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 年越しも初日の出も寝て終わった。昨日は、帰ってダラダラして久しぶりにおばあちゃんのご飯を食べて、自宅のお風呂でゆっくりして、盛れた自撮りが撮れたからA組のグループに送ったらなんか暇な人たちと2時間くらいビデオ通話して。毎日寮で顔合わせてるのに、たった一日の帰省でまで通話するのはなんか、仲良すぎてウケるでしょ。そのままこたつで数十分寝落ちたから、ハッと起きて部屋で寝て。っていうのをしていたら、いつの間にか朝だった。いい朝。

「おばあちゃんおはよ、あけおめ〜」
「はい、あけましておめでとう」

 よく寝てたわね〜、なんて感心されてしまった。しかもお年玉まで貰っちゃった。もう一応お給金出てるのに、と言ったけれど、近所の人達までみんないいのいいの、なんてくれたから、それなりの額の臨時収入だ。有難く頂戴する。

「磨ちゃん、年賀状届いてるよ」
「わあ、ありがとう」

 私からは一枚も出してないけれど、結構な枚数が届いている。小中の友達とか、知り合いとか、あと轟くんから。えっ、律儀かよ。昨日もあったし今日も午後には会うのに。そういえば昨日、轟くんのお姉さんらしき人も見た。あっ! と驚いた顔をされてから、めちゃくちゃペコペコされて、多分エンデヴァーさんよりお母さん似なんだろうなあ、なんて。
 年賀状には、轟くんからの直筆メッセージと、筆跡の違う綺麗な字で、「焦凍をよろしくお願いします」と丁寧に書かれていた。誰だろ? エンデヴァーさんではないだろうし、……轟くんのお母さんとかかな? 多分女性の字だから、お姉さんの可能性もあるけれど、いずれにせよ面識はない。

「おばあちゃん、年賀状ある〜?」
「沢山あるよお」

 沢山はめんどくさいけど、一枚だけ。轟くんへのお返しだ。他の人はごめん、めんどくさいからいつか返す。エアキスだけ送ってるから。パパっと年賀状を書き上げて、学校に戻る用の鞄に入れた。
 それからしばらくまったりダラダラして、お餅を食べて、準備をしたらそろそろ出立の時間になった。おばあちゃんは、三箇日が明けたら一週間ほど旅に出るらしい。アクティブ〜。

「じゃあ、行ってきます」
「はい、行ってらっしゃい。気を付けてね」
「うん、また帰ってくるね」
「ええ。お土産送るわね」
「あはは、ほどほどにして〜」

 送りのバスが最後だったのもあって、迎えのバスも最後の方だったらしく、中はそれなりに埋まっていた。爆豪くんの横が空いていたので、そこへ向かう。その後ろには、緑谷くんと轟くんが。常闇くんや響香の姿が見えないので、別グループだったんだろう。

「やほ、おはよ〜あけおめことよろ」
「あっ、あけましておめでとう!」
「ああ、おめでとう。今年もよろしくな」
「てめェ、余計なことすんな」
「え〜?」

 年明け邂逅開口一番、いったんなんだって言うんだ。リュックを抱えて、爆豪くんの隣へ腰を下ろす。

「余計なことなんてしないも〜ん! 意義のあることしかしないで通ってるんで」
「もうそれが嘘だろォが」
「ちがいますぅ〜」

 人間のやることなすこと全部意味あるらしいし。知らないけど。爆豪くん越しにパタパタとおばあちゃんに手を振ると、前の席の轟くんたちも手を振っているのが見えた。かわい。

「緩名のおばあさんか?」
「うん」
「めちゃくちゃお若いね……!」
「ね、見た目はちょ〜若い。個性のさ〜、影響らしいよ」

 祖母、母、私と、自己強化の能力がある。そのためなんかいろいろあって、老いにくいらしい。

「爆豪くんのお母さんもめっちゃ若ない?」
「……てめェが余計なことすっからババアがうるさかったわ」
「え〜? なんかしたっけ? 記憶にございませんなあ」

 そう言いながら、爆豪くんへ向かってハートを書いてフッ、と吹き飛ばす。それだわ! とデコピンを食らった。新年一発目の暴力だ。暴力反対ー!

「あ、そいえば謹賀新年ってことで……はい、轟くん」
「お、なんだ? ……ああ」

 鞄を漁って、書き立てホヤホヤの年賀状を前の席の紅白頭に刺した。

「ありがとな」
「年賀状?」
「毎日顔合わせとるだろうが」
「ねえ、だから来た時びっくりしたよねえ」

 爆豪くんには知らないけど、緑谷くんと轟くんはズッ友だから緑谷くんのとこにも轟くんからの年賀状が届いてるんだろうな、と思って話を振った。ら、緑谷くんはどうも貰ってないらしい。おろ。マウントみたいになっちゃった。

「ああ、緩名にしか出してねぇよ」

 そうしれっと言った轟くんが、緑谷にも送りゃよかったな。悪ィ、と軽く謝る。え、私にしか出してないんだ。……な、なぜ? 思わず緑谷くんと顔を見合せた。ケッ、と爆豪くんが肘を付いて窓の外を見た。

「な、なんで緩名さんだけに……?」

 尋ねる緑谷くん。そこ聞くんだ。緑谷くんってやっぱまあまあこう、意外にズケズケ行くよね。勇者。

「お母さんが出した方がいいんじゃないか、って」
「あ、あれお母さんの字だったんだ」
「ああ。……それに、俺も緩名に出したかったから」

 轟くんがそう言って、口元に私の書いた年賀状を当てた。いつの間にか、シン、と車内が静まり返っている。雪こそ降っていないが、元日の冷え込みはなかなかだ。だと言うのに、なんとなく、車内がジワジワと熱を持っているような気がする。色でたとえるならば、ピンク、だ。……みんな聞き耳好きだよねえ。
 引率のセメントス先生が、気まずそうに「もうすぐ学校へ着くので、降りる準備をするように」と言った。



「あふ」
「眠そうだね」
「ん〜、ちょっとだけ。この時間眠くならない?」
「はは、緩名さんはよくお昼寝してるもんね」

 昼下がり、電車に揺られると、眠たくなってしまう。車内は人もまばらで、轟くん、緑谷くん、私、離れて座ろうとしたから私に捕獲された爆豪くんで並んで座れるくらいには空いていた。まあ元日だし。

「インターン、なにするんだろ」
「おまえ前行っとったろ」
「うん。でも基本短期だったから」
「それでも、緩名さんいろんなとこ行っててすごいや」
「へっへん、まあね」

 コスチュームケースとリュックを抱えたまま、へへん、と威張る。とはいえ、色々な所へ行けていたのはメリットも多くあるけれど、その分どうしても経験が浅くなるというデメリットもある。今更緊張はしないけれど、気は張らないと。

「前の時は、連携の確認とか出力調整とかそのへんだったしなあ」

 数回パトロールに連れて行ってもらったけれど、わりと着いて行くだけでも大変だった。移動向きの個性ではないのもあるし、そもそもNO.1の管轄エリアは広く、活気もあって、その分事件や事故も多い。避難誘導やサポートがメインだったけれど、おこぼれに預かって敵退治の一端を担えたのは実力よりもわりと運だ。運も実力の内ではあるけど、流石にそれを誇れるほど自信家ではない。

「がんばろ〜」
「お、おー!」

 ゆるゆると小声で意気込んだら、緑谷くんだけが同じように小声で小さく拳を突き上げてくれた。優しさ。
 電車を降りたら、さて、NO.1とご対面だ。



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