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クリスマス会、といえば、プレゼント交換だ。ケーキを頬張りながら、準備をするみんなを見守る。22人分の交換になると流石に大変そうだ。持ち寄ったプレゼントに付けた紐がこんがらがっている。
「え、私あれ欲しい」
「……そうか」
基本的には包装されているし、誰のものかは分からないのもプレゼント交換の醍醐味ではあるけれど、常闇くんの持ち寄ったなんかめちゃデカ厨二ソードだけは別だった。まあ常闇くんだしな。あれ欲しい、って指差すと、先生はめちゃめちゃ微妙な顔をしてきたけれど、否定しないところ優しいと思う。
「磨ー」
「ん、余ったのでいいよ」
「これとこれ? 先生どうぞー」
「ああ」
残った二つの紐が私と先生に手渡されて、あとひとつが瀬呂くんによって爆豪くんの足に貼っつけられた。いかにも興味ねェ! って感じを出しているけど言われた通りプレゼントを用意してるあたり律儀だ。
せーの! の掛け声で一応くい、と持たされた紐を引いた。
「あは、あれエリちゃんにあたってんだけど」
ドデカ聖剣がエリちゃんの手元へ。子どもでも担げるくらいの重さのようだから、ダンボール製とかなんだろうか。厨二ソードを肩に担ぐエリちゃんを見て、尾白くんが物凄い顔をしていてウケた。幼女と大剣、ミスマッチさがすごいよね。
そして私の手元には、片手に乗るくらいの小さめの紺色の箱が。シックなブルーのリボンが控えめに巻かれている。かわいい。シュル、とリボンを解いて中を覗くと、入っていたのは、……あれ? 見覚えあるやつだ。どこだっけ、つい最近見たような。……ああ。
「ね、もしかして先生と交換なってるかも」
「……ああ、これおまえのか」
隣に座る先生の手元には、クリーム色の袋と、猫柄のホットアイマスク。対して私の手には、いかにも高級、なはちみつが。エリちゃんと先生とお出かけした時に見たやつだ。へえ、先生これプレゼントにしたんだ。センスある〜。
「ちょっと意外かも。先生とはちみつ」
先生に甘いもののイメージがあんまりない。担任だし先生も参加しよ! と三奈や上鳴くんとお誘いしたけれど、てっきりワンチャン参考書とか入ってるかな、とか思ってた。それはそれで面白いけど。
「……おまえ好きだろ」
「ふふ、そりゃ私は好きだけども」
小瓶を掲げると、光に透けた琥珀色がトロリと流れて綺麗だ。絶対美味しい。ホークスがくれるせいではちみつにハマっているところにこれなんだもん。完全に私向けのプレゼントだ。まあ、大人になったらやっぱり消え物にしがちなのはわかる。誰に当たってもわりといいやつだしね。先生は手に持ったアイマスクをひっくり返して、裏面の要項に目を通していた。使い方とか載ってるからね。
「ね〜それかわいくない?」
「まァ」
描かれている黒猫が絶妙にぶすっとした感じでめちゃくちゃかわいい。先生っぽいふてこさがある。目を使う個性の先生にぴったりになっちゃった。天才かも。膝の上に頬杖をついて、使ってね、と先生を上目で見つめると、かさついた唇が、少しだけ口角を緩めた。
「あ、ねえ明後日さ」
「ん?」
「演習場の使用許可。心操くんもいてもいいよね?」
「ああ、別に構わん」
「ん、ありがとう」
忘れるところだった。SNSとかでもいいけど、直接許可取れるならそっちの方がいいよね。ついでだし誰か誘おうかな。開封したプレゼントに一喜一憂するみんなを見た。一人でやる時は、機械相手に捕まらないように逃げ回ったりしていることが多い。あとは演習場どこ借りるかにも寄るけれど、個性の使用法の模索とか。最近の発見は地面にバフをかけると固くすることが出来るんだけど、反対にデバフをかけると、骨抜くんほどではないけれど柔らかく、反発性を高めることが出来たので、跳ねる時にちょっと便利である。
心操くんと特訓は、基本的に体術訓練。体格差もあるので個性ナシだと最近は勝てなくなってきたけれど、個性アリだとネタが割れている分流石に私が連勝だ。他にも三奈とかと遊びのように自主練することもあるけど、今回は個性よりも自力を鍛えたいしなあ。誰に声かけるか迷う。ので、聞いてみようと思う。
「ねね、A組でさ、発動系の個性なしで一番強いの誰だと思う?」
「ア?」
「わあ、びっくりした」
先生に話を振ったのに、別のところから声が聞こえてきた。振り向くと目を鋭くさせた爆豪くんが。
「俺」
「えー、そうかなぁ」
「ンだコラ雑魚」
「暴言〜」
たしかに爆豪くんは個性なしでも強い。センスも勘もいいし、鍛えられている分威力もある。ただ、A組には接近戦タイプが数人いるから、流石の爆豪くんでもタイマンのトップではないんじゃないかな、と思った。
「肉弾戦ってコトか?」
「それは負けてられねぇな!」
「めっちゃ寄ってきた」
「女子ならアタシ!」
