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 というわけで、出し物決めの時間だ。飯田くんの横で書記に務めてる百がかわいすぎる。飯田くんが希望のある人は挙手! というと、怒涛の勢いでみんながこぞって手を挙げた。勢いヤバくて笑う。最早スタンド攻撃じゃん。

「上鳴くん!!」
「メイド喫茶にしようぜ!」
「メイド……奉仕か! 悪くない!!」
「いいじゃん」
「だろォ!? 流石緩名! おまえは話の分かるヤツだと思ってたぜ……!」
「上鳴くんとかかっちゃんのメイド服楽しみだな〜」
「ア゙ァ゙!?」
「えっ男も着んの!?」
「当たり前じゃ〜ん」
「誰が着るかアホ面ァ!」

 上鳴くんが爆豪くんにアイアンクローされてる。ウケる。男のメイド服よくない? 結構好き。ヒーロー科男子みんなほぼ筋骨隆々だけど、そこがまた良いよね。却下されても今度着てもらお〜。楽しみ! 峰田くんのおっパブは提案と同時に吊るされていた。流石梅雨ちゃん、シゴデキだ。そこに痺れる憧れる!

「麗日くん!!」
「おもちやさん」
「かわいい! バター餅たべたいね」
「ね〜!」

 お茶子ちゃん、和み〜。帰ったら寮でバター餅作ろうね。その後も腕相撲大会、ダンス、びっくりハウス、ふれあい動物園、クレープ屋、暗黒なんたらのなんとか、僕のキラメキショウ、コントなどなど。提案盛り沢山だ。みんなやりたいこと多いんだな。私はわりとなんでもいい。飲食系はだいたい最高学年がやるイメージあるけど。

「せんせ〜みのむし〜せんせ〜は〜みのむし〜」
「うるせェ……歌うな……」
「色違いの〜みのむっち〜」
「うるせェ……みのむっちってなんだ……」
「たけみっち?」
「言ってねえ……」
「緩名なにしてんのアレ」
「相澤先生の睡眠妨害」
「恐れ知らずすぎて最早尊敬するわ、俺」

 先生の隣に行ってボソボソ歌っていたら尊敬された。やったね〜。一ランクアップ。歌うと先生が顔を顰めてモゾモゾするのがかわいくて面白いんだもん。いやがらせたのし〜。最低人類。

「緩名くんは何かないか?」
「ん、あら、あたいかしら」
「何キャラだよ」
「あたいはねえ、ファンサ会がいいと思うわ」
「突き通すんだな」
「ていうかそろそろ辞めてやれよ〜、先生嫌がってんぞ」

 ツンツンつついてたら本当のミノムシみたいに先生がうぞうぞ動く。楽しい。切島くんからストップがかかったので、しゃあねえ! と教壇の前へ出た。

「ファンサ会? とは?」
「え? ファンサもらう会」
「ファンサってなんだ」
「お手振りとか指差しとか投げキスとかエアハグとか」

 このクラス、顔面偏差値高いから受けそう。轟くんいたら女性百人抜きでしょ。まあなんも浮かばないから適当言ったみたいなところはある。チェキは撮りたい。青春エモって感じ。

「だって轟くんじゃん。イケメンじゃん。かっちゃんも顔綺麗じゃん。上鳴くんもイケメンじゃん」
「俺ぇ!?」
「女の子かわいいじゃん。私も含めて」
「自分で言うなよ」
「自信しかねぇなアイツ」
「なんか……よくない?」
「なるほど……将来ヒーローになった時のファンサービスの練習にもなるか」
「まあ私の推しは障子くんだけど……」
「……俺か?」

 障子くん、バチクソ最強にかっこいいよね。ね〜。あとかっちゃんにファンサしてほしい。ウィンク出来そう。絶対面白い。適当に言ったんだけど飯田くんにはなんか納得されてしまった。モブおじさんに騙されないように気を付けた方がいいよ。

「……とにかく、一通り皆からの提案は出揃ったかな」
「不適切、実現不可、よくわからないものは消去させていただきますわ」

 そう言って百が容赦なく消していく。チラ、とこっちを見られたので、いいよいいよと頷いた。適当に出した案だしね。クレープ食べたくなってきた〜それかカレー南蛮そば。
 わいのわいの、と盛り上がるけど、みんなが盛り上がりすぎてまとまりがなくなってきた。会議は踊る、されど進まず状態。私も踊っとこ。パパラパ〜。

「参加しないのか」
「ん〜? なんでもいいもん」

 変なのは除外されるだろうし。パヤパヤと手を動かしながら先生の隣に体育座りする。にしてもうるせ〜。座席の位置的にもイマイチ議論に参加出来ていない轟くんと目があったので、おいでおいでと手で呼んだ。先生を挟んだ反対側に轟くんがしゃがんで座る。なんで俺を挟む、みたいな視線を先生に向けられるけど知らんよ。私違うし。

「なにしてんだ?」
「え? 踊ってる」
「そうか。楽しそうだな」
「轟くんは参加しなくていいの〜?」
「ああ、文化祭って何するのかよく分かんねえんだ」
「お」

 なんか久しぶりにこういう轟くん来たな。ちょっとヘビーなヤツ。中学の文化祭は記憶にないらしい。興味がなかったみたいだ。

「ま、なんでもきっと楽しいよ」
「そうだな。……緩名がいれば、楽しくなる」
「う、ん」

 トドロキメモリアル、定期的に入ってくんだよね。轟乱入アピールチャンス! 轟くんの天然に口説かれてる気分になる。みて、先生の寝たフリ。俺を巻き込むなよ……って貝のように空気消してるもん。よし、轟くんのために疑似プチ文化祭するか。

「おそばのクレープ作ろうか〜」
「……そんなのあんのか」
「実際お蕎麦とは全然違うけど……蕎麦粉のクレープ! 今度作ろうか、一緒に」
「簡単に作れんのか?」
「わりと。あとバター餅もつくろ」
「……おまえなんでも出来るんだな」
「それほどでも……」

 凄い尊敬の眼差しで見られた。照れてしまう。マジで大したことないから余計照れる。

「チョコあげる」
「お」
「おいしかったの〜」
「ありがとう」

 ペラっとした薄いチョコなんだけど、コンビニで売ってる中ではちょっとお高めのやつだ。めっちゃ美味しかった。いっぱい食べたら濃すぎて鼻血出そうになる。ぺり、と高級そうな包みを剥いで、轟くんが一口齧った。うめぇな、と零したので、気に入ってもらえたようだ。

「はい、先生も〜」
「お」
「……緩名、寝てる人の口元に押し付けるのはやめなさい」
「ごめんなさ〜い」

 狸寝入りなのは分かってたけど、素直に謝っておく。モゴモゴと咀嚼してくれるあたり好きだよ。かわいい。
 そうこうしている内に、チャイムの音が。もうHRが終わる時間か。結局出し物なんも決まってなさそ〜。

「実に非合理的な会だったな。明日朝までに決めておけ」

 ユラ……、と脱いだ寝袋を小脇に抱えて、先生が立ち上がった。

「決まらなかった場合……公開座学にする」

 公開座学! 逆にありかも。嘘だけど。

「……それも面白いのか?」
「ん……まあ、思い出にはなるんじゃないかな。ある意味」

 多分。



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