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来たる二回戦。私の相手は常闇くん。さっきの試合を見れてはいないけれど、だいたい聞いている。盾で防御する百に、攻撃を与える暇もなく場外に押し出したのだとか。うん、初動遅れると私も普通にそのパターンで終わりそう。ダークシャドウくん厄介すぎるよ〜。対人戦において強すぎるよね。かわいいし。ダークシャドウくんさえどうにかすれば、どうにかなる。勝算は結構高い。
「よろしく〜」
「よろしく頼む」
ひらり、と手を振って常闇くんに向き直った。当たり前だけど、油断もしてくれそうにない。
『ドンドン行くぜェ!二回戦第三試合、STARTォ!』
「黒影!」
「アイヨ!!」
「よっ」
合図と共に常闇くんから飛び出してきたダークシャドウくんを、身軽にした身体で飛び上がって避ける。体重の、だいたい十分の一くらいまで軽くできるので、今の私はちょびっとだけ大きい猫ちゃんくらいの軽さだ。ダークシャドウくんが向きを変えて再び迫ってくる。いけるかな、多分いけるよね。
「えいっ」
「何を……っ黒影?」
ぴょんぴょんと跳んで避けながら、ダークシャドウくんに触れて個性をかける。通ってくれよ〜と願いながらだったが、多分いけたっぽい。シュンッ、と常闇くんの中へ素早く引っ込んでいく。クスン、クスン、と小さくなって泣き真似をされる。私が虐めてるみたいだ。ダークシャドウくん、デバフかけると縮むんだ。かわいい〜。
「クッ……厄介だな」
「お褒めに預かり光栄〜」
フィジカル、素の状態なら勝てないかもしれないけど、個性を使えば別だ。戦闘技術をさほど学んでいないとは言え、圧倒的な差があれば話は変わってくる。常闇くんも強い個性を持ってるから、自身の戦闘技術はまだまだ拙いし。
「ッ!」
「とんでっけー」
常闇くんの懐に飛び込んだままの勢いで、常闇くんを弾き飛ばす。自分の体重は重く重く、常闇くんは軽く軽く。常闇くんにかかる衝撃はまあ凄いだろう。
「あっ!」
「グッ、」
「常闇くん場外!緩名さん三回戦進出!」
あっという間に場外まで飛んでいく常闇くんが、ダンッ!とステージの壁に叩きつけられていた。やば、飛ばし過ぎた。ミッドナイト先生の審判で勝利が宣言され、慌てて走り寄った。
「飛ばしすぎちゃった、立てる?」
「……ああ。軽くなっていたからな。平気だ」
「は〜よかった。ダークシャドウくんもごめんね〜」
クスンクスンと泣いているダークシャドウくんにかけた個性を解いて、撫でようと手を伸ばすとシュルシュルとまた常闇くんの中に引っ込んで行った。ショック。
「……嫌われた?」
「いや、拗ねているだけだ」
よかった。いや、よくはない?怯えられてしまった?くすん。
「強いな。完敗だ」
「常闇くん強いから、いっぱいいっぱいだったよ〜。ありがとう」
常闇くんに手を差し出して、握手。一番青春っぽいことしてる気がする。傍に居たミッドナイト先生がくねくね身悶えていた。最早青春フェチ。ワアア、とそこそこの歓声とそこそこの拍手の中、ステージを後にした。
「あ、切島くん」
「おお!緩名、勝ったんだな!」
舞台袖に戻ると、既に控えていた切島くんがいた。次は彼と爆豪くんだ。なかなか激しくなりそうな組み合わせだ。切島くんに爆破は効きにくいもんね。
「切島くんも頑張れ〜」
「あったりめェだ!ぜってー勝つ!」
「じゃ、次は私とだね」
ぐっと握り拳を差し出すと、ニッと笑ってコツンと合わせてくれる。え〜なんか青春って感じでよくない?立て続けに青春を感じた。行ってくる!と元気良くやる気満々で出て行った。それにしても、切島くんが勝っても爆豪くんが勝っても戦いにくい相手である。
硬化、ある程度和らげられるとはいえ普段よりは硬いし、切島くんは肉弾戦で戦うからそもそもが鍛えられている。今のところ私の勝利方法は軽くして吹っ飛ばす。なんだけど、これは身体をそこまで鍛えていない相手が連続だったから出来たことだ。場外に押し出すにしても、参ったと言わせるにしても、骨が折れる。
次、爆豪くん。言わずもがな。弱体化しても小規模な爆破はされるだろうし、近接も鬼のように強い。戦闘センスも抜群。爆豪くんとの勝負での勝ち筋が見えない。吹っ飛ばしても空中で爆破で軌道を変えられるだろうな。あ〜やだやだ。あと痛いのも嫌だ。どうしよっかな。
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