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「雄英で預かることになった」
「近い内にまた会えるどころか!」
「エリちゃんおはよ〜」
「おねえちゃん、おはよう」
11月下旬。放課後呼ばれて教員寮に向かうと、エリちゃんがいた。私は知ってたんだけどね。なんせエリちゃんとマブなので。先生は緑谷くん達になにやらお話、おそらくエリちゃんを預かる経緯だろう、があるみたいなので、ねじれちゃん先輩とエリちゃんと遊んで待っておく。
「ツインテールかわいいね」
「おねえちゃんもおそろい、する?」
「えっ」
「私結ぶよー! 磨ちゃんおいでー」
「あっはい」
ツインテール、いや女子高生だからまだ全然許されるんだけど、前世分の年齢乗っけると若干キツいんだよね。いや、全然いけるけど。最近のエリちゃんはおそろい期みたいで、ことある事におそろい? と聞いてくる。かわいい。あるよねそういう時期。おいで、と先輩に呼ばれるともう上下関係のヒーローの世界だ。大人しく座して、髪の毛が結われていくのをただ受け入れながら、エリちゃんとあやとりした。
「見てみて、うさぎ」
「わあ! 磨ちゃん凄い器用だね」
「すごい」
「エリちゃんもやってみる?」
「うん」
うさぎは1回覚えてしまうとわりと簡単だ。なんであやとりかって? そこに紐があったから……。
「できたよー! うん、すっごくかわいい!」
「かわいい」
「ワア、アリガトー」
ねじれちゃん先輩による、綺麗なツインテールが爆誕した。うん、いや、かわいいんだけどね。精神的なアレがアレなんよ。こうなれば道連れだ、と先輩の髪の毛もツインテールにしようとしたところで、外に出ていた先生からお呼び出しがかかった。
「緩名、おまえも寮に帰れ」
「ん、なんか用事?」
「ああ、来賓だ」
「?」
それは聞いてない。
「え! どしたんその頭! かわいいー!」
「すごくかわいいわ」
「オオ、俺もいいと思うぜ!」
「純粋に褒められるとむず痒くなっちゃう……」
エリちゃんとお揃いなの、と言うと、ああーと一斉に納得された。似合ってはいるにはいるんだろうけど、低い位置ならまだしも高い位置でのツインテールは少し落ち着かない。まあいいか。
「来賓ってだれだろ?」
「ね、何の用事なんだろう」
寮に着いたが、まだその来賓の姿は見えない。とりあえずなんか飲も。金木犀の香りの紅茶を入れて、ソファへ向かう。
「つめてー」
「おっいいぞー」
「なンでこっち来んだあっち空いとるだろが」
「ここがいいもん」
ふー、と紅茶を冷ましながら、爆豪くんと切島くんの間に詰まった。みっちり。
「いい匂いすんな、なんだ? それ」
「これね、キンモクセイのお茶」
「へー」
「飲む?」
「お……っ、いや! 大丈夫だ!」
「そう?」
渋みが少なめで、香りは甘いがスッキリしていて飲みやすい。秋になると金木犀の香り嗅ぎたくなるよね。雄英、敷地が広いからいろいろ植わってていい。
「なんだこの頭」
「かわいいっしょ」
「3割増バカ」
「バカっぽいとかじゃなくて言いきられちゃった」
くい、と爆豪くんがツインテールの片方を引いてくる。構われたがりの猫ちゃんみたいなことやめい。くいくいと引かれるのを放っておいたら、なにやら編み出している。爆豪くんのこういうとこかわいい。かまちょじゃん。
「おー、バクゴー器用だな〜」
「えっほんまや爆豪くん三つ編みうまぁ!」
「これぐらい誰でも出来ンだよ」
「なんだよおまえズリィぞ爆豪! そうやってモテようとしてんだろー!」
「アホか」
根元から編まれた三つ編みを、ぐるんと巻き付けてお団子にされる。百がどうぞ、とアメピンとUピンを差し出してくれたので、受け取った爆豪くんがそれで固定した。なんでお団子にされてんの。めちゃくちゃ暇だったんだな、爆豪くん。
「逆」
「はあい」
コツン、と頭を小突かれて逆を向く。あっという間にツインテがお団子に変わった。ヘアアレンジ上手かっちゃん。あっラーメンになっちゃった。
「どう?」
「まァまァ」
「かわいいですわ!」
フン、と満足気に鼻を鳴らして、興味を無くしたみたいだ。自信作ですってか。カワイイカワイイ、と褒められるので、いいんだけども。
ツン、と尖り気味のお団子は、若干猫耳のようにも見える。あれ、ワイズマンに洗脳されたちびうさのお団子みたいな感じ。例えが年代物なんだよね。
「あ! 来たぞ皆! お出迎えだ!!」
そうしてわちゃわちゃしていると、寮の扉がガチャっと開いた。
「煌めく眼でロックオン!」
「猫の手手助けやってくる!」
