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「遅せーーーよバッボーーイズ!!」
「うるさいよ〜」
「プレゼント・マイクと……オールマイト、と緩名?」
「なんでてめェがいンだよ」
「いえ〜い」

 コスチュームのケースを持って寮から歩いてきた轟くんと爆豪くんにピースを返す。うーんいい朝。いっぱい寝た。

「今日の引率は私たちが行くよ」
「イレイザーは昨日の事件絡みで学校をあける事が多くなりそうなんだと」

 そうそう、エリちゃんの事でね。私もちょこちょこだけど着いて行くから、たまにお休みすることになる。インターンで公休使いまくってるから今更だし。

「ンで、なんでコイツがいんだ」
「私? 私はオールマイトと付き合ってるから」
「ハァ!?」
「緩名少女!?」
「うそうそ冗談、軽いジャブじゃん。ねえ?」
「なァ?」
「クッッソうぜェ……」

 ちょっとした冗談をぶち込むと思ったより反応がよかった。このネタ使っていこうかな。マイク先生と小首を傾げ合うと、爆豪くんがイライラして、オールマイトはホッと胸を撫で下ろした。轟くんは……よく分かんない。今日なんかちょっと様子変?

「とにかく……遅刻厳禁。さァバスにお乗り」
「はーい」
「HA! 良い返事だな!」
「でしょ〜」
「コイツら離した方がいいんじゃねェか」
「ウン……」
「早く仮免取ってホップステップヒァウィゴー!!」
「ごー!」

 マイク先生いるとテンションつられて強制的にブチ上げへいへいになっちゃうところある。ごー、と振り上げた手を爆豪くんに取られて、バスへと引き摺られた。私のこと、聞き分けのないベビちゃんか犬だと思ってるよね。
 雄英から出るバスは貸切、私達しか乗客がいない。自由だー!

「ねえねえオールマイト」
「なんだい、緩名少女」
「身長何センチ?」
「私かい? 220cmくらいだったかな」
「でっか〜! 私の2倍〜!」
「いや嘘だろ」
「いつから緩名はそんなスモールガールになっちまったんだァ?」
「四捨五入したらだいたいそう」
「適当か」

 オールマイトの隣に座っていろいろ質問してると、他の席からちゃちゃ入れが飛んでくる。プン。ちゃちゃ入れホリデー。

「ねえねえ〜」
「ハハハ、どうした?」
「オールマイトの年収っていくらくらいなの?」

 シン、と車内が静まりかえる。普段ならツッコミで止めるだろうに、爆豪くんも轟くんも、なんならマイク先生も静かだ。みんな気になってるらしく、聞き耳を立てている様子。オールマイト、さっきまで朗らかパパみたいだったのに、段々冷や汗をかきはじめた。そんなやばいんかな?

「ざっくりでいいから! 億? 億?」
「いや、まああのね、」
「バァカ緩名、てめェオールマイトだぞ? オールマイトレベルなら億なんてくだらねェに決まってんだろ!」
「えー! やっぱそうなの? やばやば!」

 爆豪くんが珍しく少年のように入ってきた。オールマイト好きだもんねえ。マイク先生は全く止める気がないっぽい。困ったように視線をさ迷わせるオールマイトと目が合うも、パッと逸らして口笛を吹き始めた。いや誤魔化し方よ。

「ハア……ここだけの秘密だからね」
「わあい! オールマイトだいすき」
「私の年収は……」

 ゴニョ、と小さい声でオールマイトが放った額に、目がこぼれ落ちるかと思った。マイク先生も顎外れそうな顔してるし、爆豪くんと轟くんの目が尊敬で幼い子どもみたいに輝いてる。夢ありすぎでしょ。トップヒーロー、やっぱやばい。いくらかって? ここだけの秘密なので……。

「オールマイトと結婚しようかな」
「オイ」

 思わず零したひとりごとは、総ツッコミを貰った。



「じゃァ上で見てるぞ!」
「ケッパレよーーヒィア!」
「がーんば〜」

 てってこ講習へ向かう二人を見送ると、ザッ、と階段の上で足音がした。見上げると、燃えている大きな人。

「おや……元NO.1ヒーローじゃないか。焦凍の引率ご苦労」
「エンデヴァー!」
「ちょうどいい……貴様とは……腰を据えて話したいと思っていた」
「エンデヴァーパパだ〜!」
「む……緩名、来ていたのか」
「パパ……?」
「パパ……?」

