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「うーす」
「補習今日でようやく穴埋まりました! 本格参加するよー!」

 補習分が終わって、寮へ帰るとみんながわちゃわちゃしていた。文化祭関係で最近はわりとずっとこうだ。バンド隊はキーボード百、ドラム爆豪くん、ベース響香で決まったようだ。爆豪くんドラム出来んの? 天才じゃん。あとはボーカルとギター、らしいけど、ボーカル響香でよくない?

「ね、ちなみにだけど磨なんか楽器できる?」
「あー……」
「っていうか磨ボーカルでもよくない?」
「ありあり」
「あ、それはちょっと……」
「普段あんな歌ってんのに」

 楽器、多分練習したら出来んくはないんだろうけど、インターンでちょこちょこ抜ける予定だから、ちょっと練習時間が取れそうにない。あとボーカルもサラサラやる気がない。歌うのは好きだけどそういうのは違うんだよね〜。そういえばミスコンに出るのも言ってなかった。全クラスから出るわけでもないっぽいけど、一クラス一人までだから他に出たい子いたらアレだな。申し訳なさマックスビートだ。ねえねえねえねえとグイグイ頬を擦り付けてくる三奈を抱き締めて、とりゃあとぶん回した。なんか三奈も私と同じように幼児退行してるよね。かわいい。

「なんかね〜ミスコン出るんよ」
「「……ミスコン!?」」
「うわ声デカ」

 みんなの驚いた声が重なった。ハーモニーだね。

「あったの!?」
「えっ超イイじゃん! 見に行く!」
「ありがとう神様……!」

 なんでか峰田くんは神に感謝してるけど、ミスコンってそんな要素あるっけ?

「なんか……流れで出ることに……」
「え〜! 超楽しみじゃん! 手伝いいる? いる?」
「ハイハイハイ私お手伝いするー!」
「私も出来ることがあれば是非……!」
「圧」

 女の子達の圧がすごい。正直手伝いの方が楽しいみたいなとこもあるよね。

「でもそっかー。じゃあ磨、そっちに忙しくなっちゃうね」
「え、当日くらいじゃないの?」
「何言ってるの! ミスコンはね、宣材撮ったり、当日のドレス、ヘアメイク選びに演出の練習とか、いっぱいいっぱいあるんだよー!」
「あ、すみません」
「燃えてるなあ葉隠さん」

 透がめちゃくちゃ盛り上がっている。こういうの好きそうだもんね。押されると弱いんだ。ていうか思ったより大変そうだな〜。演出ってなに。

「ま、それは置いといて……先にクラスの方決めよ」
「それもそだね!」

 ひとまず話は置いておこう。わりと個人のことだし、団体の方が優先でしょ。さて改めてボーカルを、となったところで、お茶子ちゃんがへ? とぽろっと零した。今日なんかお茶子ちゃんロリみが強くてかわいいな。

「うたは耳郎ちゃんじゃないの?」
「あたいもそう思うわ」
「だから何キャラだよ、それ」
「姉御キャラ?」
「いやまだ全然……」

 響香マジヤバ歌うまだし、ベース弾き語りもできるようだし、音楽センスもあるしいいと思うけどなあ。切島くん、峰田くん、青山くんがハイハイ! とボーカルに立候補する。やる気があって大変よろしい。

「かっちゃんドラム出来るんだ?」
「るせェあっち行け」
「コンコンコン! かつき〜雪だるまつく〜ろ〜」
「本格的にうぜえ」
「人の顔見た途端あっち行ってとか言うから」

 みんながわいわいきゃっきゃしているし、まあ多分ボーカルは響香に内定済みだろう。ソファに座っていた爆豪くんに絡みにいく。

「重い退け」
「軽い居座る」
「……ガキかてめェ」

 浅く座った膝の上に上半身を投げだすと、呆れたようにため息を吐かれた。ように、じゃないな。完全なる呆れだわ。うける。切島くんや峰田くん、青山くんが歌ってるのをBGMに、しゅぱぱぱぱぱぱ、と仰向けに寝転んだままシャドーボクシングを放つと、パシパシパシパシと爆豪くんに受け止められる。なんだかんだ構ってくれるからかっちゃん絡みにいっちゃうんだよね〜。こういうとこ優しくて好きだ。

