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 眠い。もうすぐ表彰式が始まるからと叩き起されたせいで寝覚めが悪くて、立っている身体ごとグラグラと頭が揺れてしまう。

「ん゙んぅーーーんん」
「ぐずり始めたぞ」
「赤ちゃんか?」

 ショボショボする目を擦りながら唸ると、前にいた瀬呂くんと砂藤くんが何かいっていた。もう赤ちゃんでいい、寝かせてバブ。

「ねむい」
「後ちょっとだから」
「やだあ……」

 目の前の身体にしがみついてそのままよじ登る。オーイ、と呆れた声が聞こえてきたけれど、太ももの下に腕が差し込まれて、綺麗におんぶされた。ヨシ。

「せろぉ……」
「なーによ」
「ひじ……ゴリゴリして痛い……」
「いやわがままか」
「なに、磨まだお眠なの?」
「ご覧の通り」

 三奈の声がするけれど、おんぶの心地よい揺れの中また意識を手放しそうになる。

「磨ー、先生が登壇しろって」
「……んえ、パスで」
「パスはありません」
「えー 」

 近付いて来ていたミッドナイト先生に眉間をぐりぐりと押されて、少しだけ目が覚める。ほんの少しだけね。のろのろと瀬呂くんの背中から降りて、ミッドナイト先生に手を引かれるまま歩いた。平らな地面の上に立てば、もこもこと地面が盛り上がって、あっという間に表彰台になる。セメントス先生の個性だ。ちょっと楽しい。

「ん゙ん゙〜〜〜〜!!」
「ふわぁ……ぁ」
「あいつよくあの隣で呑気に欠伸出来るな」
「もはや悪鬼羅刹……」

 何度も欠伸を噛み殺していると、表彰式が始まるらしい。3位の台には私一人。同じく3位の飯田くんは、なんでもおうちの事情で帰ってしまったらしい。

「はわわぁ〜……っは、」
「ん゙〜〜〜!!!」
「ん?あれ爆豪くん、なにしてんのそれ」
「ん゙ん!!ん゙〜〜〜〜〜〜!!!!」
「あははは、ウケる。写真撮っちゃお、はいピース」
「アイツ死ぬほどマイペースだな」

 ポケットからスマホを撮り出して、インカメを起動する。眠気覚めてきた。爆豪くん流石だ。ピースして自撮りすると、爆豪くんの目付きがまたギャンギャンに悪くなった。なんでこの人拘束されてんの?面白いんだけど。

「メダル授与よ!今年メダルを贈呈するのはもちろんこの人!」
「私が!メダルを持って「我らがヒーローオールマイトォ!!」

 ドンかぶりしていた。オールマイトがちょっとシュンとしている。打ち合わせなかったのかな。

「緩名少女おめでとう!流石だな、君は」
「わーい、ありがとうございます」
「君の個性上、サポートに入る事が多くなるかもしれないが、地力を鍛えれば取れる択も増すだろう」
「あは、ほどほどに頑張ります」

 ポンポン、と肩を叩かれながらアドバイスをされる。要するにもっと自分の身体を使った戦い方も学べよ、ってことだ。サポート向きだからって、戦えない訳ではない私に直接戦闘が回ってこないかと言えば、ヒーローという職業に限ってはそれも難しくなるのかもしれない。そもそもヒーローになるかも分からないけれど。首に飾られた三位のメダル。私には分不相応な分、少しだけ重いな、思ってしまった。
 どこか落ち込んだ、迷子のような顔をした轟くん、それから依然として爆ギレ状態の爆豪くんを抱き締めて、オールマイトが生徒に向き直り激励を送る。誰もがこの台に立つ可能性があった。私はたまたま運が良かっただけだ。日頃の行いが良いばかりに。

「てな感じで最後に一言!皆さんご唱和ください!せーの」
「「「プルスウル「おつかれさまでした!!!」えっ!?」」」

 最後まで、締まらないな〜。オールマイトらしいのかも。



「ただいま、おばあちゃん」
「ああ、お疲れさま。頑張ってきたねえ」

 家に帰ると、玄関先でおばあちゃんがなにやら大荷物を抱えていた。家の入口に野菜とか果物とかおまんじゅうとか和菓子とかがいっぱいある。なんでも私が体育祭で大活躍したから、ご近所さん達がいろいろと持ち寄ってくれたそうだ。ここらへん一軒家多いし、住んでるところ、田舎って訳ではないんだけど、婆ちゃんズネットワークは広い。私より交流関係多いからすごいよね。

「持つよ〜」
「大丈夫よお。それより、帰ってきたとこ悪いけど発酵お手伝いしてくれない?」
「はあい」

 頂いた野菜は祖母孫二人暮しには多すぎるので、さっさと加工してしまうらしい。着けた物へ劣化をかけると何故か時短で漬物が出来ることに気付いてから、なかなか使用頻度の多い個性の使い方にやっている。発酵食品作りで私の個性は磨きあげられてきたと言っても過言でもない。なんかダサいな。大荷物を一気に持ち上げるおばあちゃんの個性は「身体強化」。母、そして私へ受け継がれるバフだ。とはいえ、世代が古いのでそこまで個性は強力ではないけれど、荷物を持ち上げるくらいなんてことない。おまけに個性由来なのか、見た目も老齢のわりに若々しいので、ラッキーとよく喜んでいる。私も老けにくいのかな?ラッキー。
 貰ってきたばかりの鈍い色のメダルを、並ぶ三つの金色のメダルの隣に立てかけた。



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