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「ベビーカステラつっくろ〜」
「急にどうした」
「ベビーカステラつくろ〜」
「つくろー!」
「砂藤くーん!」
「分かった分かった」

 お風呂から上がると、会議はやっぱりまだ踊っていた。数人お風呂に行ったりしてるみたいだけど。ピイピイと囀りながら、透と三奈と三人で砂藤くんを捕獲した。スイーツといえばね。飯田くんは、つまみながらの方が効率いいでしょ、で押し切った。余裕。

「何で作るんだ? ホットケーキミックスか?」
「うん」
「ハチミツどぱーってするやつ」
「たこ焼き器持ってきたよ〜」
「お茶子ちゃんありがとー!」
「手伝うか?」
「楽しそうだな」

 ホットケーキミックス、大量に買っちゃいがち。シルバニアとコラボしてたんだよね〜。いっぱいあるの。ハチミツは業務用か? みたいなドデカ蜂蜜がある。流石寮。わいわいと砂藤くんを女子で囲んでいたら、男の子達も寄ってきた。

「文化祭決まった?」
「まーまだまだだな」
「ホットケーキミックスで出来んのか」
「屋台とは味ちょっと違うけど……轟くんベビーカステラ食べたことある?」
「ああ、あれだろ。玉みてぇなやつ」

 玉て。まあ不正解ではない。玉だな。峰田くんの玉とはまた違う玉。

「じゃ、よろしくお願いします」
「おお……いいけどよ」
「丸投げか」
「女王様気取りか?」
「不遜」
「集中攻撃はんたーい」

 わざとらしくぷくっと頬を膨らませると、膨らませる傍からつついて凹ませられた。なにが楽しいのか瀬呂くんや上鳴くんがケラケラ笑ってる。材料は混ぜ合わせるだけなんだもん。なんなら焼くのもめんどくさい。食べたいけど作るのめんどくさい。口だけ出す。
 料理したことあるかと聞いたらないと言うので、轟くんにもさせてみようの時間だ。轟少年レッスンタイム。キッチンまで腕を引っ張って、卵を渡す。ま、料理ってほどのものじゃないけど。

「轟くん卵割れる?」
「やったことねえが出来んじゃねえか? ……お」
「力加減〜」
「ハッ、雑魚だな」

 轟くん、初めての卵割り。有り余るパワーにより失敗。ぐしゃってなってる。あらら。まあ殻まみれだけど卵は生きてるから大丈夫。通りがかったお風呂上がりの爆豪くんに煽られて、ムッとしてシュンとしてた。

「緩名、爆豪がいじめる」
「ちょっとかっちゃん! うちの子を虐めないでくれる!?」
「アァ!? ンだそのキャラ!」

 轟くんがかわいいを仕掛けてきた。かわいい。よしよし、おてて洗おうね〜。爆豪は出来んのか、と無自覚で煽りにいって、煽られた爆豪くんは余裕だわァ! と卵を奪った。

「お」
「ハッ、こんなん目瞑ってても出来ンだよ」
「すげえな」
「てめェとはレベルが違んだわ」

 片手で卵をパカパカ割って、ホットケーキミックスと混ぜ合わせるかっちゃん。ベエ、と舌を出して轟くんに中指を立てている。や〜かっちゃん便利だな。煽ればなんでもしてくれる。流石に人数が多いので、液は数個のボールに分けて作っておく。

「ハチミツいれよ」
「そんないれんの!?」
「やべえ……大丈夫なのかよ……」
「や、ハチミツ少ないとただのホットケーキになるの。まじで」
「そういうもんか?」
「まじまじ」

 ドパァ、とハチミツを入れると数人に目を剥かれたけど、まじで多すぎじゃない? くらい入れた方がいいのだ。経験則。さて、焼いていこう。

「バター塗った方がいいよ〜」
「すげぇ、もう動く気ないって言う強い意思を感じる」
「へへ、動く気はないので……」
「ねえ後でチョコいれよ〜」
「チーズは?」
「おもち……」
「好きにせい」

 たこ焼き器をセッティングしたテーブルの近く、ソファにぐでんと寝転んだ。自室から持ち込んだマカロンクッションを抱き込む。本日の緩名の営業は終了しました。切島くんがたこ焼きのように液を流し込んでいるのを笑いながら眺めていたら、ボスンッ、と私の足がある位置に爆豪くんが座った。タンクトッパー爆豪。ちょっと浮いたんだけど。膝を伸ばして、爆豪くんの膝の上に脚を置く。

