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 眠い。よし、まだまだ長引きそうだしお風呂行こ。何人か誘ってこ〜。大半がそうだけど、私もまだ制服のままなんだよね。スカートのままアルゼンチンバックブリッカーキメられんのわりと面白い。ヤバめじゃんね。障子くんの腕が丁寧に私を抱き上げて、地面へと下ろしてくれる。目を擦りながらぺたぺたと三奈の横まで行って、裾を引いた。

「お風呂行こ〜」
「……ハ?」
「はあ?」
「……ハア!?」
「え、なに」

 なんか一瞬静まり返って、それからハア!? と大声が帰ってくる。なになになになに。こわいこわい。原因分からないのが余計怖い。全員黄色いウサギになっちゃった?

「ンで俺に言うんだボケ女!」
「そうそうそうそう、緩名どうしちゃったの!? 爆豪と付き合ってんの!?」
「ダメだぞ緩名くん! 寮内でそのような……不健全だ!」
「えーっ磨いつから!? いつから爆豪と……仲良いもんね!?」
「はあ? ……あっ、ああ」

 畳み掛けられるように言われたので気付いた。三奈の服を掴んだつもりが、逆隣の爆豪くんの裾を掴んでいたみたいだ。眠いと思考鈍るよね。右と左たまに分からん。はは、うっかり〜。

「まちがえちゃった」
「ボケてんのかクソボケ女!」
「びっっ……くりしたあ! 心臓に悪いボケやめろよなー!」
「勘違いなの? 残念〜」
「ちょっと間違えただけなのに……」

 めちゃくちゃみんなにガアッと責められる。ちょっと間違えただけじゃん。ムッとすると、梅雨ちゃんと百が私を囲んで、宥めるように頭と背中を撫でられた。わざとらしく頬を膨らませて、ふてくされる。

「ちょっとお疲れなのよね、磨ちゃん」
「そうですわ! 最近の磨さんはいつも忙しそうでしたから……間違えることくらいありますわ」
「え〜ん梅雨ちゃん、もも、みんながいじめる〜」
「お可哀想に……」
「いい子ね、磨ちゃん」
「幼児帰りしてね? あいつ」
「いつもだろ」
「そうだわ」
「え〜ん」
「皆さん!」

 私よりも小さい身体に抱きつくと、よしよしと梅雨ちゃんの大きな手が頭を撫でる。え〜ん。泣き真似をするとケロケロと笑いながら撫でられた。落ち着く〜。ワッハッハ、と笑い声を上げるみんなに、百がプリプリしていた。茶番飽きてきた。お風呂行こ。

「お風呂いこ」
「オイラも……ブフッ」
「ダメよ、峰田ちゃん」
「いい加減ダメだぞオメー」

 峰田くんは瀬呂くんがテープで捕獲していた。便利だな〜瀬呂テープ。ひとまず一旦お風呂だ。はよ。



「は〜あぁ……」
「磨ちゃん、お風呂で寝たらあかんよ」
「ん〜……」
「眠そうだねえ」
「ん゙ん〜」

 微睡んだ頬を三奈につんつんされている。つんつんすな。結局女子全員でお風呂だ。仲良きことは美しきでしょ。いーやー、と首を振るとケラケラと三奈が笑いながら高速でつついてきた。悪化。

「最近とっても忙しそうね」
「ん〜……ぼちぼちぃ……」
「でも肌とかめっちゃ綺麗だよねー」
「ホント、スタイルも崩れないし……まあ磨あんま食べてないけど」
「や〜……食べてるよお〜」
「ミスコンもあるしメンテナンスもしなきゃね〜!」
「あ〜……」

 ミスコン、そう、ミスコン。やるからにはそれなりにねえ、頑張りたい気持ちはある。そりゃ目指すはトップだもの。

「ミスコンってなにするん?」
「なんか毎年、短いアピール時間にみんな詰め込んでるみたいだよー」
「磨ちゃん、校内にもファンいるものね」
「ファンクラブあるしねえ」
「……え、ファンクラブ?」

 なにそれ、聞いてないんだけど。そりゃインターンでネットニュースになることもたまにあるし、保健室であれこれしてるし、見目もいいから、校内での知名度と好感度はなかなか高い自負があるけど、ファンクラブとか一切聞いてない。なにそれ。

「あれ、知らない?」
「知らない〜! なにそれ、祭り上げられる私が聞いてないんだけど」
「言い方」
「雄英の天使を崇める会みたいなの、出来てるよ」
「宗教団体?」

 団体名怖すぎるんだけど。崇められんの、私。天使は否定しないが。

「まあ……天使ではあるけど……」
「奢りじゃん」
「事実だも〜ん」
「磨は天使より小悪魔よりじゃない?」
「それもかわいいからいい」
「いいんかい」

 天使より小悪魔のほうがなんかかわいい感じしない?

「保健室行けばたまに磨がいるから、レアって言われてるよね」
「リアルガチャじゃん」
「磨さん、既に人気で素晴らしいです……!」
「ヤオモモもファンいるしね」
「はああ、すごいねえ」

 私ってURなのかな。高レアならラッキーだわ。ラッキーかな? 話を聞いてみると、ファンクラブとは名乗ってるけど5人くらいのお友達集団らしい。は〜なるほど。ちょっと昔のJKがウチら4虎1! いつめん最強〜! みたいなノリのやつね。名前はカルトチックだけど。とはいえ、プロヒーローデビュー前からファンが付くことはそこそこあることらしい。ヅカとか、そういう系のノリなのかな。なまじ前世の感覚があるせいで、今世でのヒーローの人気っぷりにびびっちゃう。

「若さのノリだな〜……」
「磨ちゃんも高校生よ」
「磨ってたまに大人みたいなこと言うよね」
「まあ前世普通の大人だったからね」
「出た前世シリーズ」
「この前の前世は忍者やったよね」
「その前はスラム街の踊り子だったよ」
「磨ちゃんの輪廻転生激しすぎる!」

 嘘は言ってないんだけど、冗談として流されていく。冗談みたいな話だし茶化した方がいいよね。まあ忍者とかは嘘だけど。ファンクラブがある衝撃で若干目が覚めてきた。やったね。あ、ベビーカステラ食べたい。食べたいわ。口が求めてる。これは食べるしかない。どんっと百に突撃して、肌に擦り寄る。

「磨さん? どうかしましたか?」
「あのね、ベビーカステラ食べたい。つくろ」
「また唐突に……」
「今から!?」
「あーいいねえ!」
「ベビーカステラってどう作るの?」
「お祭りのとかとは味変わるけど、ホットケーキミックスにハチミツ大量にぶち込めばできるよ。あとたこ焼き器とかあれば」
「私たこ焼き器持っとるよー」
「いいじゃん! やる!?」
「やろ〜!」
「またアンタらは……」

 というわけで、ベビーカステラ作りが決定した。だって文化祭の出し物会議、長引きそうなんだもん。なんかつまみながらしたいじゃん。



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