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「私が帰ってきた!」
「お疲れ。二回戦進出おめでとう」
「磨ちゃん、かっこよかったわ」
「いえ〜い」

 客席に戻ると、響香と梅雨ちゃんに褒められた。撫でてくれ、と頭を差し出すと梅雨ちゃんは笑顔で、響香は照れつつも撫でてくれた。褒められるのはどれだけ褒められても良い。

「磨ちゃん!だ〜れだ!」
「いや前見えてる見えてる」
「だ〜れだ?」
「とおる〜!」
「正解〜!」

 後ろから目元を覆う、少しひんやりした肌の感覚。でも視界はクリア、良好だ。こんな意味の無いだ〜れだ?初めてなんだけど。

「なんか人少ないね」
「ヤオモモと常闇は今終わった。飯田はまだ帰ってきてない。切島は……あ、ほら出てきた。爆豪と麗日はこの次だし控え室行ったよ。緑谷は気付いたら消えてた」

 なるほど。舞台には切島くんと、B組の男の子の戦いだ。相手の個性はなんと鉄だと言う。若干被ってるね!デバフかけたら同じ感じになるのかな。二回戦での私の相手は常闇くんだ。百、負けちゃったのか。常闇くん対人戦強いよね。個性は強力だけど、常闇くん自体のフィジカルはめちゃ強なわけではない。身長とか私とそう変わらないしね。ダークシャドウくんに私の個性が通るかが問題かな。多分いけるはずなんだけど。

「二回戦、楽しみだなあ」
「緩名も常闇には難しいんじゃね?」
「瞬殺の上鳴くん」
「瞬殺やめて……」

 瞬殺だったんだもん。



 切島くんと鉄の人の暑苦しい名勝負は引き分けに終わった。勝敗は後で腕相撲で決めるらしい。急にノリ軽い。

「次、ある意味最も不穏な組ね」
「ウチ、なんか見たくないなー」

 不穏かあ。爆豪くん、誰相手でも油断しないし容赦もしないからなあ。勝ちに拘って自分の隙を無くす姿勢、超良いと思うの。口は悪いけど。今更柔和な爆豪くん、むしろ見たくないもん。

『一回戦最後の組だな……中学からちょっとした有名人!堅気の顔じゃねえ!ヒーロー科爆豪勝己!対!俺こっち応援したい!ヒーロー科麗日お茶子!』

 めちゃくちゃ私情だった。私はどっちも応援する気持ちです。

「事故でも触れたら浮かされる!間合いは詰められたくないハズ!だからかっちゃん的には……」

 お茶子ちゃんが速攻を仕掛ける。いつの間にか戻ってきていた緑谷くんが解説を始めていた。二人と仲良いもんね。

「どわー」

 迎え撃った爆豪くんの爆破がモロに直撃する。うひゃあ、痛そう。熱と衝撃。お茶子ちゃんは何度も突進を繰り返すけど、爆豪くんはその全てに反応出来ている。反射神経えげつないな。どうなってるの、爆豪くん。

「触れなきゃ発動できねえ麗日の個性、あの反射神経にはちょっと分が悪いぞ……」

 障害物とか、浮かせれる物があればまた違うんだろうけど、フィールド場には何もない。触れれば可能性があるとは言え、お茶子ちゃんの勝ち筋がなかなか見えなくて難しい。どうしたもんか、と椅子に背を預けた時、見えた。

「お茶子ちゃん……!」
「ウチ見てらんない」
「いやあ、意外と」

 上空。スタジアムよりも、もう少し上にパラパラと浮かぶ物が見える。多分、爆破で削れた瓦礫だろう。相当捨て身だけど、爆豪くんに勝つにはそういう作戦選ばざるを得ないよね。

「おい!それでもヒーロー志望かよ!そんだけ実力差あるなら早く場外にでも放り出せよ!」
「女の子いたぶって遊んでんじゃねーよ!」

 何度も何度も繰り返し近付いては爆破を喰らうお茶子ちゃんの姿は確かに痛々しくて、客席からブーイングが巻き起こる。場外に押し出すの、触れられる危険があるから難しいんでしょ。爆豪くんにも、真剣に戦ってるお茶子ちゃんにも全く失礼な言葉だ。

『一部からブーイングが……しかし正直俺もそう思っわあ肘』
『今遊んでるっつったのプロか?何年目だ?シラフで言ってんならもう見る意味ねぇから帰れ。帰って転職サイトでも見てろ』
「相澤先生……!?」
「いいぞいいぞー」

 ふん、と膨れていたら、私の代わりに相澤先生が怒っていた。げきおこだぞ。

『ここまで上がってきた相手の力を認めてるから警戒してんだろう。本気で勝とうとしてるからこそ手加減も油断も出来ねえんだろが』

 そうこうしている間にも、空には無数の瓦礫が漂っている。よろめきながらも前を見据えたお茶子ちゃんが、ぴと、と手を合わせた。

『流星群ー!!!』

 一気に瓦礫が降り注ぐ。お茶子ちゃんが爆豪くんに突進していく。これは、と思ったところで、凄まじい轟音が響き渡った。

「うわあ」

 かなり距離があるのに、爆風が客席まで吹きすさぶ。すーっごいな。あれだけあった瓦礫が、一撃で一掃されてしまった。

『会心の爆撃!麗日の秘策を堂々──正面突破!!』

 爆豪くんの左手が、僅かに痙攣している。流石に反動は来るよね。ギン、と凶悪で、それでいて楽しそうな顔をした爆豪くんが、お茶子ちゃんに向き直った。

「あっ」

 一歩、踏み出した瞬間に、お茶子ちゃんの身体がくずおれた。キャパシティオーバーなのだろう。

「麗日さん行動不能。二回戦進出爆豪くん──!」

 お茶子ちゃん、根性すごいな。爆豪くんもタフネスだけど、お茶子ちゃんもタフネスだ。リカバリーガールの元へ運ばれていくお茶子ちゃんを見ていたら、念の為にと持たされていた機械が、ぴぴぴぴと鳴った。



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