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 回されてきたフリップは未だ空白のまま。うーん、ほんとに何も思いつかない。個性由来……バフ、強める、ストレンジ……駄目だ魔術師っぽくなっちゃう。強化……ブースト? バフだけじゃないんだよね。駄目だ、こういう系のセンス壊死してるかも。うんうんと頭を抱えて考えるけど、全然出てこない。

「じゃそろそろ!出来た人から発表してね!」
「!!!」

 発表形式なんかい。まあいいや、他の人の見て考えれるし。自信満々の青山くんが、前に出てフリップを掲げた。

「輝きヒーロー “I can not stop twinkling”」
「短文!!!」

 名前と言うか文章だった。そういうのもありなんだ。ミッドナイト先生に冷静に添削されている。ありなんだ。彼らしくはあるよね。

「じゃあ次アタシね! エイリアンクイーン!」
「2! 血が強酸性のアレを目指してるの!? やめときな!!」
「これ大喜利?」

 青山くんから三奈に続く流れで、完全に大喜利っぽくなってしまった。二人とも真面目にボケ倒して行った。大喜利でいいなら楽なんだけど、と頭を捻っていると、梅雨ちゃんが「フロッピー」という親しみやすくてかわいくて個性も的確に表している名前を発表して空気が変わった。かわいい。今はなきディスクの方が若干頭を過ぎった。
 皆か続々と発表していく中で、全然思いつかない。もう誰かに丸投げしたい。

「磨珍しく悩むの長いね」
「こういうの苦手なんだよね〜……考えたことなかった」
「あれでいいじゃん! プリースト!」
「白魔道士的なヤツ〜」
「なんか版権とかにひっかかりそうなんだけど」

 三奈や瀬呂くん、上鳴くん達の賑やかしメンバーに提案された。めちゃくちゃゲームじゃん。男の子はそういうの好きだよね。微妙に役職違うくない?

「クレリックは?」
「私、聖職者っぽくなくない?」
「煩悩まみれだもんな」

 誰が煩悩の塊だ。

「あれ、じゃあもうホワイトとかでよくね?」
「シンプルだしな〜」
「あ〜、ホワイト……」

 絶対白魔道士から来てるな。ホワイトはちょっと、今は亡き母のヒーロー名と被りかけるからアウトっぽい。個人的な事情だけど。寝袋に篭っている先生が、私の呟きを聞いてピクリと片目を開いた。先生は事情を知っている人だから、気にかけてくれているんだろう。平気なんだけどね。

「ま、その系統でいこっかな」

 爆殺王、と発表してダメだしされている爆豪くんに続いて、フリップを出した。爆豪くんは爆発さん太郎でもいいと思う。駄菓子っぽいし。ちょうどコスチュームの大幅改造も終わって、それっぽくなったし。

「ビアンカ」
「幼なじみヒロイン的な?」
「ゲームから離れて」

 白、をイタリア語にして、『ビアンカ』。イタリア語なのはなんとなく、響きが良いからだ。ミッドナイト先生が、一瞬だけ目を見開いて笑った。

「良い名前ね、素敵じゃない」
「ありがとうございます」

 なんとか綺麗にまとまった。母とは由来も違うけれど。私の母のヒーロー名は、「スノーホワイト」。かわいらしい名前だけど、由来はリンゴを片手で握りつぶせるからだと言っていた。白雪姫、そんな話じゃないから。

「思ったよりずっとスムーズ!残っているのは再考の爆豪くんと……飯田くん、そして緑谷くんね」

 小二センスの爆豪くんはともかくとして、飯田くんはこういうの考えてそうなのに意外だなあ。結局そのまま、轟くん方式で名前で出していた。そして、緑谷くんが考えたヒーロー名は「デク」。彼の幼なじみからの呼ばれ方、蔑称だ。長く使うかもしれない名前にしてはマイナスな意味だけど、緑谷くんにとってはそうじゃないのかもしれない。これも青春、なのかなあ。爆豪くんは、爆殺卿をまたもや却下されていた。殺が駄目なんだと思うよ。



「うあ〜、めっちゃある」
「緩名トーナメントも凄かったしなー」
「個性も汎用性高いしサポートにも向いてるし」

 先生から渡された指名のリスト。多すぎてチェックする気にならない。職場体験は1週間。指名のある場合はその中から、ないなら学校の選んだ40件から選択するらしい。今後の自分の方向性を考えて選ばなきゃいけないけど、そもそも、有名なヒーローしかほとんど知らないんだよね。

「エンデヴァーとベスジニくらいしか分かるのないかも」
「うっそだろお前!?」
「ていうかそこからもオファー来てんの!」

 後ろから手元を覗き込んでくる瀬呂くんと上鳴くんのために、身体を少しずらしてリストを見せる。二人も指名を貰ってるし、自分の見ればいいのに。有名なヒーローからもいろいろ来ているらしい。名前と特徴を言われればなんとなくピンと来るような、来ないような……って感じだ。

「あ、ギャングオルカは分かる。さかなかわいい」
「魚」
「シャチは魚じゃないって俺でも分かる」

 フォルムが魚だったらだいたい魚なんだよ。




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