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ごめん、同窓会には行けません。私は今、福岡にいます。
ビルボードチャートの発表から数日、少し久々なインターンにお呼ばれして、遥々福岡へ。エンデヴァーさんと一緒に来たけど、今回のインターン先はエンデヴァー事務所ではない。新幹線の中では爆睡して気付けばエンデヴァーさんに若干めり込むぐらいもたれかかっていたり、スゴクカタイアイスをエンデヴァーさんにふやふやに溶かしてもらったりとある種のトドロキメモリアルをしたけれど、それは割愛。
「いや〜初めまして、ビアンカちゃんだっけ? 知ってると思うけどホークスです。よろしくね」
「……よろしくお願いします」
「アレッ怖がられてる? なんかしちゃいましたかね俺」
「ヘラヘラしてるからじゃないのか」
「ははっ性分なもんで」
差し出された手を、エンデヴァーさんの陰に若干隠れながら緩く握り返す。ホークスさん、未だに若干ヒーローに疎い私でももちろん知っている。最速のナンバー入り、速すぎる男。つば九郎と敵対しているらしいよ。わりとフレンドリーというか、人懐こいというか、そういうタイプに振舞っている自覚はあるけれど、ホークスさん、なんかよくわからなくてよくわからないんだよね。よくわかんなくない? だって。体育祭後に指名を貰っていたわけでもなく、私と個性に興味を示していた様子もないのに、この謎タイミングでのインターン依頼。しかも結構直前に。うん、わかんない。あと声が、なんかほら、僕最強だからとか言いそうな感じの胡散臭さがあるじゃん。
エンデヴァーさんとのチームアップだと言うし、ここ数日、花粉症かと思っていたけれどどうも胸騒ぎがする。女の勘ってやつ。
「まァ話は歩きながら」
ぎゅ、とエンデヴァーさんの腕を持ちながら、ホークスさんに付いて歩く。ホークスさんがいくら怪しいとは言え、福岡だ。ご飯が美味しい。ちょっと楽しみだ。あとコスチューム。冬仕様でコートがモコモコになって、新たなパワーアップもしてる。保温効果高くてちょっと暑い。
「エンデヴァーさん、ビアンカちゃん、好きな食べ物とかあります?」
ドドドド、とホークスさんの羽がひとりでに突っ込んで、露出狂をあっという間に制圧した。すごいな、ノールックだ。
「そこの水炊きスゲー旨いんですよ。鳥の味がしっかり出てて。重いですかね、腹減ってます?」
全く返ってこない反応も気にせず、ホークスさんは息をするように個性の羽で道行く人たちを助けていた。これがNo.2。なるほど、納得すぎる。実力はめちゃくちゃすごそうだ。
現トップとNo.2の街ブラ、目立たない訳もなく。ホークスさんはあっという間にファンに囲まれている。
「……本当になにかされたか」
「んーん、なんもされてない。大丈夫」
「そうか。……おまえは、アイツとは気が合う方だと思っていたが」
「え〜、私ヘラヘラしてる?」
「ああ」
「してたわ」
普段よりしょんもりしてる私に、エンデヴァーさんからお気遣いが。あっだめだな、仕事だ。ちゃんとしなければ。中身もしらないのに額面だけで胡散臭いな〜って思っちゃうの、ダメだよなあ。うし、と気合いを入れ直していたら、ヒソヒソと一般の人達の声が聞こえてきた。
「エンデヴァーだ……!」
「顔こわかー」
「パパ活やろか」
「あれビアンカ? 雄英の……」
「貫禄というか……圧が強かね……」
パパ活。私とエンデヴァーさんが並ぶとたまに言われるけどめちゃくちゃ面白いな。いや、エンデヴァーさんからしたら笑い事じゃないかもしれないけど。小さく身体を震わせて笑っていたら、呆れたような、咎めるような声で名前を呼ばれた。ごめんて。
「おまえサイン貰ってこいって」
「いややし」
「好きって言っとったやん」
「好きやけど! 違うやろ!!」
どうやらエンデヴァーさんのファンがいるようで、気付いたエンデヴァーさんが近付いていった。いいじゃん。かわいい。おっきな大人の微笑ましい第一歩にくすくすと笑っていると、あの〜……、と声がかけられた。
「はーい?」
「あの、緩名さ……ビアンカさんですよね、雄英の」
「そうですよ〜」
「アッ、あ、その、うわかわい……あの、応援してます!」
「おれっ、僕も!」
「わあ、ヒーロー名まで覚えててくれて嬉しい。ありがとうございます」
「ヒエッ……」
「アッアッ死んだ、アッ、むりしんだ……」
