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「わっ、なに」
ゴオオオ、と凄まじい音を立ててスタジアムが揺れた。内部の廊下を歩いているのに、ここまで伝わってくる。何やったんだ、緑谷くん。か、轟くん。ぺたぺたと人気のない廊下を歩いて、出張保健所の扉を開けた。すぐ戻ってきた。
「ああ、早かったね」
「ん〜」
「今決着が着いたよ。もう直に運ばれてくるから、悪いけど手伝いを頼むよ」
「はあい。轟くん勝ちました?」
「見てないのかい?」
「ん、だいたいは見た」
「そうかい。三回戦進出は轟だよ」
まあそうでしょうね。緑谷くんが勝ち進んでても治癒が間に合わないだろうし。テーブルの上に置いてあるハリボーを勝手に食べる。たまに食べたくなる味してるよね。もきゅ、と噛んでる内に、保健所のドアが開かれた。
「いらっしゃ〜い」
「え、緩名さん、なん……」
「リカバリーガールがお怒りで〜す」
看護師さん見習いだ。説明面倒臭いし白衣でも着ようかな。うへあ、近くで見るともっとズタボロ。ずいぶんワイルドになった体操服を剥いで、身体を濡れタオルで拭く。拭けるとこだけ。緑谷くんはずっとえ、とかあ、とかまって、とか吃っている。両手えぐいことなってるのに元気だね。
「これ、普通に治癒したらまずいです?」
「これは……ダメだね。粉砕骨折だ。破片が関節に残らないよう先に摘出しないと」
「了解です」
ひえ〜、聞いてるだけで痛い。リカバリーガールの手伝いをしながら処置していく。緑谷くんが轟くんにしたいことは分かった。きっと、緑谷くんの言葉は轟くんを救ったんだろうってことも。でも、その為にこうまで自分がボロボロになってたら、なんと言うか。自己犠牲が過ぎるのは、ヒーローらしいと言い換えられるのだろうか。
「緑谷少年!」
「あら、保健室ではお静かに〜」
「あっすまない……」
オールマイトが慌ててやってきた。注意をすると少し小さくなる。うん。
「右手の粉砕骨折。もうコレ綺麗に元通りとは行かないよ」
リカバリーガールの懇願のようなお説教に、オールマイトが更に小さくなる。
「あんたコレを褒めちゃいけないよ」
「デ緑ク谷くくん!!!」
しゅん、とオールマイトと同じように小さく見える緑谷くんの頭に手を触れて撫でた途端、またバン!と扉が開かれて駆け込んでくるクラスメイト達。あはは、オールマイトがびっくりしてる。
「お静かに〜」
シッ、とすると、四人ともコクコクと頷いた。ここにいたのかって?ここにいたんです。一足先に。
「みんな……次の試合……は……」
「ステージ大崩壊のためしばらく補修タイムのそうだ」
となると、私の試合ももうちょい延びるかな。次は飯田くんとB組の女の子だ。
「うるさいよホラ!心配するのは良いがこれから手術さね」
「シュジュツー!!?」
ホラホラ、とリカバリーガールに追い出される四人を呆れながら見ていると、すみません、と涙声が聞こえてきた。
カチャ、とリカバリーガールが扉に鍵をかける。オールマイトが緑谷くんに発破をかけたようだ。緑谷くんのオールマイトへの憧れはかなりのものだもん。だからって無茶をする。この二人の間にある関係は、なんとなく分かっても詳しくは知らない。
「確かに残念な結果だ。馬鹿をしたと言われても仕方のない結果だ……」
ぎゅう、と緑谷くんの眉間の皺が寄る。
「でもな。余計なお世話ってのは、ヒーローの本質でもある」
ヒーローの本質、か。余計なお世話。自己犠牲の精神。ヒーローって、なかなか歪な存在だよなあ、と思うことがある。それらが本質だとすると、どっかおかしくないと、ヒーローなんてなれないよねえ。そう不満がある訳じゃない。けど、全く、本当に不思議な世の中だ。
「ほらほら、手術するんだから、あんた達も出ていった」
「ぅえっ!私も〜?」
「あんたはまだトーナメントが残ってるだろ」
「ええ〜……はーい」
まあ実際、私がいても出来ることは痛覚を鈍らせる、回復力、回復速度の向上くらいだ。……いや、結構出来ることあるな。手術の内容事態には手を出せないけど。ああ〜、やっぱり、医学系も視野に入れないとダメかなあ。そこまで勉強ガッツリしたくもないんだけど。ああ、こういうとこがダメなんだった。
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