163



 その後もいくつかお店を見て回って、お昼を少し過ぎた頃。もう少し見て回りたいけれど、一度お昼ご飯を食べよう、とファミレスへ入った。ソファ席にエリちゃんと私、それから向かいに先生が座る。ファミレスも初めてなんだろう、エリちゃんが物珍しそうにきょろきょろと視線をさ迷わせた。少し離れた席、エリちゃんと同じくらいの年の女の子と目が合って、慌てて目を逸らしている。そのまま、少しだけ不安そうに私の腕に引っ付いてきた。同年代の子と絡んでこなかったからだろう。ぽんぽん、と肩を撫でて、メニューを開いた。

「エリちゃん食べたいのあるかな〜?」
「んん」

 ファミレスのメニューのいいところは、写真が載ってるところだと思う。いっぱいある、とエリちゃんが呟いて、小さな手がメニュー表をいったりきたりだ。子どもにとったら初めて見るファミレスのメニューなんて、楽しくて仕方ないだろう。あ、パフェいいな。ここのファミレス、パフェおいしいんだよね。私もそれなりにお腹空いてるけど、やっぱり甘いものに惹かれてしまう。乙女なので。

「パフェ食べたい」
「飯食えよ」
「それ、先生には言われたくなくてウケる」

 先生って私の周りで一番まともな食事を取らない人だ。エリちゃんが来てからは、一緒に食事を摂ることも増えてわりと改善されてはいるけれど、昼はやっぱりよくゼリー飲料で済ませているのも見る。先生なに食べるの、と聞くと、適当に頼む、らしい。適当ってなに。

「あ、やっぱりパフェ心踊るよね」
「うん」

 エリちゃんの手が止まって、ジッ、と見つめているのは、デザートのページだ。ケーキやパンケーキ、アイスは寮でも食べれるけど、パフェとなるとそうもいかない。ランチラッシュに言えば作ってくれるけど、やっぱり外で食べるパフェってまたなんか違うし。

「エリちゃん、そういうのはご飯を食べてからだ」
「はい」

 先生から食育上の注意が入った。まあそう。先生の先生らしさが出てる。

「ご飯終わってから食べれそうなら、半分こにしよっか」
「……うん!」

 それからエリちゃんはお子様プレートを頼んだ。お子様ランチ系も初めてだから、ドキドキするらしい。かわいい。



「ねえ見て、かわいい」

 注文して待つ間に、エリちゃんの髪の毛を結ぶ。ご飯の邪魔にならないように、簡単に低い位置でのツーテールだ。ゴム隠しに細く三つ編みを作ると、めちゃくちゃかわいい。どや、と先生に見せると、かわいいかわいい、と無のまま頷いて、ドヤ顔の私と照れたエリちゃんをパシャリと写真に収めた。
 それから、直ぐに運ばれてきた料理たち。あ、いい匂いする。お腹空いてきた。お子様プレートには、旗の刺さったオムライス、ハンバーグ、コーンスープにサラダが添えられている。

「お子様ランチの旗、昔集めたなあ」
「? これ?」
「うん、それ。ね、先生」
「……そうだな」
「あ、絶対集めてないやつじゃん」
「まァ、人に寄るだろ」

 小さい頃……それも前世なので記憶は薄れているが、多分集めてた、気がする。今世では流石にないけど。私の前にはドリアが、先生の前にはロースカツのお膳となんと追加でハンバーグが。めちゃくちゃ食べるじゃん。しかもご飯大盛り。めちゃくちゃ食べるじゃん……。
 いただきます、と手と声を合わせてご飯に手を付けた。嘘、熱すぎて無理。ちょっと冷まそう。ドリア系って最初アツアツすぎて食べれないことない? 手持ち無沙汰なので、エリちゃんと先生を交互に見る。あ、お子様プレートに付いてるおもちゃあれじゃん。ハピジャム。どうにか旗を崩さないようオムライスを食べる真剣なエリちゃんの眉間に若干皺が寄っていてかわいい。うわ、先生一口でっか〜。撮っちゃお。

「写真撮っていい?」
「言う前にもう撮ってんだろ」
「えへへ」

 だってレアなんだもん。特に気にせずあぐ、と口を開けてご飯を食べていた。こういうの見ると男の人を感じていいよね。普段の先生、霞とか食べて生きてそう感あるし。……ほんとに一口おっきいな。やばい、普段とのギャップでときめいてきた。

