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「磨ー!」
「磨ちゃん!」
「ぐえっ」
休み明けの朝、大雨の中いろんな人に話しかけられて疲弊しながら登校すると、三奈に飛びつかれた。みぞおち。
「轟と付き合いだしたの!?」
「いつの間にそんな関係になったの!」
「わあ、朝から元気〜」
そういえばグループに写真投げっぱだった。通知音切ってるから返信忘れちゃうんだよね。
「おまえらどっちも返信ねえしさー!」
「くそっ、くそっ……!所詮世の中顔か!チクショオ!」
「ていうか轟の顎よ」
上鳴くんと峰田くんの若干、いやわりと多めに怨嗟の籠った恨み言。やめて瀬呂くん。思い出させないで。自分でも思い出したのか、ふるふると瀬呂くんの肩が震えている。
「どうなんだね緩名容疑者」
「ゲロっちまった方が楽になるよ」
ノリノリの透に、響香まで参戦してきた。チッチッチ、と肩を組んできた三奈に、自白を強要される。
「ま、付き合ってないんだけどね」
「えー?ほんとに?」
「街ブラしてたら遭遇したからさ〜」
「でもトキメキとか胸キュンはあったでしょ?だってデートじゃん!」
「トキメキ……」
あったかなあ。トキメキ。胸キュン。うーん。ピンと来ない。デートというより、轟くんの友達講座って感じだったし。そもそも私、中身が妙齢だったから、今の私よりも年上としか付き合ってないしなあ。年の差あり過ぎると引いちゃうけど、常識の範囲内で。今の同学年に、トキメキを覚えられるのかも分からない。でも、新たな発見はいろいろあった。
「轟くんは、」
「なに?なに!?」
ワクワクした様子の三奈に詰め寄られる。そんな気になる?恋バナ楽しいもんね〜。
「結構、めちゃくちゃ天然」
「……トキメキは?」
「まことに残念ながらこの度は……」
「えーっ!」
ブーブー!とブーイングが起こる。すまない。
「あーあ、かいさーん!」
「なーんだ」
「まあそうだろうなとは思った」
「俺的にはよかった〜」
「君たちひどくない?」
詰め寄ってきていた女子勢+上鳴くんが散っていく。人の恋路でキャーキャー言いたいらしい。ドラマでも見てろ。
「お」
「あ、渦中の」
「渦中?おはよう、緩名」
「ん、おはよ〜轟くん」
騒ぎが収まった頃、登校してきた轟くん。挨拶をしているだけなのに三奈のこっちを見る目がニヤついている。まだ諦めてないな。
「付けてるんだ」
「これか。姉さんが付けてくれた」
轟くんの鞄に、オールマイトのぬいがついている。ミスマッチな様が逆にかわいさを出していた。素直でかわいい。トキメキ、かわいさ方面なら振り切ってるかも。
「おはよう」
前の席の百も交えて話していると、予鈴が鳴って、先生が入ってくる。入学してまだそんなに経っていないけれど、それなりに騒がしかった教室がピタッと大人しくなった。この短い期間で、時間を無駄にすることを嫌う先生の合理的思考をいやというほど分からされている。
「相澤先生包帯取れたのね。良かったわ」
「婆さんの処置が大ゲサなんだよ。んなことより今日の“ヒーロー情報学”、ちょっと特別だぞ」
梅雨ちゃんの言った通り、グルグル巻きでミイラの様だった包帯が取れている。傷跡は残ってしまったが、後遺症等はそこまで残らないらしい。処置が早かったから、と褒められて、少しむず痒かった。特別な授業、雄英に入ってからは多くあるけれど、なんだろ。ヒーロー情報学は前世にはもちろんなかったカリキュラムなので、抜き打ちテストとかだとあんまり余裕はない。
「「コードネーム」ヒーロー名の考案だ」
「「「胸ふくらむヤツきたああああ!!」」」
「ひーろー名」
ワッ!と盛り上がった皆に、先生の髪がザワと逆立つ。瞬時に静まり返った。本当によく躾られている。
にしても、ヒーロー名か。考えたことなかったな。ヒーロー科に入ろうとも思ってなかったし当たり前か。名前とか考えるのわりと苦手なんだよね。
「例年はもっとバラけるんだが、三人に注目が偏った」
体育祭での活躍を元にした、プロヒーローからのドラフト指名。サイドキックとして、早くから目を付けておこうってやつだ。頂いた指名数は、轟くん、爆豪くんを抜いて一番目。数にして5000弱くらいの指名数がある。うわあ、伸びたな〜。
「だーーー白黒ついた!」
「見る目ないよねプロ」
「緩名すげー!!」
「1位2位3位逆転してんじゃん」
「表彰台で拘束された奴とかビビるもんな……」
「ビビってんじゃねーよプロが!!」
「いえーい爆豪くんに勝ったー」
「うっせェのろま!!!」
悪口からついに性別まで消え去ってしまった。爆豪くん今日も元気だな。無限に爆発してる。ピースを向けるとガァ!と叫んで爆破してきたので、緑谷くんがビビってた。うける。
「さすがですわ轟さん、磨さん」
「やっぱね〜私天才だからさ〜」
「ほとんど親の話題ありきだろ……」
轟くん、お母さんとは和解したらしいけど、パパの話題はやっぱり嫌なようだ。道は長い。私の場合は、私のクレバーでジャスティスキュートなところが評価されたのもあるけれど、まあ個性のおかげだ。自他問わず強化、弱体化出来る且つ治癒まで手が届くなんて、ヒーローやる上では利用しない訳がない。
「これを踏まえ……指名の有無関係なくいわゆる職場体験ってのに行ってもらう」
「!!」
「おまえらは一足先に経験してしまったがプロの活動を実際に体験して、より実りある訓練をしようってこった」
なるほど。それでヒーロー名が必要になるわけだ。即で必要なものじゃん。ますます迷うんだけど。
「まァ仮ではあるが適当なもんは……」
「付けたら地獄を見ちゃうよ!!」
ガラッ、と教室の扉を開けて、勢いよく入ってきたのはミッドナイト先生。
「この時の名が!世に認知されそのままプロ名になってる人多いからね!!」
「ミッドナイト!!」
「まァそういうことだ。その辺のセンスをミッドナイトさんに査定してもらう」
確かに、先生もこういうの苦手そうだ。
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