「どこからともなくやってくる」
「キュートにキャットにスティンガー!」
ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ! と懐かしの合いの手で現れた、ワイプシの皆さんだ。ワイプシだったんだ〜。
「プッシーキャッツ! お久し振りです!」
「元気そうねキティたち!」
虎さんが守ってやれずすまん、と頭を下げてくれたけど、意識は謝罪よりもにくきゅーまんじゅうだ。ごめん。あとマンダレイさん、大人の魅力に溢れすぎている。好き。
「にくきゅーまんじゅー」
「にくきゅーまんじゅ〜」
「にくきゅーまんじゅー!」
にくきゅーの形をした、ぷにぷにの1口サイズのおまんじゅうだ。白、ミケ、黒、とある。かわいい。砂藤くんがお茶を用意して、机とソファをどうぞどうぞ、と差し出すけれど、お構いなく、とアワアワされていた。
どうやらワイプシのみなさんは、活動復帰のご挨拶にきてくれたらしい。にくきゅううま。餡子だ、中身。これなんだろ、栗餡かな? 秋めいてる。ラグドールの個性は、残念ながらまだ戻っていないようで。AFOの、良い個性を見ると奪いたくなる、と言う発言に、少し背筋が震える心地がした。
「……では何故このタイミングで復帰を?」
百の疑問に、すぐに答えが返ってきた。
ヒーロービルボードチャートJP。の下半期。まだ発表は後日だが、ワイプシは前回から順位を落として411位。全く活動をしていないにも関わらず、支持をしてくれている人がいる。そのために、復帰を決めたらしい。
「そういう事かよ! 漢だワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ!」
くぅっ、と切島くんが男泣きした。でも、なるほど。ビルボードチャートかあ。不動のNO.1、オールマイトがいなくなってから、初めてのビルボード。その結果は、どうなってるんだろう。いろいろと、そりゃあもういろいろとあったから。もの思いに耽りながらもきゅ、とにくきゅうを頬張った。
「緩名それ何個目?」
「3」
「やべェ早く食わねぇと緩名に食い尽くされる!」
「いいって言ってくれたもんもんもん」
どれ食べようか迷ってたら、障子くんが半分こしてくれたんだもん。人を食いしん坊みたいに。ねー、と首を傾げると、ぽんぽんと障子くんに背中を優しく叩かれた。基本的にクラス内甘いもの優先順位が高い。女の子って、楽しい。𝑪𝑨𝑵𝑴𝑨𝑲𝑬 𝑻𝑶𝑲𝒀𝑶。
「ところで緩名キティはなんで猫耳?」
「入隊希望かしら」
「アチキは大歓迎ー!」
「なかなかの骨ありそうな奴だ。我も問題ない」
「や、爆豪くんの気まぐれです」
奇しくもワイプシのコンセプト、猫とねじれちゃん先輩アレンジド爆豪くんの髪型がマッチしてしまった。どんな奇跡? 偶然の一致か運命の合致じゃん。いったいどうなってるんダヴィンチ。このままだとワイプシに引き抜かれてしまう。卒業後の進路安泰内々定は悪くないけどにゃ。
「猫みてぇだな」
「ね、偶然にもコンセプト被り」
さわ、と轟くんがお団子を緩く触った。三つ編みのでこぼこした感触を確かめるように撫でている。ぼこぼこしてるの楽しいよね、分かる。分かるんだけど、撫ですぎじゃない? 轟くんの場合は下心のない情操教育なので、見守り体制ではいるけど。いい、いっぱい触って大きくなれよ。
「おまえの髪型、いっぱいあっていいな」
「長いからね〜」
するするとお団子を撫でていた指が、結び目から下がって、うなじの後れ毛を撫でた。指先にくるくると巻き付けて、離して、を繰り返す。ふ、と変化の薄い轟くんの表情が、ほころんだ。
「好きだ」
整った薄い唇から、こぼれ落ちるように出た言葉。騒がしい空間で、小さなその音を拾ったのは、私以外いないようで。
「……かわいいな、髪」
「かっ……そ、そうだよね〜!」
びっくりした。一瞬、マジで告白されたのかと思った。髪か、髪型の話ね。そういえば、ちょっと前に轟くんと好きな髪型の話とかしたような気がする。それに対するアンサー、とかなんだろうか。いや、びびる。心臓バックバクしてる。だって、あんな綺麗な顔で、あんな綺麗に笑われたら、えっ私のこと好きなん? って思うじゃん。マジでびびった。長男じゃなかったら我慢出来なかった。長男じゃないけど。
「轟くん、ほんと、注意してね……」
「お? なにをだ」
「そういうとこ」
「ああ、分かった」
絶対分かってない。
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