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「サンタ服!!!」
「緩名のだけテイスト違くねェ?」
「なんでそんなエロいやつ……おまえ……」
「だって持ってたんだもん」

 聖夜といえばミニスカサンタである。例に漏れずクリスマスパーティーをする我がA組だが、クラスの誇るなんでも屋、八百万百の尽力により、クラスメイト全員サンタコスだ。ただ百ばっかりに負担をかけるのも、ってことで、自分の持っているミニスカサンタをおばあちゃんに送ってもらったのだ。瀬呂くんにはなんで持ってんだよ、とちょっと引いた目で見られた。クリパくらいするでしょ!

「かわいくない? これ」
「かわいいけどエロい」
「せめてなんか羽織ってくれ……!」
「緩名最高!」
「肌なんてヒロスで見慣れてるでしょ〜?」

 オフショルのミニスカワンピだけれど、切島くんには刺激が強かったようだ。ヒロスならよくてこういうコスならエロく見えるの、不思議だよね。男の子の不思議だ。峰田くんとか上鳴くんは純粋に喜んでる。しゃあないな、と手に持っていたシャンメリーを切島くんに渡して、猫耳のついたケープを羽織る。こういう系のコスプレ、猫かうさぎ系多いのかわいいよね〜。

「これなんだ?」
「ん? シャンメリー」
「……あ! 前オールマイトに買ってもらったやつか!」
「上鳴くん忘れてたんかい」
「忘れてました」

 そんなに前のことではないのに。どうやら上鳴くんは鳥みたいだ。ちょうど響香たちが、各クラスに配達された料理を盛ったお皿を持ってきた。

「雄英マジすげェ」
「これ全部食べていいん……」
「私はチョコフォンデュたべた〜い」
「あ、私も! 磨ちゃん一緒にやろ〜!」

 クリスマスということで、学校側からクリスマスパーティー用のオードブルが少なくない全学年全クラスに届いている。ランチラッシュの手も加わっているが、流石に一部外注だ。とはいえ、さすが雄英、資金力が桁違いである。追加で簡単なパーティ料理を、作れる人で作ったのもあって、机の上はかなり豪華になっている。

「みんな、グラスは持ったか!」

 料理が出揃ったところで、飯田くんが号令をかける。彼岸島みたいだな。私と数人ははグラスの代わりにクラッカーを持って、せーの、と切島くんの掛け声に合わせて紐を引いた。

「Merry Christmas!」

 パァン、と華々しい音と一緒に、重なった声が響き渡った。



「緑谷くんはどうするんだい……その……ナイトアイ事務所」
「あそこはセンチピーダーが引き継いでるんだろ!? 久々に会えるじゃねェか!」
「僕もそう思ってたんだけど……」

 聖夜、といえど皆の話題の中心は知らされたばかりのインターンについてだ。秋に行っていなかった子も多いし、秋や職場体験時に行っていたところが事情により不可なパターンもある。私は真っ先に決まっちゃったからその面では心配ご無用だけど、やっぱりみんなどこ行くか気になるよね。サンタコスをさせようとしてくる三奈にバチ切れてる爆豪くんも、どこにするんだろ。

「お酌いたします〜」
「あ、緩名さ、ん!?」
「緩名くん、ありがとう! だが狭いぞ!」

 緑谷くんと飯田くんの間にお尻を捩じ込んで、むりやり座った。相変わらず至近距離だと顔を赤く挙動不審になる緑谷くん。ちょっとイタズラしちゃお、とレッグウォーマーが邪魔で外した素足を、緑谷くんの膝の上に揃えて乗せた。辞めてやれよ、と切島くんが呆れた顔で見てくる。いじるの、楽しいんだもん。

「緩名くん、人の上に足を乗せるのは行儀が悪いぞ!」
「シャンメリー飲む?」
「む、いただいてもいいか?」
「もち」

 差し出された飯田くんのコップに注ぐため、蓋を開けようとして止まった。ハ? 固。キレそう。無理。は?

「は? 開かんのだけど」
「固ェのか?」
「あほばかかちかち! か弱い私には開けれない。キレそう」
「爆豪なみに沸点低いな!」
「ア゙ァ!?」

 地獄耳〜。ケラケラと笑いながら言った切島くんに、爆豪くんがキレている。サンタ帽を被せようと連携を組んでいる三奈と上鳴くんも、まだまだめげないらしい。元気があって大変よろしい。

「ふんぬぬぬぬ」
「あ、あ、あ、開けようか!?」
「おたのんもうします……」
「うん……! あの、なのでちょっと、足を……!」
「ああ、それ蓋飛ぶもんね」

 よいしょ、と緑谷くんの膝から足を退けて、膝を抱えて三角座りに。チラッ、と……いや、ガッツリこっちをガン見してくる峰田くんが、くそォ! 見えねえ! と嘆いていた。ハハハ、見えない仕様になっているんだよ。悪いね坊や。私と緑谷くんにお皿とチキンを取り分けてくれる飯田くんに背中を預ける。緑谷くんが少し力を込めると、ポンッ、と軽い音が鳴って、シャンメリーの先からひんやりとした冷気が漏れだした。

「この音、好き」
「あーなんか分かるわ」
「ね」

 切島くんが同意してくれた。シャンパンとかワインの開く音って、なんか子気味いい響きだよね。そのまま緑谷くんが、私と飯田くん、切島くんに自分の分と注いでくれる。……あ。

「お酌しにきたのにお酌されちゃった」
「あっごめん」
「いやいや、むしろありがとうじゃん」
「緩名はインターンどこ行くんだ? っつーか行くのか?」
「ん? 行くよ〜」

 色々なことが起きたのは周知の事実なので、私がインターン行くかどうかあやふやに思われるだろう。実際、皆は強制だけど私の場合は行く行かないの選択肢を示されている。

「磨エンデヴァーのとこなんだよね」
「そうそう」
「え」
「えってなに」

 爆豪くんにちょっかいをかけている三奈が言うと、轟くんが驚いた声をあげた。えってなに。いや……と濁されるけれど、なに。ぷく、とわざとらしく頬を膨らませて立っている轟くんを見上げた。目が合うとパチパチと瞬いて、それからふ、と表情を緩める。

「かわいいな」
「え……ありがとう」

 褒めて欲しかったわけではないんだけど、なんか褒められちゃった。まあ褒められて嫌な気はしないのでいいけれど。

「おォい! 清しこの夜だぞ!! いつまでも学業に現抜かしてんじゃねーー!!!」
「斬新な視点だなオイ」
「アッハッハ! 私そういうの好き」
「……! なら付き合ってくれェ!」
「急だな」
「あっはっは! ごめんタイプじゃない」
「ちくしょうがァ!」

 サラッと告られたのでサラッと振った。峰田くんの付き合ってくれはイコールヤラせてくれなので……。切島くんがポン、と峰田くんの肩に慰めるように手を置いたけれど、今の発言は慰める価値はないと思う。

「まァまァ、峰田の言い分も一理あるぜ」
「あ、ママ〜」
「ママじゃねェからな、緩名。……ご馳走を楽しもうや!」
「料理もできるシュガーマン!」

 砂藤くんがクリスマスチキンを持って現れる。うわ、めちゃくちゃいい匂いする。お腹すいた。あとで取り分けてもらお。

「めちゃいい匂いする」
「ね! 僕、あんなに大きいチキンは初めてだよ!」
「あらま、いっぱいお食べ」
「自分で作ったみてェに言うなー」
「力道私が産んだから実質そう」
「勝手に息子にされたな」

 マイサン砂藤くんがチキンを切り分けるのを眺めていると、カチャ、と寮の扉が開いた。



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