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 現場での応急処置が終わって、重傷者と一緒に救急車に乗り病院へ。時間置いたせいで上がっていたテンションがちょっと落ち着いてきた。アドレナリンドバッてたんかな。サーの病室へ案内されると、先に到着していたらしいリカバリーガールがいた。サーのサイドキックの、センチピーダーさんとバブルガールさん。窓から様子が伺えるけれど、眠っているのか、サーは静かに目を閉じていて、沢山の管に繋がれている。

「リカバリーガール、サーは」
「……」

 無言で首を振られる。……そっか。

「言っておくがね。あんたのせいじゃないよ」
「うん」
「自分の力不足なんて、思うんじゃないよ」
「うん。大丈夫だよ」

 怪我をした人、全てを助けられるほど優れているわけじゃないし、そう思えるほど傲慢ではないつもりだ。

「私、外見て回ってきます」
「いいのかい?」
「うん、いいの〜。……また」

 サーのサイドキックの二人へ、ぺこりと頭を下げる。冷たいことを言うようだけど、死に目に立ち会うほどサーと深い関係にあったわけではない。何も出来ない私がここにいては、サーも身内とゆっくり出来ないだろう。扉へ向かうと、ウィン、と開いた向こうから、背の高い影が現れた。

「わ、オールマイト」
「緩名少女! リカバリーガール、ナイトアイは……!」

 びっくりした。サー、オールマイトの元サイドキックだもんね。そりゃあ来るか。これはますます私はいない方がいいでしょ。リカバリーガールに寄っていくオールマイトを視界の端に、外へ出た。
 うーん、にしても。一緒に、と言われて来たはいいけど、流石に病院だとあんまり勝手出来ないしすることがないな。救急車の中で治癒しまくったからちょっと眠気も来てるし。やっぱりサーのとこいればよかったか……いや、それはダメだな。うん。違う。見知ったヒーローでもいたら、治療のお手伝いでも申し出れるんだけど。現場に残っての被害の確認は、敵連合の姿が確認されたから出来なかったしなあ。

「緩名」
「あ、先生。さっきぶり〜」
「何フラフラしてんだ」
「フラフラなんかしてないよ〜。怪我の調子は?」
「五針縫った。平気だ」

 や、安静に、って看護師さんに言われてるじゃん。嘘じゃん。ふん。

「オールマイト、来てたよ」
「サーの所か」
「うん」
「そうか。……おまえはいいのか」
「いいよお。私がいるのも……うーん、うん。なんかやっぱ違うでしょ……わっ」

 慰めるようにぐしゃぐしゃと頭を撫でられた。先生最近私の髪の毛掻き混ぜるの好きだよね。遠慮がなくなったと思えばまあいいのかなあ。無言でぐっしゃぐしゃにされているけど、段々イ〜ッてしてきた。イ〜ッ!

「平気、です!」
「そうか」

 フッ、と鼻で笑われる。も〜絶対納得してない。絶対強がってんなこいつ〜ニヤニヤみたいに思ってるこの人。腹立つ〜。

「も〜〜〜私は怪我人の見回りしてくるからね!」
「おお。行ってこい」
「キーッ」
「なんでだよ」

 おこぷんしながら先生とバイバイして、私よりも先に運ばれていたヒーロー達の元へ。あの場ではある程度の応急処置しか出来なかったからね。結構な規模で怪我人が出たけど、一般市民はかすり傷程度の軽傷者3名で済んだようで、そこはまだ良かった。とはいえ家屋倒壊が4棟。大穴の空いた道路の修復も、少し時間がかかるだろう。後始末も大変だ。

「やほ〜切島くん元気? ……ミイラだ」
「ミイラだよな」
「完全にミイラ。いつかの先生思い出す感じ」
「緩名のお陰でだいたい治ってはいるんだけどよォ」
「ま〜、治したては皮ふにゃんふにゃんのやわもちだから、覆っといた方がいいよん」

 切島くんの病室に入るとミイラがいた。赤い角の生えたミイラ。全身打撲と裂傷だもんね。切島くんの活躍も、なんとなく大雑把にだけど聞いてはいる。ド派手にやってきたなあ。角がピンピンに生きてるのがもはや凄い。うん。特に言葉はないけど、切島くんの前に、握った拳をさし出した。

「ナイスガッツ」
「! オウ! ……ってえ!」
「そりゃ動かしたらそうなるでしょ」
「罠だろ……!」

 体育祭の時のように、切島くんが拳をコツンと合わせ返してくれた。全身ぐるぐる巻き状態で動かしたらそりゃ痛いよ。馬鹿だ。同級生の中だと、一番重傷だったのは切島くんだ。緑谷くんはなぜか無傷。エリちゃんの個性が関係しているかもしれない、と言うのは聞いた。そのエリちゃんも、今は面会謝絶状態だ。

「なんか、短かったけど大変だったね」
「だな。プロの現場はやっぱ違うぜ」

 時間にすると、突入から確保まで約45分。1時間もなかったのに、やたらと濃密だった気がする。プロになったらこういう事も頻繁に、とまではいかなくても、多々あるんだろうなあ。凄いわ、プロヒーロー。

「プロヒーローってやっぱすごいねえ」
「照れるやん」
「ぎゃあ!」
「うおっ……ファット!」

 後ろから聞こえてきた声に飛び上がる。びっくりした。びっくり系への耐性一生付かない気がする。

「ファットさん、お加減大丈夫でした?」
「おお! ビアンカちゃんのおかげでもう全快やで〜!」
「ファット、そんなに痩せちまって……」
「イケメンだからありよりのあり」
「そういう問題か?」
「照れるやん」
「天丼〜」

 結果にコミットしたファットさん、めちゃくちゃイケメンじゃない? かっこよすぎて拝みそう。丸くて大きいフォルムもかわいくて良かったけど。なんて考えていると、ピン、とひらめいた。

「はっ」
「どうした緩名、くしゃみか?」
「なんでやねん」
「おっええツッコミやな〜」
「ほんと? やったうれし〜! じゃなくて」
「なんだ?」
「私天才だから、ファットさんと付き合ったら、丸かわいいのと痩せイケメンの二つ美味しいで最高じゃない? って気付いちゃった」
「照れるや〜ん!」
「ファットさん、天丼は3回までですよ」
「……やべぇ、俺今生まれて初めてツッコミが足りねえって思った」

 切島くんがそうなるって相当じゃん。どちらかと言うとボケ寄りで爆豪くんにボムボムされてるのに。私とファットさんとの相性良すぎるのかもしれん。でもファットさんのスリムフォルムは、基本ピンチの時にしか無いらしい。ピンチの時はあんまりあってほしくないから、丸かわいいフォルムが常な訳ね。それもギャップで最高じゃん。トトロみたいだし。吸着できるんでしょ? トトロいるもん。

「じゃ、私はそろそろ他のお部屋見てくるね」
「お〜。サンキュな!」
「またな〜ビアンカちゃん!」
「またね〜」

 病室から出て、次の部屋へ向かう。天喰先輩はおやすみ中だった。



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