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 先生と心操くんに挟まれて職員室を出ると、オールマイトと緑谷くんにかち合った。出た、隠す気のない二人。そりゃあ聡い人は気付いちゃうよねえ。ベストクレバーな私とかを初めとして。

「おお、お二人さん。相変わらず仲のよろしいことで」
「相澤くん! 違うんだ、これは彼から強引に」

 昼ドラの気配を察知。したけど、先生のサムイ、の一言に一蹴されていた。私が喋れたら嬉々として乗っかってたのに。最近相澤先生に素っ気なく扱われてるオールマイト見てるとなんかこう、クる物があるんだよね。なんか……うん、クるよね。イイ。

「心操くん! たしか前も相澤先生と一緒にいたよね」
「まァね」

 私もいるぞい。心操くんも相澤先生も上に長いのでたぶん見えてないっぽい。悲しみの海に沈んだ私。あ、でもちょうどよかった。

「うわぁ! 緩名さん、いたんだね」
「ん!」

 いたんだよ。ひょこっと間から顔を覗かせると、緑谷くんに驚かれた。ぷん、と怒った顔をすると苦笑いされる。そんな貴方にプレゼント。

「え? どうしたの…タッパーとぽん酢? なんでタッパーとぽん酢持って職員室に……アッ!? 13号先生の道の駅プラネタリウム来場者限定マグカップまで! どうしたのこれ!?」

 いや〜、詳しすぎてこわい。見て、隣の心操くん。ビビってるから。スペキャ顔してる。教室おいといて〜とパシリを頼むと、コツンと後頭部を小突かれた。クラスメートをパシリに使うなって? 立ってるものは親でも使えって言うし……。

「緑谷、早めにアップ済ましとけよ。今日は忙しいぞ」

 先生の言葉に、首を傾げながらもはい! と緑谷くんが返事した。



 心操くんのお着替えを待つ間に、放置していたスマホを見る。今保護フィルムも何もないから落としそうで怖いんだよね。直近では三奈からどこ〜? とスタンプが来ていたので、いねぇよなぁ! とスタンプで返しておく。若干会話噛み合ってはいないが、職員室に呼ばれてるのも知ってるし、いい感じにしてくれることでしょう。数件来ているメッセージを見ていくと、ホークスからも来ていた。うげ、あのデマ記事のやつ、知らせてくれてたんじゃん。それから、容態を伺う内容。とりあえずカノバレすな、とスタンプを送って、高い寿司食べたいと返しておく。秒で既読つくじゃん。これは速すぎるわ。

「お待たせ」
「ぉ」

 更衣室から出てきたジャージの心操くんは、首に捕縛布と、口元にサポートアイテムをかけていた。噂には聞いていたけど、へ〜、初めて見た。いかちい。並んで歩き出すと、落ち着かないのかゴソゴソと首の後ろを気にしている。サポートアイテム、付け方なんかよく分かんないときあるよね。収まり悪いみたいな。耳の前、頬の横あたりにダイアルが、後頭部側にサイズ調整用のベルトがあるっぽい。調整し終えたらしい心操くんが、よし、と呟いた。緊張してる?

「緊張、はそうだな……してるよ」

 デビュー戦だもんね。多分、今日の訓練はヒーロー科への試験的な意味合いもあるんだろう。心操くんの個性、ヒーローとしてめちゃくちゃ有用だけど、攻撃力に富んでいるわけではないもんなあ。でも、そのための先生との特訓だ。個人戦とはまた立ち回りが違うから、心操くんの実力が通用するかは私も分からない。まあでも、心操くんなら大丈夫でしょ。私の直感がそう言ってるし。激励のために、心操くんの腕にズン、と肩をぶつけた。

「歩きにくい」
「ふん」

 どこまでもまとわりついてやる。ずんずんずん、と斜め歩きになりながら身体をぶつけていると、呆れたように笑われた。レア笑顔〜キラキラ箔押しブロマイドにして保存したい。硬質ケースデコってちゃんとかわいくするから〜。

「あれ?」
「ん!」

 バス停に止まっているバスを心操くんが指差す。そうそう、アレ。敷地内のバス移動、飛行機乗る時みたいでちょっとワクワクするから好きだ。慣れたけど。
 バスに乗り込んで、心操くんの隣に腰を下ろす。A組で乗る時の癖でぎゅうぎゅうと心操くんの身体を押すと、不思議そうな顔をされた。ごめんて。

「……前から思ってたけど」
「?」
「緩名って、距離近いよね。ヒーロー科ってみんなそんななの」

 ……そうだよ! と返しておいた。



 バスから降りて集合場所へ歩くと、もう両クラスとも集まっているようだ。遠目からでも賑やかパーティしてる。合流する前に心操くんが先生に捕まったので、その後ろを歩いた。先生もデカいし心操くんもまあまあデカいしブラド先生はもっと大きい。小人の気持ちになってしまいそうだったのでブラド先生に飛び付いた。

「どっ、どうした緩名」
「んー」

 慣れていないブラド先生がオロオロしているのに気にせずよじ登る。あらやだ、めちゃくちゃガチムチだわ。心操くんと先生に助けを求める視線を送っていたものの、無視されている。背中でっけ〜、腕回らん。いいな、ガチムチ。ガチムチって、いいな。相澤先生も筋肉あるけど、見た目にはひょろっとしてるように見えるしなあ。スカートなので流石に肩車は不味いし、校長先生みたいに肩の上に乗るとブラド先生も気にしないことにしたのか、膝のあたりに手を添えて支えてくれたまま先生達に合流した。流石ヒーロー、適応力が早い。

「そして今日! AVSB! 初めて合同訓練!」

 物間くんのクソデカ大声が聞こえる。元気〜。またなんかバトってんのかな? 一人相撲だけど。止めるためだろう、いそいそと近付いていく一佳が見えたけど、その前に先生の捕縛布が飛んだ。

「僕らがキュ!!」
「黙れ」
「ものまァ!」

 ウケる。黙らせ方ヤバくない? 肩乗りブラキンしたまま姿を現すと、クラスのだいたいにあっ、という表情をされた。やほ、と片手を上げておく。

「今回特別参加者がいます」
「しょうもない姿はあまり見せないでくれ」

 既に手遅れな気がする。私も含めて。

「特別参加者?」
「倒す」
「女の子!?」
「一緒に頑張ろうぜーー!!」
「アレが一番やばくない?」

 瀬呂くんに指を指されたので、指先の射線からひょいと退いておく。無邪気な少女だもん。先生の視線が一度ギロッ、とこっちを睨んだので、顔を逸らしておく。まじすんません。

「ヒーロー科編入を希望している」
「あ」
「あ」
「普通科C組心操人使くんだ」
「あ〜〜〜!!!」

 うるさ。



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