 ピリッとした空気が一瞬漂ったが、すぐさま蹴散らしていく。だって興味無いし……。パパ発言に、引率の二人が首を傾げた。

「コーヒー買ってくるぜィエ! 緩名、先生と
ちょ〜っと行こうなァ!」
「え〜」
「ハイハイ、行くぞヒァウィゴー」

 マイク先生に肩を抱かれて、方向転換。マイク先生は私と違って空気を読んだ。大人だ。私も中身は大人なはずなんだけどな〜。

「パパって何よ、パパって」
「かわいくない?」
「A-HA、なるほどなァ、他意はねェ訳ねオッケーオゥケー」

 先生チェック入りました〜。マイク先生も相澤先生と似て、ちょっと過保護的なとこあるよね。や、教師としては正しいのかな。

「緩名サン、ちょーっとその呼び方はやめとこうなァ」
「んふふ、先生にも言われた、それ」
「Oh……イレイザーも報われねェな!」

 HAHAHAと笑いながらマイク先生が私の肩をポンポンと叩く。

「じゃあひざしパパ」
「どうしてもパパって呼びたいのな」
「パパって響きがかわい〜」

 そう言うと、マイク先生がサングラスの奥の瞳を細めて、背中をポン、と押された。あなや、失言。あたいパパいないもんね、深読みできる発言になっちゃった。

「ま、程々にしとけよ」
「ん。大丈夫、たぶん」
「Maybeかよ!」

 アウチッ、と額に手を当てるマイク先生。賑やかな人だ。だから相澤先生と仲良いのかも。

「マイク先生、かっこいいね」
「……俺に惚れたらヤケドするぜェ」
「んひゃは、それは面白い」
「ちょ〜っと古かったか」
「かなりね」

 ピッ、とマイク先生が自販機のボタンを押した。あの場から逃げるための口実とはいえ、本当にコーヒー買ってる。私もなんか買おっかな。

「ねえねえ」
「どうしたリスナー」
「自販機って183cmらしいよ」
「マジかよ!」
「相澤先生と同じだね〜」
「そりゃシヴィーな!」

 何がシヴィーのか分かんないけどシヴィーらしい。自販機とマイク先生が並ぶと、マイク先生の方が本当に高かった。すご〜い!

「戻るかァ」
「ね〜おんぶして」
「緩名はいつからベイビーになったんだァ?」
「生まれた瞬間から〜」
「哲学的だぜ」

 ぴょん、と首に飛び付くと、ふらつくことなく支えられる。なんだかんだ運んでくれるんだよね、優しい。ついでにオレンジジュースも買ってもらった。飯田くんリスペクトだ。



「前の方でいっスかね! 見やすいし!」
「なるべく目立たない席にしよう。皆の邪魔になる……」
「焦凍ォオオオ!!」
「うわうるさっ」

 エンデヴァーさんがなんか叫び出した。マジビビり。鼓膜お陀仏で候なんだけど。うるせェ。クソデカ大声のおかげでエンデヴァーさんとオールマイトに気付いた補講生たちが、ワイワイと沸き立つ。オールマイト、さすがカリスマ〜て感じの人気だ。パチパチ。

「エンデヴァーさん声大きいよ〜……」
「む、すまん」
「緩名にはヤケに素直だなァ……」

 マイク先生の背中から降りて、エンデヴァーさん、私、オールマイト、マイク先生の並びで座る。何この並び。私は緩衝材かなんかか? ていうか私も用事あるんだけど。まあいいか。

「あのね〜葛餅美味しかった! みんなで食べた」
「そうか。また来なさい」
「轟くんも食べてたの、写真送ったっけ?」
「ああ、待ち受けにした」
「え〜かわいい」
「緩名少女は随分エンデヴァーと仲が良いんだね。インターン先だったか」
「そう! 最初のね」
「フン」

 私が熱くないようにだろう、炎を収めてくれているのに、オールマイトに対してはつんつんおじさんだ。おもしれ〜。マジかおまえ、みたいな顔でマイク先生に見られている。おもしれ〜。

「写真撮っていい? はいチーズ」

 マイク先生のマジかおまえ、みたいな顔が加速した。ウケる。相澤先生に送っとこ。この前相澤先生の顔面トリミングしてスタンプみたいに貼りまくったら一瞬SNSブロックされたんだよね。相澤乱舞。バカウケた。

「イルカさんかわい〜」
「シャチだよ、緩名少女」
「シャチさんかわい〜」
「なんか緩名いると気ィ抜けるわ」

 チラ、と上を向いたシャチさんに手を振る。補講生がそっちを見てない隙に振り返してくれた。かわい〜! 推す。
 ぼ〜っと上から眺めていると、轟くん、爆豪くん、夜嵐くん、それから知らないギャルっぽいお姉さんだけ分けられていた。仮免講習、傷だらけになって帰ってきてるけど何してるんだろう。これ覗き見れるの、チャンスなんじゃない? ラッキー。



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