「……?」
「あつっ」

 見つめすぎたのか、先生が訝しげな視線を向けてくる。誤魔化すように慌ててドリアを口に入れる。まだ少ししか冷めていなかったそれは熱くて、軽い火傷をした頬の内側が、ジン、と痛んだ。



「パフェってすごい……!」
「りんごだったしねえ」

 12月のシーズナルパフェは、なんとエリちゃんの好きなリンゴだったのだ。初めてのパフェに興奮冷めやらぬエリちゃんは、頬をぽっぽと赤く染めたままご機嫌な様子を現してくれた。かわいい。リンゴみたいになってる。ちなみにお会計は先生持ち。流石に自分の分くらい払うよ、と主張したけれど、額を軽く小突かれていなされてしまった。
 後は食品系とか、パン屋さんかケーキ屋さんに寄りたい。大型ショッピングモール系なら絶対入ってる、輸入食品店とかね、見るの楽しいよね。コーヒーのいい匂いがするお店に入ってウィンドウショッピングだ。かわいいデフォルメのカエルの形をしたグミが、個包装で一列に長く伸びているのがかわいくて、買って帰ることにする。あれだ、金持ちの家にあるお菓子。あとシナモンのクッキー。ロータス超美味い。それから、クリスマスに欠かせないシュトーレンも。シンプルに美味しい。

「あ、エリちゃん」
「うん?」
「これ、リンゴのサイダーだって。後で飲もうか」
「サイダー……」
「シュワシュワするやつ。ね」
「うん」

 エリちゃんといろいろと物色していたら、先生がジッ、となにかを眺めていた。なに見てるの。

「はちみつ?」
「……ああ、いや」
「先生はちみつ好きだっけ」
「俺は別に」
「ふうん?」

 パンケーキでも作るんだろうか。コーヒーに入れる人とかいるしね。私も最近はちみつにハマりかけているからわかる。全部ホークスが悪い。いいはちみつ買ってくれたんだもん。そら美味しいよね。

「あっ」
「ん、どしたの?」
「あれ、デクさんの」
「お、デクくんのですか」

 緑谷くんの、と言われて見たら、最近どこでも人気でなかなか手に入らないらしいヒーローウエハース第何段かがあった。なんでも、オールマイトのキラカードが撮り下ろしラストだから、品薄になっているらしい。緑谷くんが嘆いていたのをエリちゃんも覚えていたんだろう。いいのか、それで。まあ、昨日も手に入らず通販サイトも転売祭りで嘆いていたし買って帰ってあげよう。私、優しいので。ツイステッドワンダーランド。緑谷くんにメッセージを送ったら秒であるだけよろしくお願いします、と返ってきた。ヒーローガチ勢〜。

「これも買っちゃおうか」
「あ……」
「デクくんにね、倍値で売りつけちゃお」
「ばいは?」
「オイ」
「うっそうそうそ、冗談だって」

 戻ってきた先生に睨まれた。冗談だってば。転売、ダメ、絶対。



「んんん〜、つっかれたね」
「はしゃぎすぎだ」

 いくつかの店舗を見て、まだまだ少ないエリちゃんの服も買い足している内に、始めてのおでかけにエリちゃんも眠そうに目を擦り始めた。夕方にもなっていないけれど、もうそろそろ撤収時かな。一度買って預けておいた荷物を受け取って、駐車場の方へと向かう。

「眠いねえ、おいで〜」
「うん……」

 ぐらぐらと眠気に揺れ始めたエリちゃんを抱えあげる。眠すぎるようで、普段なら遠慮を見せるだろうエリちゃんも素直だ。年齢のわりにはまだまだ軽いけれど、とはいえそれなりに重たい。ヒーロー科でよかった。荷物は先生が持ってくれる。重くなったら代わる、と言われたけれど、私だって伊達にヒーローしてないので余裕だ。仮免だけど。ふわあ、と小さく欠伸を零せば、先生までくあ、と口を開けた。移ってる移ってる。