「オイ」
「いーやっ」
「いやじゃねえ。人様の上に足乗せんな」
「いーやっやだやだ〜……ァイッ!」
「ハ? 冷てえなクソ」

 足首を掴まれてグリグリと足ツボを押される。ハ? バカ痛い。足ツボやべえ。私健康なのにこんな痛いもんなの? 絶対爆豪くんの力が強すぎるせいだこれ。しぬしぬしぬギブギブギブ。

「かっちゃんマジ無理ギブギブ漏れる」
「汚ェ」
「絶対爆豪くんのせいじゃん」
「楽しそうだな」
「楽しくはない」

 にゅっ、と現れてと上から覗いてきた轟くん。真上から見下ろされるのも怖いわ。なんなのこの人達。あとめっちゃ香ばしい匂いする。お腹空いた。

「第一陣焼けた?」
「ああ、焦げた」
「ウケる」
「焦がしてんじゃねェ!」
「俺じゃねえ、切島だ」

 そりゃベビーカステラでたこ焼き方式導入したら焦げるよ。ベビーカステラじゃなくて半円の物体が平べったい生地にくっついてるような感じ。焼けるの早いからね〜。でもベビーカステラの、丸じゃないカリカリの部分好き。美味しいよね。カリカリのとこ。

「あ」
「お」
「寝たまま食うな、行儀悪ィ」
「あっつ、ふぁ〜い」

 ゴロンとしたまま口を開けたら、轟くんの手で焦げたベビーカステラを口に運ばれる。爆豪くんのこのちょいちょい育ちの良さが出る感じ、ワーッ! てなるよね。ワーッ! ちいかわっちゃん。

「焦げてるわ」
「焦げてんな」
「ヘタクソ」
「ウウッすまねェ……!」
「どんまい切島くん」

 反省して男泣きする切島くん。まあ焦げやすいし、これはこれで。砂藤くんがお手本を見せてくれることでしょうし。アツアツを咀嚼していると、轟くんがジッ、と私を見つめていた。

「なーにー」
「緩名はやらねえのか?」
「えー……だるい」
「そうか、残念だな」
「うあん……」

 そう言って、本当に残念そうな顔をされる。え〜。そんな顔されるとさあ、弱いじゃん。仕方ない。寝転んだまま這いずって、上半身をソファからずるんっと下ろす。さながらホラー映画の髪の長い女の人だ。息子いる方。こえーよ、と突っ込まれた。

「かっちゃ〜ん。出番ですよ〜」
「誰がやるか」
「どっちが綺麗に焼けるか勝負しよ」
「上等だてめェ……完膚なきまでに叩き潰してやンぞオラァ!」
「爆豪もまあまあ単純だよな……」

 ね。私もそう思う。
 多分八百万印のキリを受け取って、よし、とたこ焼き器の前に位置取った。半円の八割くらいまで注いで、ちょっと待つ。チョコ入れよ。砂藤くん提供のチョコチップがある。ナイス〜。

「わ、磨ちゃん上手〜!」
「あーそうやって1個にすんのか」
「そうそう」
「爆豪くんもめっちゃ上手や……!」
「顔に似合わず綺麗に焼くな〜」
「殺すぞアホ面」

 プス、と手に持ったキリを挿せば、もう良さそう。第二陣だからね。鉄板が温まってるから焼きやすいのだ。

「はい綺麗〜完璧〜私天才〜」
「俺のが綺麗だわ」
「張り合うなよ」
「何やってるの?」
「あ、緑谷くんたち」

 男子お風呂勢も帰ってくる。濡れても緑谷くんの髪は増えない。たまに湿気で爆発してるの見るけど。私と爆豪くんのベビーカステラを見せて、どっちのが綺麗!? と詰め寄った。

「え、ええ〜……どっちも上手だよ……」
「ァアデクてめェコラふざけんのか!」
「恐喝っちゃんだ……うわっ」

 恐喝っちゃんめっちゃうまくない? って思ったんだけど、爆豪くんに頭を鷲掴みにされて脳みそシェイクされた。ひど。もう勝負飽きたし食べよ。メイプルに塩を足して食べる。うめ〜。

「で、役割だいたい決まった〜?」
「バンド隊は決まってるけど、あとは演出とダンス隊かな。あ、磨はダンスね」
「わあ、決定権なかった。いいけど。……でも私演出の方が向いてない?」
「や、顔採用」
「あ、顔採用ですか。ありがとうございます」

 顔採用らしい。有無を言わさずダンス隊に組み込まれた。いいけど。
 結局、全役割決定までに、夜中の二時手前までかかった。長。



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