「それはそう」
切島くんや砂藤くんまで来た。まあうちのクラスの肉体派だしね。興味深い話題なんだろう。女子は文句なしで三奈だ。身体能力からして段ちだもの。
切島くんは鍛え方がそもそも耐える向きの物だから、個性を使わなくても耐久力がある。砂藤くんも、個性を活かすためには素の力をあげないといけないから、そもそも攻撃向きの身体作りだ。体格で言うなら障子くんもパワーがあるし、口田くんも恵まれた体格だし。
「ってか急にどうしたの」
「ん? いや、明後日心操くんと自主練するし、体術強い人誘お〜って思って」
「心操と!? ふたりきり!?」
「だから今から誘うんだって」
響香の質問に答えると、別の要因で三奈が目を輝かせる。ハイハイ。膝の上に顎を乗せてくるので、猫にするように首元をくすぐると楽しげな笑い声を上げた。
「個性なしの殴り合いか〜」
「あんまやったことねェよな!」
「体術訓練はあるけど確かに」
殴り合いするとは言ってないけれど、殴り合いに変換されてしまっているみたいだ。怖いわ。私の訓練へのお誘いのはずが、そっちのけで男の子達は盛り上がり始めてしまった。誰がタイマン強いかは聞いてないんよ。いつの時代も闘争本能は強いらしい。特にヒーロー科なんて、まあそりゃそうだろう。
「なにすんの?」
「ん〜、基本は組み合ったり……あとは鬼ごっこしたりしてるかも」
心操くんには捕縛布の練習も必要だし、ちょっとミスって怪我しても治せる私がいるし。それで、いつも同じ面子だと慣れてしまうから誰か誘おうと思ったんだけど、変な方向に話が膨らんでしまった。楽しそうだしいっか、と思っていると、まァ、と成り行きを見守っていた先生が声を上げる。
「その条件なら尾白だろうな」
「え……やった!」
殴り合い談義に混ざっていた尾白くんが、先生からの名指しに喜びの声を上げた。わかる、ちょっと嬉しいよね。俺のが強ェ、と不満げな視線を受けてか、先生が口を開く。
「バランスの良さだ。パワー特化、スピード特化が悪いわけじゃねェが当たらなけりゃ意味がない。手数の多さも利になるが一発一発が軽ければその分隙も増える」
それから手癖のなさ、らしい。尾白くんは幼少期から武道を習っているらしいし、独学じゃないから人に教えることも知ってる。尻尾の個性を活用してもいるが、技術として真っ当な物だ、という評価に、突然褒められタイムに入った尾白くんが顔を赤くして照れていた。普段あんまり褒めない先生からのお言葉だもんね。引き出した私に感謝してほしい。
「ね〜、じゃ尾白くん明後日来ない? っていうか別に誰でもいいんだけど」
「あ、うん! 全然、俺は」
「やった〜」
「っつーか俺も行っていいんなら行きてぇ!」
「えー、おいでおいで」
切島くんも名乗りを上げてくれた。仲間が増えるよ! やったね磨ちゃん! 三奈も暇だから行こうかな、らしい。心操くんにメッセをいれたら、すぐに了解、ありがとう、と返事がきた。演習場予約すんの地味にめんどいから、誰かが取った時に一緒にやるのが一番効率的ではあるんだよね。響香も興味深そうにしていたけど、少し悩んで今回はパス、と言われた。
「宿題終わらせたいし」
「ウワ」
「あっは、三奈、耳塞いでも宿題は消えんて」
「ウワウワウワ」
嫌なこと聞いた、とでも言うように三奈が耳を塞いだ。
「磨なんでそんな余裕なの!?」
「私もうほぼ終わってるもん」
「はやっ!? 終業式今日だよ!?」
「渡されたのちょっと前じゃん」
「にしても早すぎ」
響香にまで驚いた目で見られてしまう。ええ、でも、ねえ?
「タスク溜めるのってさあ、ストレスになるし……早めに終わらせた方が楽だし」
「ウッ」
三奈が胸を抑えてバタン、と倒れる。可哀想。ちなみに百や飯田くんは冬休みの宿題なのだからと律儀に冬休みになってから手を付けたらしい。真面目すぎる。
「磨さま……お助けを……」
「ええ」
這いつくばっていたと思ったら、太もものあたりにすり、と頬を寄せてくる三奈。別に手伝うのはいいんだけど。
「自分の課題は自分でやりなさい」
「はい……」
「ふふふ」
芦戸、と三奈を呼ぶ声に先生の方を見れば、めちゃくちゃ教師〜、って感じのお叱りをされていた。先生だ。
「ま、そんな量多くないし大丈夫だって。余裕余裕」
「ほお、なら緩名にはもう少し課題増やすか」
「エッ? いやっ、ちょっとそれは……話変わってくるんで……」
とんでもないことを言い出す先生にご勘弁を、と手を合わせると、バカだ、と響香が呆れ笑いを零した。冗談だと分かってはいるけれど、先生なら万が一に追加課題出てきそう感もある。それくらいする人なのは、この九ヶ月でよく知った。上鳴くんや瀬呂くんに指をさして笑われている。もう絶対、アイツらには教えないからな!
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