「帰ったらお昼寝かな〜」
「車でも寝るだろ、おまえ」
「んふふ、寝るかも」

 車ってなんか眠くなるよね。駐車場まで着くと、先生が入口まで車を回してくれた。行きは百と響香が助手席は荷が重い、という事で助手席に座ったけれど、帰りはジュニアシートに座らせたエリちゃんの隣で後部座席だ。先生の車とジュニアシート、なんとなく合わなくていい。車の中は暖かくて、穏やかな振動の心地良さも相まって眠気が増してくる。先生には少し悪いけど、冷えたガラスに頭を預けて、目を閉じた。



「ただいま〜」
「おかえりー! 磨ー! お土産ー!」
「おかえり緩名さん!」
「緑谷やる気満々じゃん」

 寮の扉を開けると、三奈と緑谷くんが飛んできた。ウケる。やる気満々緑谷くんだ。

「はい、お土産」
「やったー! アイスケーキ!?」
「ありがとう! こんなに残ってたの!?」

 先生からのお土産はアイスケーキだ。数はあるけど種類は早い者勝ち。ほぼ私とエリちゃんチョイス。三奈と透がアイスケーキの舞を踊って、お茶子ちゃんも巻き込まれている。アイスケーキってあんま食べないよね。それから緑谷くんへのお土産は、少しだけ欠けたBOX買いだ。

「開封式しよ」
「うん……! これ本当に今人気すぎて全然手に入らなかったんだよね……! 特にオールマイトのカードはプレミアが付くくらいだしエンデヴァーやホークスも価値が上がってるし、下半期ビルボードトップテンも勢揃いで、レアリティがカードに寄って分かれてるんだけど、最高レアには複製サイン付きなんだ……! うわあ嬉しいなもう転売が多くて少し諦めてたから、」
「ながーい!」

 長い長い。呪いかと思った。ドンッ、と緑谷くんに体当たりして縺れ込むようにソファ座らせると、うわあ! ごめん! と声を上げた。おもろ。緑谷くんの膝に半ば乗り上げたままウエハースの後ろを見ると、カードの概要が書いてある。うえ、全40種もあんの!? えぐ。しかもシクレまである。えぐい。

「種類多くない?」
「う、ウエハースだから……」
「そういうもん?」

 へえ、と頷くと緑谷くんがひい! と悲鳴を上げる。未だに近い距離には慣れないらしく、自分の顔を庇うように腕で覆っている。耳あっか。ウケる。仕方ないので退いてあげて、代わりに肩を組んだ。微振動。救助訓練とかで近いのはギリ大丈夫らしいけど、こういうのはまだ全然慣れないようだ。初心〜。

「ミルコちょっと欲しい」
「オイラもミルコ欲しい!」
「は〜? 譲らんし」
「子どもか」

 峰田くんとバチると、ソファの背もたれに寄っかかってきた瀬呂くんに呆れられた。子どもだよ。

「ねー」
「ぐえっ」
「わっ、芦戸さん!」

 なぜかムスッとした様子で隣に腰を下ろした三奈が、私の腰を引いてくる。緑谷くんからべりっと剥がされた感じだ。なに?

「なーに」
「なんでもなーい」
「怒ってんじゃん」
「怒ってないし」
「……? どしたの」
「べっつにぃ」

 三奈がぷくっと頬を膨らませて怒りアピールをしてきた。えーなんで怒ってんのこの子。

「磨がアタシに構ってくんなーい」
「ええ?それで拗ねてるの? ふふふ」
「どう思う? 瀬呂」
「あーね。俺も緑谷ばっかに構うのズリィなって思ったわー」
「そーだよねー!」
「えええ? なにごとよ」

 三奈が瀬呂くんに振ると、瀬呂くんも同意した。普段二人にの方がよっぽど構ってると思うんだけど謎だ。まあいいか。膨れたピンクの頬をつつくと、イーッ、と歯を剥いてくる。野生じゃん。

「アイスケーキ食べよー!」
「あはは、せっま」

 透がぴょん、と私と三奈に飛び込んでくる。ぎゅうぎゅうだ。暖かいけど。なんかよくわからんけど構ってちゃん多いな。ごろんと膝の上に転がった三奈の機嫌も、よくわからないけど元に戻ったようだ。よかったよかった。JKの情緒わかんね〜。
 おまけのカードはオールマイトのシクレを引けた。大勝利。



PREVNEXT

- ナノ -