10
「始めようか有精卵共!! 戦闘訓練のお時間だ!!」
市街地のような演習場。どうやら話を聞いていると、一般入試はここで行われたみたいだ。飯田くん、ロボットみたいになってる。インテリからロボットへ。ぐるりと皆のコスチュームを見渡していると、峰田くんと目が合った。グッと親指を立てられる。無視。あっ爆豪くんもパツパツだ。パツパツ仲間発見。
屋内での対人戦闘訓練。凶悪敵の出現率が屋内の方が多いのは、まあそうだろう。衝動的にヒャッハーするのなら屋外かもしれないが、計画的に考えて動くタイプだと人質を取ることもあるだろうし、厄介そうだなあ。
「君らにはこれから「敵組」と「ヒーロー組」に分かれて2対2の屋内戦を行ってもらう!!」
「基礎訓練もなしに?」
「その基礎を知るための実践さ!」
まだ入学2日目、お互いの個性についてもよく分かっていない状態だ。教師側も、データ上では知っているが実際どこまで動けるのか、は実践を見るまで分からない。
「勝敗のシステムはどうなります?」
「ブッ飛ばしてもいいんスか」
「また相澤先生みたいな除籍とかあるんですか……?」
「分かれるとはどのような分かれ方をすればよろしいですか」
「このマントやばくない?」
「つかうちのクラス奇数だけど」
「んんん〜〜聖徳太子ィィ!!」
確かにうちのクラスは奇数だ。お隣は20人らしいし、ほぼ間違いなく特別推薦枠なんていう私がいるからだろう。ごめん。
「コンビ及び対戦相手はくじだ! 星マークが一つだけ入っているから、それを引いたらもう一度くじを引き直して、そのチームだけ3人となる!」
アメリカンな設定を読み上げるオールマイト。カンペがめちゃめちゃ小さく見えてかわいい。最初か最後の番号を3人チームにすればいいのにと思ったけど、それもめんどくさかったみたいだ。
「あ、私3人だ」
「緩名少女が星を引いたか! 流石、引きがいいな」
「やっぱ日頃の行いっすかね」
へへ〜、と後頭部を掻く振りをしながら引き直したら、Iチーム。メンバーは透と尻尾の男の子らしい。愛がいっぱいIチームだね、と言ったら微妙な顔をされた。
「作戦会議とかしとく? あ、緩名磨です」
「尾白猿夫です。よろしく」
「磨ちゃん一緒嬉しいー!もう勝てる気がしてきた!」
「はげしいはげしい」
謎に握手した手をぶんぶんと振られる。透毎日元気だね。まだ2日目だけど。
「ましらおってかわいい名前だねえ」
「分かるー! なんか、尾白くん! って感じがしてかわいいよね!」
「かわいい……? は、わかんないけど、ありがとう」
ましらおって響きめっちゃかわいくない? かわいい。透も同意して2人でかわいいかわいい言ってると、尾白くんが少し頬を染めた。その反応がかわいい。
「作戦会議って何すればいいんだろ?」
「とりあえずお互いの個性のとか? と言っても俺は見たまま、『尻尾』だけど」
「私も見たまま、透明化だよ! そういえば磨ちゃんの個性って、強化系なのは分かるけど詳しくは知らないかも」
「あー、私のは、っていってもそのまま、『バフ』だよ」
「「バフ???」」
声が揃った。仲良しだね。
「そ。自分にも他人にも、例えば身体能力、例えば視力、あとは治癒力とか、そういうのを向上出来るの。逆に下げるのも出来るよ〜」
「えー! それって超強くない?」
「そうだねえ、まあ、まあまあ……あ、そろそろ始まるよ」
ほらほら、と2人の肩を叩いてモニターに向き直る。1戦目は緑谷くん麗日さん組対インテリヤンキー組だ。緑谷くんと爆豪くん、なんか食い合わせ悪そうだけど、大丈夫かな〜。爆豪くん見た感じ誰とでも食い合わせ悪そうだけど。
「緑谷くんやるなあ」
奇襲を避け、背負い投げをかました緑谷くんに、おおーと声が上がる。って言うか爆豪くんこわ〜。鬼の形相なんだけど。爆発? 爆破? の派手な個性。身体能力……反応速度も凄い。身体もよく鍛えられてるし、フィジカルも強そう。対面して戦えって言われたら普通に逃げちゃう。逃げる緑谷くんに追う爆豪くん。見てるこっちは一時期流行った青鬼なみのハラハラ感だ。
「爆豪少年ストップだ」
爆豪くんが腕に付いた手榴弾みたいな篭手を構えた。殺す気か、とオールマイトからストップがかかるけど、止まらない。
「おわ」
「わ、大丈夫?」
「んっ! ありがとう」
ドオオ! と響いた轟音に、モニタールームまで振動が響く。油断してたせいでぐらついた身体を、尾白くんのしっぽで支えられた。便利〜! もふもふ! お礼を言ってついでにもふらせてもらいながら、またモニターを見つめた。音声欲しいな〜。もふもふ。
「先生止めた方がいいって! 爆豪あいつ相当クレイジーだぜ、殺しちまうぜ!?」
「いや……」
赤いツンツン髪の上裸の男の子がオールマイトに訴える。確かに。いや、今の当てにいってはなかったように見えるけど、危険な事には変わらない。上裸!?!?
オールマイトに注意された爆豪くんは、さっきの大技は控えて、近接に詰めるようだ。うわ、センス凄いな。
「目眩しを兼ねた爆破で軌道変更。そして即座にもう一回……考えるタイプには見えねえが意外と繊細だな」
「慣性を殺しつつ有効打を加えるには左右の爆発力を微調整しなきゃなりませんしね」
「才能マンだ才能マン。ヤダヤダ……」
悪鬼羅刹のように迫る爆豪くん。圧倒的に強くて勝っているのに、謎に苛立っているというか、なんというか。
「爆豪の方が余裕なくね?」
そう言ったのは誰か、分からないけれど、やっぱりそうだよね。何がそんなに腹立たしいのか、あるいは、恐れているのか。不思議な子だな。
緑谷くんと爆豪くんが向かい合って、危ない雰囲気にオールマイトがやっと、双方に中止を呼びかけた。
「ボロボロの方が勝っちゃった」
ぴょん、と核に飛び付いた麗日さんに、ヒーローチームWIN、とオールマイトの声が高らかに鳴り響いた。
PREV |NEXT