声をかけてくれたのは、男女の二人組。インターンでの活躍は取り上げられてもネットニュース程度で、体育祭での知名度には劣るながらも、ヒーロー名まで覚えてくれているのは素直に嬉しい。そっと二人と握手すると、限界オタクみたいな反応をされた。限界オタク、みんなかわいいよね。
「ハハハハ」
ファンサービスをいくつか終えて、場所は焼き鳥屋さん。タレの凄くいい匂いがする。隣にいるエンデヴァーさんは火の匂い。
「そりゃ言われますって、キャラじゃないですもん」
「鳥刺し頼んでいい?」
「好きなの頼んでいいよ。あ、もう食べないならもらっていいです?」
「……卑しいな」
「欲しいと思ったらどうにも我慢できない性分で」
「あまおうシャーベットも頼も」
「さっきアイスを食べただろう。腹を壊すぞ」
「焼き鳥で胃があったまったから大丈夫」
「マイペースだな〜」
会話の内容、どうやら私に向けられているわけではないっぽいので食べたいものを食べる。あとごまさばととんこつラーメンと梅ヶ枝餅と、福岡じゃないけどついでに馬刺しも食べたい。今回のノルマは大変だ。
「体育祭の後もね! 息子さん指名してたんスよ、俺」
「あ、ネギま欲しいです」
「ハイどーぞ。No.2の息子って肩書きがもう欲しいじゃないですか」
ひょいパク、とエンデヴァーさんの食べない焼き鳥を攫うホークスさんから、ネギまを奪い返す。まるでエンデヴァーさんを苛立たせようとしてるような発言の意図は全然見えない。ビルボードチャートの時も、不遜な発言をしていたし。まあ私はこの二人の関係も何も知らないから、深くは突き詰めていかないけれど。
「そろそろ本題を話せ」
「“噂”ですか?」
噂? 私は今回のインターンで呼ばれた内容も、ほとんど聞いていない。ただ、相澤先生が少し渋っていたことだけ、知っている。
「改人脳無。連合が持つ悪趣味な操り人形」
脳無……連合関係か。マジか〜私それすら聞いてなかったんだけど。そりゃ先生も渋るよね。でも、エンデヴァーさんも言うように、AFOと共に神野の格納庫を抑えて以降は、その姿は確認されていない、はずだけど。どうやら、脳無の発見の噂が立っているらしい。にしても、ガチ噂かい。
「会計だ! 俺は帰る! 緩名も行くぞ!」
「ぉわわ」
エンデヴァーさんに引っ張り立たされて、たたらを踏んだ。ホークスさん、エンデヴァーさんの神経を逆撫ですることに全力尽くしてんのか? ってくらいの話口をするな。とはいえ、火のないところに煙は立たない、とも言うしね。
「待って下さいよ、聞いて下さい。つーかね、脳無の目撃談はここだけじゃないんですよ。知らないでしょ」
全国で、ニュースや記事になるほどではないが、井戸端会議程度の会話の中に出現しているらしい。ホークスさんが警察とひそかに連携して調査したらしいが、確度はゼロ。ホークスさんの推測では、どっかのアホが不安を煽るために目情を流して、不安が全国に伝播してるのでは、ということらしい。……ん、段々頭混乱してきた。エンデヴァーさんと、それからこのタイミングで呼ばれたってことは、おそらく私にも。何をしてほしいのか、何を求めてるのか要領を得ない。
「……もったいつけるな! 結局何がしたいんだ貴様は! 結論を言え」
「わあ、吠えた」
「No.1のあなたに頼れるリーダーになって欲しい! 立ち込める噂話をあなたが検証して、あなたが「安心してくれ」と! 胸を張って伝えてほしい! 俺は特になにもしない!」
「えっ」
なんだそりゃ。なにやら長々と語ってくれたけれど、ホークスさんによるエンデヴァーをプロデュース。のコーナーだったらしい。なにそれなんだけど。ヒーローが暇を持て余す世の中にしたい、とホークスさんが言う。それには同意、だけど。
「……私は?」
「ああ! ビアンカちゃんは、直接脳無を見たことが何度かあるから信憑性のためと、万が一、億が一実際に出現した場合守りやすいからやね」
「えっ選出方法雑」
「君が一番インターン呼びやすかったんよ」
「うせやんそんなことありますのん」
はあ〜。まあ、脳無を雄英、神野と二度拝んでいて、且つ後衛でなるべく邪魔にならない、しかも色んなヒーローのインターンを受けている。たしかに、その条件なら私が呼ばれるのも分かるか。少しの緊張はなんだったんだ、と力を抜こうとした時、何かが迫ってきた。
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