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「次、プリ!」
「プリクラか。聞いたことはあるぞ」
「進歩じゃん」
今の盛れる機種ってどれだろう。まあ、私たち顔が整いあそばせてるのでなんでも盛れるんですけどね。
「ゲームセンター、初めてだ」
「そうなの?じゃあなんかやってみる?」
UFOキャッチャー。取りやすそうなところで色んなヒーローの寝そべりぬいがあった。轟くんがチャレンジしてみる。
「全然取れねえ」
「最初はそんなもんだよ」
数プレイしたが、隣のエンデヴァーにアームが阻まれてオールマイトを持ち上げることすら上手くいっていなかったので、選手交代。狙いはオールマイトだ。掴んでも確率でアームが強くなるタイプなので、基本的に転がしてとる。ワンプレイ100円、2回で取れた。チョロい。
「お」
「はい、あげる」
「いいのか」
「学校の鞄に着けていったらオールマイト喜ぶよ」
「……そうしてみる」
角のとれた轟くん、ハチャメチャに素直だ。かわいいまである。轟くんもヒーロー志望の多数と同じくオールマイトが憧れらしい。強さは象徴だね。それにしても轟くん、「お」が口癖っぽいな。
「今のすげえな」
「でしょ?ジーニアスなもんで」
ベストジーニストのぬいも良いところにいたので取ってみた。寝そべった腕と胴体の間にアームを入れると1回で取れる。やっぱ私、クレバーかつジーニアスだわ。ベスジニ、特別好きとかではないけどちょっと知っている。モデルもしてるよね。UFOキャッチャー、取れそうだと取っちゃうから浪費の始まりだ。ダメダメ。
「よし、プリ撮ろ」
「……緩名は写真が好きなのか?」
「え?特にそんなこともないけど」
「よく撮ってるだろ」
「んあ、なんかほら、思い出思い出」
「思い出……」
「写真にあったらさ、こんなことあったなーって後から思い出しやすいからね」
「……そうか。それは、いいな」
確かに学校とかでもよく撮っている。理由を付けたが、最早女子高生の癖みたいなものだ。中身は女子高生じゃないけど、皮が女子高生なら女子高生だし。
数多あるプリ機の中で、どれにしようか迷う。コーナーにいる女の子たちの熱い視線が轟くんにぶっ刺さっているのは知らないフリ。私と見比べるな。比較的空いてそうなのでいっか、と仕切りを捲ろうとしたところで、パシャ、とカメラの音が鳴った。
「……え?」
「?どうした」
「今撮った?」
「ああ。思い出だ」
「えっへへ、タイミング謎すぎない!?」
見るか?とワクワクした様子で轟くんの記念すべきファースト写真を見せられる。ちょっとぶれた私の横顔。盛れてはないけど元が盛れてるから美人だ。やばい、轟くん面白すぎる。轟くんの写真フォルダには、機種変の時に元から入っている写真、多分重要そうな書類の写真、多分間違えてカメラを起動したっぽい壁のドアップの写真に、それから私の横顔。それくらいしかまだ入っていないけど、これから増えていくんだろう。
「いっぱい増えるといいね」
「……ああ。お母さんに見せるんだ」
「ん、素敵だね」
なんとなく撫でて欲しそうに見えたので手を伸ばすと、轟くんが少しだけ屈んだ。でっかい犬みたいだ。これ、周りからは馬鹿ップルに見えてるかもしれない。よしよし。
お金を入れて、シャ、とカーテンをひいてプリクラ機の中に入る。物珍しそうに轟くんが辺りを見渡した。中には何もないよ。
『好きな映り方を選んでね!』
「喋った」
「今時は機械も意思があるからね」
「そうなのか」
加工は盛り盛りにした。どうせ後でまた弄るし。轟くんの反応が一々新鮮で笑ってしまう。フレームも適当に選んで、撮影開始だ。撮影位置を指示されるので、一応指示通りに立つ。
『かわいく指ハート!』
「指ハート……?」
「こうだよ」
「こうか?」
「待ってカメラ見て」
パシャ!撮影音が鳴り響く。轟くんが出来ていない指ハートを私に見せつけてる横で一人だけカメラに向かってポーズしている私がいる。死ぬんだけど。
『いい感じ!』
「おお、ありがとう」
「ひひっ、まって機械と会話しないで」
『ぎゅーって、大好きのハグ!』
「いや、それは……駄目だろ」
「マジレスで草」
轟くんとの撮影はずっとこんな調子で、笑いすぎて私の膝がガクガクになった。7枚中2枚しかまともに写っているのがない。涎出るかと思った。
「大丈夫か?」
「も〜笑いたくない。死ぬかと思った」
落書きコーナーに移る。このプリ機はちょっと落書きが短めだ。印刷される5枚を選んで、落書きに入る。
「すげえ、なんか顔違ぇな」
「目の大きさ選べるぞ」
「なんか顎伸びてねぇか?」
「緩名、すげえぞこれ」
轟くんが一生隣から感動を伝えてくれる。動画に残せばよかった。今度飯田くんと轟くんをプリコーナーに突っ込んで動画撮ろ。百は撮ったことあるのかな?なさそう。百も追加だな。
カシャン、と印刷されたプリクラが落ちてきた。透明のシールっぽい縁で、かわいらしいけれど、中央に写っているのは脚を伸ばす加工に引き伸ばされた顎の長い轟くんだ。私は笑いすぎて泣いている。
「これも、今度お母さんに見せてみる」
「それは……うん、まあ轟くんの自由だし」
いきなり学園ハンサム轟くんはハードル高いんじゃないかな、と思ったけど、ショック療法って言うしね。スマホに送った顎の長いプリ画を、さっきツーショ上げたきり放置していたなんだか盛り上がった様子のA組グループトークに再び送信した。
「緩名、今日はありがとう」
「ん、こっちこそ!一生分笑えたよ」
ゲーセンを出た頃には夕方になっていたので、学生らしく健全にお別れする。そんなに長い時間ではないけど、轟くんとぐっと仲良くなれた気がする。会話は未だに噛み合わないこともあるけど。いい一日だった。また明後日ね、と手を振って、駅の改札をくぐった。
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