「てのひら見せて〜」
「勝手に見てんだろ」
「ん〜……四月より、ちょっと分厚くなったね」
「まァな」

 手のひらをなぞると、人よりも固い感触が伝わってくる。ヒーロー科に入って、個性の上限を引き伸ばすにつれて爆破への耐性も上がったみたいだ。てのひらカチカチかっちゃん。大人しく私に触られてた爆豪くんが、なんか意味ありげにこっちを見てくる。なーにー。

「どわっ」
「ふっ……」
「……ねえ〜!」

 不思議に思いながらもお触りしていたら、急にヒュンッ、と眺めていた手のひらが迫ってきて、思わず声を上げる。ビビった。寸止めだった。心臓バクバクなんだけど。私のリアクションにウケたようで、爆豪くんがくくく、と顔を隠して喉で笑っている。むっか〜! 身体を起こして、今度はさっきよりも高速で拳を繰り出した。高速猫パンチだ。爆豪くんの膝の上にマウントポジションだし、一発ぐらい当たっても誤射だよね、って思ってたのに、全ていなされた。体術ではまじで勝てんのよ。

「拳に体重が入ってねンだよ」
「え〜難しいんだもん」
「んなペラッペラの身体してっからだろ」
「やん、かっちゃんのスケベ」

 呆れたような目をされる。その視線やだ、なんか目が餃子みたいになってるもん。

「……肩車が好きなんだったなァ?」
「え、なに、肩車? わ、ちょまってストッ……ギャー!」
「オラ、肩車してやったぞ。喜べ」

 肩車じゃなくてこれはアルゼンチンバックブリッカーなんよ。流石に力はかけられてないけど。
 爆豪くんとわちゃわちゃしてたら、響香が歌い出したので、そのまま黙って聴く。この体勢、力かけられないと意外といけるかも。やっぱり歌上手いな〜。満場一致でボーカルが決定して、次はギターだ。

「で!!あとギター!! 二本欲しい!」
「ぐえかっちゃんそのまま歩かないで」
「やりてー!! 楽器弾けるとかカッケー!!」
「やらせろ!」
「俺弦切りそう」

 ズンズンとそのまま輪の中に歩み寄る爆豪くん。私の声聞こえてない? もしかして。ほら見て、何してんのみたいな顔で見られて……ないわ。私達の戯れがわりと日常すぎてハイハイみたいな呆れ顔だわ。あ、障子くんが助けに来てくれそう。助けてくれ。

「やりてェじゃねンだよ殺る気あんのか」
「あるある超ある!」
「かっちゃん私の声聞こえてる?」
「ギターこそバンドの華だろィ!」

 だろぃだろぃ天才的だろィみたいな。近くまで来た障子くんに手を伸ばすと、そのまま抱えあげられる。酷い目にあった。マジで。爆豪くんは抵抗なく私を手放したけど、こっちに全く興味なしなんだけど。プンプンするぞ。おやすみプンプン。障子くんの肩によじ登って、正しい肩車をしてもらう。高〜い。
 峰田くんの落としたギターを拾って、常闇くんがジャラン、と音を鳴らした。

「常闇……!?」
「なんて切ねェ音出しやがる……!」
「弾けるのか!? なぜ黙ってた!?」
「Fコードで一度手放した身ゆえ」
「あ〜Fコードむずいよね」

 わかるわかる。だいたい投げ出す。ということで、ギターは上鳴くんと常闇くんに決定した。初めてのギター、響香は分かるけど爆豪くんに教わるの恐怖だね。私なら絶対笑ってしまう。んふふ、と笑いを零すと、ついでにふわあ、と欠伸が漏れた。もうね、夜なんだもん。そりゃ欠伸も出てくる。

「眠いのか?」
「ん〜……ねむい!」
「部屋に戻っているか」
「んやあ、みんな役割決めないとだしね」
「そうか。最近、緩名はずっと忙しそうだからな。無理はするなよ」
「んふ、眠くなったらここで寝るから大丈夫……あ、お風呂だけ先行っていいかな」
「いいんじゃないか?」

 は〜障子くん優しい。優しさを浴びている。優しさに包まれてるわ。



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