのは細長い指。生徒と教師じゃなかったら喰われそう。

「カワイイわね……私が募集してたら強引にでも引き込んだかもしれないわ」
「はあ、もうそれでいい」
「やめとけ緩名、それは修羅の道だ」
「でもミッドナイト先生の個性強化したらちょっと面白そうじゃない?」
「まあ、制圧には長けてそうだな」

 組み合わせがいいかも。アリだな。いや募集してない時点でナシなんだけど。マイク先生強化したらもっと声大きくなるのかな?死人出る。

「緩名の場合、出来ることが多い分悩むだろうが、自分が将来、どういうヒーローになりたいのかを考えろ」
「将来……」
「個性の活かせる幅が広いからな。どこを選んでも大きく外れることはないだろうが、ぶっちゃけると下手な所選ぶと利用だけされて身にならん、なんてこともある。それも経験の一つだ」

 よく考えろよ、とポンと頭に手が置かれた。将来どういうヒーローに、ねえ……私には、明確なビジョンも何もない。何を思ってヒーローになるのか。難しいなあ。ゔう、と唸るとガシガシと乱暴に撫でられた。



 時は流れて職場体験当日。私が散々迷いながら若干投げやりになりながら決めたプロヒーローの元へ向かう日だ。今回の人生で一番迷ったかもしれないくらい迷った。いっそもうあみだとかにすればよかった。

「コスチューム持ったな。本来なら公共の場じゃ着用厳禁の身だ。落としたりするなよ」
「はーい!!」
「伸ばすな「はい」だ芦戸。くれぐれも失礼のないように!じゃあ行け」

 先生に怒られて三奈が一瞬でシュンとなっていた。角までシュンとするの、どういう仕組みなんだろ。

「楽しみ?」
「うっせ」
「うっさくなーい」

 方面、というか向かう事務所が一緒な爆豪くんの隣を歩く。私達の職場体験する事務所は、プロヒーローベストジーニストのジーニアスオフィスだ。私の数少ないちゃんと知っているヒーローである。天才の私にピッタリの事務所名だよね。そう言ったら無言でどつかれた。すぐ殴る。職場体験先が同じだと知った時も真似すんなとデコピンされた。いつか指逆に曲げてやる。

「爆豪くんポッキー食べる?」
「……」
「ルビーチョコレート」
「……」
「トマトプリッツ」
「……」
「つ……ツナマヨ」
「……」
「ねええ暇なんだってかっちゃーん」
「うるっせェんだよさっきからてめェはひとりで!!」

 人もまばらな新幹線内、暇すぎて爆豪くんに構い倒すと怒鳴られた。車内ではお静かに。人差し指を口の前に立ててシー、とすると無言でまたデコピンされた。私の脳細胞が爆豪くんによって破壊活動されている。

「いたた……赤くなってない?」
「おー、さっきよりマシな面になってんぞ」
「この完璧美少女を捕まえてなんてセリフを」
「自分で言うなや……」

 爆豪くんのドン引き顔。顔芸凄いね君。ちょっと面白かったから隣に並んで自撮りした。否定しないってことは美少女は認めてるってことでオッケー?

「なに撮っとんだ脳みそゆるふわ女」
「新幹線の中って光いい感じだから盛れるんだよね〜ほら爆豪くんも顔作って」
「誰がするか!勝手に撮んなやクソボケ」
「私のスペシャルキュートな顔に並べる自信ないよね……ごめんね……」
「ンだとテメェ完璧な写真撮ったるわ!」

 爆豪くん煽り耐性0どころかマイナスなの最高だよね。爆盛れ自撮りを終えた後シンカンセンスゴクカタイアイスを買って食べた。本当に凄く固かったせいで爆豪くんがスプーンを折っていた。ゴリラゴリラゴリラの方ですか? アプリで加工した「磨と勝己〜二人はプリキュア〜」写真をLINEグループに流すと正気に戻った爆豪くんにはブチ切れられLINEグループは盛り上がった。よかったよかった。




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